人体

Human body

大自然の叡智の結晶・人体

脳出血の原因は○○だった?!慶應義塾大学医学部教授・川上漸(医学博士)

2022.12.30

Image of a CT brain scan of a Stroke patient with severe headache showing intra cerebral hemorrhage.

中国の道書の抱朴子(ほうぼくし)に、次のような一節があります。

 

欲得長生腸中当清

欲得不死腸中無滓

長生きをしたいと思ったら、腸の中はいつもキレイにしておかなければならない。

不死を得ようと思えば、腸の中に滓(かす=宿便)を滞めていてはいけない。

 

脳卒中は、脳梗塞(のうこうそく)、くも膜下出血、脳出血の3つに分けられます。

脳梗塞とは、脳の動脈が詰まって血液の流れが悪くなり、脳がダメージを受ける病態です。

脳は頭蓋骨によって外力から保護されていますが、頭蓋骨の内側では、外から順番に硬膜、くも膜、軟膜の3枚の髄膜で覆われています。

くも膜と軟膜のすき間は、くも膜下腔と呼ばれていますが、ここには、脳脊髄液という脳を循環している透明な液体と、脳動脈や脳静脈が存在しています。

くも膜下出血とは、このくも膜下腔に出血を起こした状態をいいます。

そして脳出血とは、脳の血管が破れて血液が漏れ出る病態です。

昔から脳溢血(のういっけつ)という言葉がありますが、それは「血が溢(あふ)れる」、つまり脳出血と同義だとご理解ください。

Film MRI ( Magnetic resonance imaging ) of brain ( stroke , brain tumor , cerebral infarction , intracerebral hemorrhage ) 

厚生労働省発表の「人口動態統計の概況」によりますと、平成29年(2017)1年間の死因別死亡総数のうち、脳血管疾患は10万9,880人で全体の8.2%を占め、全死因の上位から3番目という結果になっています。
このうち「脳内出血」が3万2,654人。

はたして何故、こんなにも多くの人が脳出血などの脳血管疾患で亡くなっているのでしょうか?

実はこの脳出血、慶應義塾大学医学部の川上漸(はじめ)教授らの研究チームが実施した動物実験で、その原因が科学的に明らかにされています。

これは大変有名な研究ですが、残念ながら医療(臨床)現場には反映されてはいません。

自然科学の研究と医療は、必ずしも同じではないというのが現実なのです…。

 

では、この研究でどんなことが分かったのか?

さっそく、見ていきましょう。

まず同大学研究チームの一員である山崎医局員が、ヒトの脳を解剖して綿密に調べてみると、すべての脳髄の97.7%が脳出血を起こしていることが認められました。

脳出血がみられないのはわずか2.3%ですが、この2.3%は10歳未満の子どもたちで、10歳以上はほぼ100%脳に出血がありました。

しかも、97.7%の脳出血が発見された人のうち、生前、医師がこの患者の脳髄には確かに出血が起こっているはずだ、と診断したのは、わずかに4.7%にすぎなかったのです。

すなわち、卒中の患者や出血性黄疸などと診断された人はわずか4.7%で、あとの93%の人は、自分はもちろんのこと、医師もこの人の脳に出血が起こっているとは分からずにいたということです。

ということは、わたしたちのほとんど全てが、小さい軽度の脳出血を起こしているにも関わらず、それを知らないで生活しているかもしれないということです。

これが山崎氏の研究成果ですが、この結果(問題)について考えなければならないのは、脳出血を起こした原因は、何なのか?ということです。

そこで研究チームの柴田氏が動物の腸を縛って、人工的な閉塞を起こさせる実験を行いました。

動物の腸を一カ所縛り、食物が腸を通り抜けることができない状態にすると、動物は嘔吐したり腹痛を訴えたり、非常に苦しみ死んでいきますが、死ぬ前に脳髄を調べると、必ず脳髄に出血が起こっていることが確認できました。

barium enema x-ray showing contrast fill in most part of large intestine such as transverse colon, sigmoid colon and rectum. the patient has colon cancer. 

