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オートファジー:古来伝わる聖なる儀式「断食」の科学的論考 Vol.1

2022.09.22

“ Autophagy: A Scientific Discussion of the Ancient Sacred Ritual of Fasting ”

Contents


はじめに

わびの真意は『貧困』、即(すなわ)ち消極的に云えば『時流の社会の裡(うち)に、又それと一緒に居らぬこと』と云うことである。

貧しいということ、而(しか)も、其人(そのひと)の心中には、何か時代や社会的地位を超えた、最高の価値をもつものの存在を感じること、是(これ)がわびを本質的に組成するものである。

これは、近代日本最大の仏教学者、鈴木大拙が「侘び」の真意について解説した言葉ですが、この主題を「健康」に置き換えるとこうなります。

 

健康の真意は『素食』、即ち消極的に云えば『時流の社会の裡に、又それと一緒に居らぬこと』と云うことである。

少ないということ、而も、其人の心中には、何か時代や社会的地位を超えた、最高の価値をもつものの存在を感じること、是が健康を本質的に組成するものである。

 

釈迦は、「五体いずこなりとも患いあらば、まず食を断つべし」と言っています。

しかし「時流の社会」は、これとは大きく異なる現実に直面しています。

世界の21億人以上が太り過ぎといわれる今日、飢餓よりも肥満に苦しむ人がはるかに多くなっているのです。

そしてこの数字は、次々に更新されていくでしょう。

過食による「過剰栄養」と偏食による「栄養失調」に加え、有害な食品添加物などの「化学合成物質」にまみれた食習慣が、次々と病人を生み出していることが、科学的に明らかになっています。

 

Junk food health risk nutrition concept as a group of people running and falling on a pile of high sugar sodium and cholesterol fat snacks as a diet metaphor with 3D illustration elements.

 

このような社会環境から弊社では、「マイナス腸活・7つの習慣」と題して、「毎日のスムーズな排泄」と「1日2食の間欠断食(Intermittent Fasting)」を中心とした生活習慣を提唱しています。

この背景には、「西医学健康法」の創始者・西勝造の健康理論、そしてそれを医療現場で実践し、断食療法を究めた断食博士・甲田光雄医師の臨床研究がベースとしてあります。

そして今日に至り、「断食は万病を癒す妙法」の中核的メカニズムを科学的に解き明かしたのが、「オートファジー(Autophagy)」や「ケトーシス(Ketosis)」、「腸内異常醗酵(腸内腐敗 Abnormal Intestinal Fermentation)」です。

オートファジーは、細胞内で不要となったタンパク質や損傷したミトコンドリアなどの廃棄物を処理し細胞の炎症を防いでいますが、これらの有害な不要物は最終的に便として体外に排出する必要があります。

また、ケトーシス(ケトン体代謝)によって、脂肪が燃焼された際に溶け出す(脂肪に蓄積していた)有害な化学合成物質も、便として排出されなければなりません。

 

 

体外に排出される便の内容物のうち、食べた物の残渣はわずか3〜4割で、残りはこうした体内で不要となった老廃物や有害物質、腸内細菌などの残骸なのです。

毎日のスムーズな排泄には、食べた物の残渣の排出や宿便による腸内腐敗を予防・改善するだけでなく、こうした体内のゴミをデトックスする重要な役割があります。

「生物の健康は、すべて排泄に帰結する」ことを憶えておいてください。

スムーズな排泄ができなければ、有害な物質は体内(大腸内)に滞留したままで、大腸は再吸収し、止めどなく全身を循環してしまうのです。

そしてもう一つのマイナス腸活、「間欠断食」は、オートファジーとケトーシスの発現、腸内異常醗酵の予防に必須の生活習慣です。

 

 

