人体

Human body

大自然の叡智の結晶・人体

過剰なグルコース(ブドウ糖)が引き起こす厄介な問題

2022.09.22

朝食を摂らないと太る?

「朝食を摂らないと太るから、毎日しっかりと食べましょう!」
よく耳にしますよね ⁉︎

 

food, eating and family concept – group of people having breakfast and sitting at table

 

朝食を摂らなければ、その分カロリー(エネルギー)が減り、痩せるはずです。

しかしオーストラリアの109の小中学校で行われた大規模な研究では、理論とは真逆の結果が報告されています。[1]

この調査の約20年後、子どものときの調査でも、大人になってからの調査でも朝食を摂っていた人たちと、その逆の人たちを比較した場合、後者の方が太っていたという歴然とした結果だったことが報告されています。

また、アメリカでも同様の調査が行われ、「朝食を摂らないと太る」と報告されています。[2]

確かに、「朝食を摂らないと太る」という研究報告(論文)は存在するのです。

しかしでは、何故(科学に反して)、朝食を摂らないと太るのでしょうか?

その理由は、まだはっきりとはしていませんが、さまざまな説明が試みられています。

どうやらそれは生体のメカニズムなどではなく、生活習慣にあるようです。

 

可能性が高いのは、

① 朝食を摂らない人は運動不足の傾向にあることや、その反動か昼食をドカ食いしてしまうこと。

② 野菜や果物の摂取量が少ないなど、全体として「肥満を招きやすい怠惰な生活習慣」になっていることです。

つまり、生涯の健康維持を目的に「計画的な小食・節食を生活習慣にしている人」には当てはまらない、ということです。

 

では、「朝食を摂らないと、血糖値が下がって脳が働かないよ!」

これもよく耳にしますが、どうなのでしょうか?

インスリンは、とても重要な働きを担っているホルモンです。

代謝の中心的な役割を果たし、食べ物からエネルギーを取り出し、それを燃料として細胞に運ぶのを助けています。

実は細胞は、血流内に入ってきたグルコース(ブドウ糖)を自力で取り込めません。

そこで膵臓でつくられた、輸送コンテナとして働くインスリンの助けが必要となるのです。

インスリンは血中のグルコースを筋肉や脂肪、肝細胞に運んでいます。

正常で健康な細胞にはインスリン受容体が多くあり、インスリンの働きに問題なく対処しています。

しかし、グルコースがコンスタントに血中にあると、細胞が高濃度のインスリンに常にさらされた状態になります。

このような状態になると、細胞は表面のインスリン受容体の数を減らし、これに適応しようとします。

その結果、インスリンの効果が薄れてしまうのです。

 

グルコースが絶えず血中にある人は、加工食品を通じて知らないうちに「精製された糖質(炭水化物)」を過剰に摂取していることが多いものです。

医学的には、細胞がインスリンの働きに対して鈍感になり抵抗を示すようになることを「インスリン抵抗性」と呼びます。

これは細胞の自己防衛機構だと考えられています。

グルコースは細胞内のエネルギー発生装置であるミトコンドリアを働かせるのには役立ちますが、量が過剰になると非常に有害で、タンパク質にくっついて機能不全にさせるのです。

このプロセスを「糖化」と呼びます。

この状態になると、細胞はインスリンを無視し、血液からグルコースを吸収しなくなります。

Anatomy drawing showing the pancreas, duodenum, and gallbladder. Digital illustration

すると膵臓がこれに反応し、さらに多くのインスリンを分泌し始めます。

グルコースを細胞内に取り込むために、大量のインスリンの分泌が要求されるからです。

この一連の現象が悪循環を生じさせ、最終的にⅡ型糖尿病を発病させてしまうのです。

糖尿病患者は、「ハイパーグリセミア」と呼ばれる高血糖の状態にあります。

細胞を動かすのに直ちに必要な量を超える量のグルコースが血中にあるので、身体はそれを体内に安全に蓄積しようとします。

まず、グリコーゲンと呼ばれるグルコースの一種に変えます。

グリコーゲンは「粘着性」ではないため、細胞への害はありません。

グリコーゲンは主に肝臓と筋肉に貯蔵され、血糖値(血中グルコース値)が低下したときすぐに利用できるエネルギー源となっています。

肝臓や筋肉にグリコーゲンが貯蔵されている限り、脂肪は燃料として使われず、余分に摂取された脂肪は脂肪細胞に蓄積されます。

これが、Ⅱ型糖尿病患者の約8割が過体重または肥満である理由だと考えられています。

血液中に糖が残ると、糖化最終産物(AGE: Advanced Glycation End products)がつくられ、この「粘着質」のグルコース分子がタンパク質にまとわりついて血管の内側に溜まるなどの機能不全にさせ、大きなダメージを引き起こすわけです。

糖化は、糖尿病が早期の死や心筋梗塞、脳卒中、腎疾患、失明などの合併症を引き起こす大きな原因の一つなのです。

体内で産生されないが、栄養素として不可欠なものを「必須◯◯」と呼びます。

例えば「必須タンパク質」や「必須ミネラル」などですね。

ところが糖質には「必須糖質」というものがありません。

お察しの通り、糖質は体内でつくることができるのです。

これを「糖新生」と呼びます。

したがって、朝食で無理に糖質を摂取する必要はありません。

むしろ、前述の通り「糖質の過剰摂取」は、糖尿病などの病気のリスクを高めることになるわけです。

さあ、これで「オートファジー」や「ケトーシス」を生活習慣に取り入れる決心が着きましたか?

 


References

 

1 Smith KJ, et al. Slipping breakfast: Iongitudinal associations with cardiometabolic risl factors in the Childhood Determinants of Adult Health Study. Am J Clin Nutr 2010; 92: 1316-25.

2 Kral TV, et al. Effects of eating breakfast compared with skipping breakfast on ratings of appetite and intake at subsequent meals in 8- to 10-y-old children. Am J Clin Nutr 2011; 93: 284-91.

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