次に、この腸閉塞を起こした動物の閉塞部の腸内容物を採取してこれを滅菌し、健全な動物に注入してみると死にいたります。

死んだ動物の脳髄を調べてみると、やはり出血が起こっているのです。

ということは、この腸閉塞症の腸内容物に含まれる毒素が、脳髄に出血を起こさせていることになります。

そこでさらに研究チームの松田氏が、この毒素がどうしてできたかを研究しました。

そして腸閉塞を起こしたときに、腸の粘膜が壊死に陥り、その結果、自家融解に似たような作用によってある毒物を産生し、その毒物が脳髄に出血を起こすというメカニズムがわかったのです。

腸粘膜からできた毒物は、また腸内容物の中にも混じるため閉塞部の腸内容物も脳出血を起こすことができると当然考えられますが、実際にその通りだったのです。

それでは、今度は動物に腸閉塞とまではいかないが、ひどい便秘を起こさせたら、脳髄はどうなるか、という研究を行いました。

この研究は前出の柴田氏の夫人(医師)が行っています。

x-ray acute intestinal obstruction, intestinal arches

動物が腸閉塞を起こしたときは、腸の粘膜が壊死に陥り死滅してしまいますが、便秘のときに腸粘膜はどんな状態になるのでしょうか?

結論からいえば、「腸粘膜の生命力が衰え、死に一歩近づいた状態になる」ということです。

便秘して大きな便の塊のために腸が膨らむと、膨らんだ部分だけ腸壁が薄くなります。

腸壁が薄くなるということは、その壁の中にある血管が圧迫されて細くなり、その部分への血液の供給が悪化するということです。

その結果、その部分の栄養状態が悪くなり、生気が衰えてゆくのです。

このときに、多少とも毒素が出ていないか?という疑問があります。

そこで動物に便秘を起こさせて、腸粘膜が壊死とまでではないが、生気の衰えた状態になったとき、その動物の脳を調べてみると、100%出血が起こっていることが確認されたのです。

 

A brain aneurysm is a bulge or ballooning in a blood vessel in the brain. It often looks like a berry hanging on a stem. 3D illustration

以上の実験から川上博士は、

腸閉塞が起こった際、一種の毒素が生成され、これが脳に伝わって脳の血管を破るか、膨張するか、麻痺するかする。

そして腸閉塞に陥らせるものは便秘であり、停滞便(宿便)である。

と結論しています。

 

これはあくまで動物実験ですから、必ずしも人間も同様だとは言い切れません。

しかし、わたしたち人間の97.7%(成人の100%)という、ほとんど全員と言ってもよいくらいの人の脳に出血を起こさせているその原因が、実は「便秘」にある可能性が示唆されたということです。

便秘 ➡︎ 宿便 ➡︎ 腸麻痺 ➡︎ 腸内腐敗(腸内異常醗酵)➡︎ 有害物質の生成 ➡︎ 毒性血液の全身大循環 ➡︎ 慢性自家中毒のメカニズムは、脳にも及び、脳出血をも引き起こす可能性があるということです。

 

この実験を人間で行うことはできません。

ですから危険性があるなら、用心(予防する)に越したことはありません。

宿便が脳に直接的影響を与えている可能性が高いと(脳腸相関)示唆されたわけですから、予防医学である西医学では脳卒中の時はもちろん、小児麻痺にもまず排便を促し、滞留便(宿便)の排除を行います。

先の川上博士の実験でも明らかになっていますが、例えば左手に麻痺がある人は左手の運動を司る脳に出血などの障害があり、それは右上行結腸に溜め込んでいる宿便を排除しない限り治癒しないのです。

フランスには腸と脳はつながっていることを表す、こんな諺(ことわざ)があります。

 

“ 下痢症に馬鹿なし ”

“Qui est diarrhéique, clést un homme non – imbécile.”

 

下痢症も社会生活を送るうえでは厄介なものですが、脳が健全に活動するためには、たとえ下痢気味でしょっちゅうトイレに駆け込む状況であっても、便秘による毒素で脳を害されるよりは遙かにマシだということです。

 

 

上記の画像は、健康医学(西医学)の創始者・西勝造が講義に使用した模造紙(弊社所蔵)ですが、講義の際に川上博士のこの研究を引用しています。

『家庭の医学』の監修でも知られる横田研究所の横田良助医学博士は、著書『心臓発作と脳溢血の最大直接因と対策』(横田研究所)の中で、脳溢血の直接最大の原因は、腸内の酸性腐敗便(腸内腐敗)であり、したがって、脳出血を起こしたら、何よりもまず酸性腐敗便を排出することが重要であると警鐘を鳴らしています。