オートファジーを端的に言い表すとすれば、

病気や機能障害を避けるために、私たちが生まれつき備えている、身体が自らの部品を再利用・再生するか廃棄するかを決め実行する方法。

つまり、細胞が元来備えているリサイクル装置 “

と、考えると分かり易いかもしれません。

そしてオートファジーには、免疫系を強化し、ガンや心臓病、慢性炎症、変形性関節症、うつ病や認知症などの神経変性疾患の発症リスクを大幅に低下させる効果があり、わたしたちが「生涯の自由」を、手にしていられるかどうかの鍵を握るとても重要な作用なのです。

繰り返しになりますが、あなたを生涯にわたって細胞レベルで健康に保ってくれるであろうオートファジーやケトーシスは、断食・間欠断食でしか発現しないのです。

ハーバード大学医学大学院の世界的に著名な科学者で「老化の原因と若返りの研究」の権威、ベストセラーとなった『LIFE SPAN 老いなき世界』(訳 梶山あゆみ)の著者としても知られるデビッド・シンクレアは、「食事制限の重要性」をオートファジーなどに関連づけて次のように述べています。

私は約25年にわたって老化を研究し、何千本という科学論文を読んできた。

そんな私にできるアドバイスが1つあるとすれば、「食事の量や回数を減らせ」である。

長く健康を保ち、寿命を最大限に延ばしたいなら、それが今すぐ実行できて、しかも確実な方法だ。

もちろん、こうしたことが唱えられるのは今に始まったことではない。

古代ギリシャの医師だったヒポクラテス以来、医師たちは食べる量を制限することがいかに有益かを説いてきた。

それも、キリスト教の「七つの大罪」にある「貪食」を慎むだけでなく、「意図的な禁欲」によって量を抑えるのである。

栄養失調や飢餓状態ではいけない。

それは長寿への道ではないし、ましてや健康長寿にはつながらない。

しかし、食事制限をすることが健康と長寿のためになるのは疑いの余地がない。

そう、モノに溢れたこの恵まれた世界にあって、一般的な許容限度以上にたびたび体を欠乏状態に追い込むのである。

 

 

オートファジーのプロセスは、細胞内の「Mechanistic Target Of Rapamycin(ラパマイシン機構的標的タンパク質)」と呼ばれ、「mTOR(エムトア)」と略されるタンパク質の働きが「抑制」されることで発現します。

このmTORのスイッチをオフ(抑制)にするのが、「断食」です。

逆に、mTORが活性化(スイッチをオン)するとオートファジーが抑制されるのです。

肝心なのは、このオンとオフの切り替えです。

「スーパーセンテナリアン研究(106歳以上の健康長寿者の調査・分析)」で、世界的に著名なジェームス・W・クレメントは、このmTOR複合体を「スイッチ」と呼び、その豊富な研究事例から、1年のうち「Switch ONを4カ月」そして「Switch OFFを8ヶ月」がもっとも理想的なバランスだとアドバイスしています。

本稿はジェームス・W・クレメントやデビッド・シンクレアなどの論考を基に、オートファジーを導く食事を中心に5回に分けて連載していきます。

オートファジーのメカニズムなどのより詳細な解説は、下記の「読者専用サイト」からもご覧いただけますので、まだご覧になっていない方は、ぜひご一読ください。

https://minus-chokaz.jp/autophagy/?post_password=autophagy

 

糖質は病気のリスクを高め、脂質は健康を増進する

 

オートファジーと病気の治療についての最初の研究結果は、1999年に発表されています。

コロンビア大学医科大学院のベス・レヴァインらの研究チームは、細胞のベクリン1(Beclin 1)遺伝子の2つのコピーの一方を欠損させた後に腫瘍が発生することを明らかにしました。[1]

ベクリン1は、哺乳類のオートファジーに必要な遺伝子です。

人間の乳がんや卵巣がんのがん細胞では、40〜75パーセントもの割合でこの遺伝子が欠損しています。

レヴァインらの研究チームは、人間のがん細胞の中でベクリン1の発現を増やすと、オートファジーが増えることを観察しました。

この操作された細胞をマウスに注入したところ、腫瘍の発生が減少したのです。

ニュージャージー医科歯科大学のアイリーン・ホワイト(現在はラトガーズ生物医学・健康科学研究所)らによる研究では、オートファジーがDNA損傷を防ぐことがわかっています。[2]

 

Double helix DNA strands on a blue background with copy space 3D rendering illustration. 