肉類などの動物性タンパク質を過食すると、小腸内で完全に消化吸収されず、悪臭のある腐敗物ができます。

トリプトファンというアミノ酸からインドールやスカトールという腐敗産物が発生し、システインからは硫化水素が発生します。

硫化水素は腸内の酸素を奪って硫酸に変わりますが、この硫酸のために、腸の内容物(便)は「酸性腐敗便」になるわけです。

また硫化水素は、難病の潰瘍性大腸炎との関係も明らかになっています。

腸内に酸性腐敗便が停滞すると、チロジンというアミノ酸がチラミンに変わり、これが脳や心臓の血管を麻痺させて、脳出血や心臓発作の直接原因になっていると横田良助博士は主張しているのです。

このほか、硫化水素から硫酸になる過程において腸内の酸素を奪う結果、腸内は酸素欠乏状態になり、これがまた直腸ガンのような組織の酸素欠乏に由来する病気の原因にもなっていると考えられています。

MRI of the blood vessels in the brain and cerebrovascular disease or or hemorrhagic stroke. brain stroke x-ray image.

しかし、脳出血や癌が発症してからでは手遅れです。

一度起きてしまった脳出血に対しては、根本的な治療法は残念ながら存在しないのが現代医学の実情です。

出血により神経細胞はダメージを受けますが、出血巣が縮小すると、症状の改善が多少みられることがあります。

なお、現時点で、一度死んでしまった脳細胞を生き返らせる治療法はありません(これは脳梗塞の場合でも同じです)。

そのため、出血の場所、大きさ、広がり方などを考慮しながら全身状態の管理を行い、出血の拡大を防ぎ、血液が固まって生じた血腫が自然に吸収分解され、消失するのを待つことが現状の医療の基本となります。

つまり、脳出血に陥る前に「予防」することが何よりも大切なのです。

 

今日の医療では、「便秘はありふれた日常」のように扱われています。

ですから、病院やマスメディアは何も教えてくれません。

一方、ひとたび科学研究の世界に足を踏み入れれば、「日々のスムーズな排泄が、直接わたしたちの命に関わっている」ことを如実に教えてくれています。

しかしながら、自らが知ろうとしない限り、このような科学的知識に触れる機会もないのが現実の社会です。

容易に予防可能なのにも関わらず、知らないがために病気を患い、多くの人が同じ道を辿って亡くなっているのです。

残念ながら「医療と最新科学は必ずしもイコールではない」、ということを憶えておいてください。

 

科学が知識を集める速度のほうが、社会(医療)が知恵を集める速度よりも速いことが、命に関して今の時点で一番残念なことだ 。

── アイザック・アシモフIsaac Asimov(米国の作家・生化学者・ボストン大学教授)

 

 


 

Reference & Footnote

『抱朴子』(ほうぼくし)は、晋の葛洪の著書。内篇20篇、外篇50篇が伝わる。
とくに内篇は神仙術に関する諸説を集大成したもので、後世の道教に強い影響を及ぼした。
概要
抱朴子とは葛洪の号であり、素朴な性格であったためにつけられた。『抱朴子』の本文の多くは「抱朴子曰」で始まっている。
葛洪は、祖父が三国時代の呉の国において大臣にまで登り、父も地方長官についたという役人の家系に生まれた。葛洪の祖父のいとこの葛玄は呉の有名な道士で、左慈の弟子であった。葛洪は葛玄の弟子の鄭隠に学び、後にはまた鮑靚(字は太玄)に師事した。『抱朴子』は葛洪が20歳をこえたころに書きはじめ、東晋の建武元年(317年)に完成した。
現行本は70篇から構成される(外篇の第49篇が3つに分かれているので、72篇と数えることもある)。自叙にも内篇20巻、外篇50巻とするが、『晋書』によれば、内篇と外篇を合わせて116篇あったという。『芸文類聚』には現行の『抱朴子』に見えない軍術篇を引用しており、逸篇・逸文があることは確かである。
内篇は仙人になるための修行方法について記し、外篇はそれ以外の雑多な事柄を記す。
『隋書』経籍志では内篇を道家、外篇を雑家に分類している。『旧唐書』『新唐書』『通志』も同様である。一方『宋史』は全篇を雑家に分類し、『四庫全書総目提要』は全篇を道家に入れる。

川上漸『老衰の原因』 中庸出版社

横田良助『心臓発作と脳溢血の最大直接因と対策』横田研究所

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