 

オートファジーがDNAや染色体異常を抑制することがわかり、科学者たちはオートファジーを「ゲノムの守護者」と呼ぶようになったのです。

これらの発見に誘発され、世界中の科学者が生理学の幅広い分野でオートファジーを研究するようになっています。

その結果、オートファジーがどのようなメカニズムで長寿を支え、神経系や免疫系、循環器系、代謝全般をはじめとする身体のあらゆる働きにメリットをもたらしているかの解明が進んでいます。

現在、米国国立医学図書館が運営する生命科学と生物医学の論文データベース『Pub Med(パブメド)』には、4万件以上ものオートファジー関連の研究論文が掲載されています。

最新の研究では、「免疫・代謝性の疾患と予防とオートファジーの関係」に注目が集まっているようです。

オートファジーは現在、がんや神経変性疾患、心臓病、糖尿病、肝疾患、自己免疫疾患、感染症などの疾患を回避するための鍵を握る存在として注目されているのです。

オートファジーは生存装置の中核に位置し、生命を脅かす飢餓やストレスなどの深刻な脅威に立ち向かうための重要な役割を担っています。

老化防止や病気の予防のためにこのプロセスを促すには、飢餓とストレスという2つの力をうまく用いる必要がありますが、幸い、健康を損なうことなく、これを実践する方法があります。

あなたの健康の鍵を握るこのオートファジーという現象は、「断食または間欠断食」によって、身体に健康的なストレス、つまり「カロリー制限」を強いることで起動します。

 

Ketogenic diet. A large set of products for the keto diet. Vector illustration with unique hand drawn texture. Meat, fish, vegetables, oils, nuts, eggs. 

 

この際に、常日頃から「ケトジェニック・ダイエット」を食習慣にすることで、オートファジーに導きやすくなることが分かっています。

ケトジェニック・ダイエットは世界でも有数の医療機関として知られる米国メイヨークリニックの内分泌学者ラッセル・ワイルダーが、子どものてんかん治療のために考案したダイエット(食事法)ですが、その内容は「糖質とタンパク質を大幅に制限して、良質な(健康的な)脂質と野菜」を多く摂る食事法です。

ケトジェニック・ダイエットのグルマンディーズ(美食愛)の主役が、「野菜」と「健康的な脂質」ですが、健康的な脂質とは何なのか?

はてまた、なぜ糖質を制限しなければならないのか?

気になりますよね?

 

糖質と脂質の健康効果に関する最新の研究報告

糖質を摂ると、インスリンの分泌が促されます。

糖質を過剰に摂取して大量のインスリンが分泌されると、脂肪がつくられ、身体に蓄えられます。

その結果、脂肪を燃やす能力も低下することになります(つまり、肥満になる)。

加工食品メーカーは、高糖質の加工食品に「低脂肪・Low Fat」というキャッチフレーズを使いますが、これは旨味成分である脂質を補うためです。

しかし、こうした加工食品を食べると血糖値は急激に上昇し、食欲は増進し、インスリンが分泌され、脂肪は蓄えられて、「節約」のために脂肪燃焼を抑え込みます。

代謝のスイッチが「成長モード」に切り替わったままになるため、オートファジーは強く抑制されてしまうのです。

このメカニズムによって、わたしたちは老化を早め、肥満になり、病気のリスクを高めていくわけです。

 

chocolate truffles, candies and sweets store on showcase in factory store.

 

糖質摂取量が多いと死亡率が高くなり、脂質の摂取量が多いと死亡率が低くなることは、20年以上前の研究で既に示されています。

また、良質な脂質は「心血管疾患」の発症リスクも低下させます。

2017年に、複数の有名研究機関の研究者が、18カ国の35〜70歳の13万5000人強の被験者を対象に、平均7.4年間にわたって追跡した研究結果が権威ある医学雑誌『ランセット』に発表されました。[3]

その結果は、従来の常識に反したものでした。

糖質の摂取量が最も多いグループ(毎日のカロリーの77パーセント)のほうが、最も少ないグループ(毎日のカロリーの46パーセント)よりも死亡リスクが28パーセント高かったのですが、脂質の摂取量が最も多いグループ(毎日のカロリーの35パーセント)は、最も少ないグループ(毎日のカロリーの10パーセント)よりも死亡率が23パーセント低かったのです。

さらに、脂質の摂取別に見ると、多価不飽和脂肪酸(コーン油、大豆油、綿実油、グレープシードオイルなど)と一価不飽和脂肪酸(アボカド、オリーブオイル、べに花油、なたね油など)を多く摂取していたグループの死亡リスクは、それぞれ20パーセント減、19パーセント減となったのです。

これらの脂質に比べると健康的ではないバターや動物の肉に含まれる飽和脂肪酸を多く摂取したグループでさえ、死亡リスクは14パーセントも低かったのです。

この研究はその精度的な欠点も指摘されていますが、「低脂肪食(高糖質)」の推奨から糖質の摂取制限へと社会の注目を移すという研究者らの目的を達成しました。

つまり、現代人を死に追いやる犯人は、たいていの場合、mTORのスイッチをオンにして、過度の成長を促す(老化を早める)「精製糖質の多い食事」なのです。

 

Assortment of Unhealthy Food, top view, copy space. Unhealthy eating, junk food concept.

 

※精製糖質食品:砂糖、小麦粉、白米や白パン、パスタやうどんなどの麺類、スナック菓子、加糖飲料、などの精製された炭水化物(および、それが含まれる加工食品)

研究者らはこう結論づけています。

「糖質摂取量の多さは総死亡率の高さ」と密接に関係している。

ところが、「脂質の摂取量の多さは総死亡率の低さ」と関連する。

各タイプの脂質、脂質全体とも、摂取量の多さは心血管疾患や心筋梗塞になるリスク、心血管疾患の死亡率とは関係がなく、飽和脂肪酸の摂取量の多さは脳卒中の発症リスクと逆の相関があった。(摂取量が多いほど、発症が少ない)

世界各国の食事のガイドラインは、これらの知見を踏まえて再検討すべきだ。

多くの人が意外に思うかもしれませんが、糖質は病気のリスクを高め、脂質は健康を増進するのです。

とは言っても、脂質なら何でもいいというわけではありません。

「健康的な脂質」が重要なのです。

 

Continued in VOLUME 2

https://minus-chokaz.jp/human_body/1868/

 


References

THE SWITCH: IGNITE YOUR METABOLISM WITH INTERMITTENT FASTING, PROTEIN CYCLING, AND KETO by James W. Clement with Kristen Loberg 2019.

1 Xiao Huan Liang, Saadiya Jackson, Matthew Seaman, et al., “Induction of Autophay and Inhibition of Tumorigenesis by Beclin 1,” Nature 402, no.6762 (December 9, 1999): 672-76.

2 Robin Mattew, Vassiliki Karantza-Wadsworth, and Eileen White, “Role of Autophagy in Cancer,” Nature Reviews Cancer7, no.12 (December 2007): 961-67.

3 Mahshid Dehghan, Andrew Mente, Xiaohe Zhang, et al., “Association of Fats and Carbohydrate Intake with Cardiovascular Disease and Mortality in 18 Countries from Five Continents (PURE): A Prospective Cohort Study,” The Lancet 390, no.10107 (November 4, 2017): 2050-62.

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