健康

Health care

いのちまで人まかせにしないために

『便秘 LES CONSTIPATIONS』Vol.2

2022.08.11

※『便秘 LES CONSTIPATIONS』西勝造 著 より抜粋

 

サンミッシェル病院外科医ヴィクトール・ポーシェ(Victor Pauchet)[1]氏は、『癌』と題する書中に次のように述べている。

 

腸中毒を誘発する便秘は、癌に罹り易いという能因をなす。

通常、便秘は、文化諸国民間における劣悪な教育に所因している。

植民地において医業にたずさわれる医師は、次のように断言している。

すなわち、未開人は、野天の下で生活し、充分な運動を行い、そしてまた研究所など云うものがないので、時宜に応じ、自然の欲求に従ってゆくので、実際、腸の麻痺や癌というものを知らない。

彼らは、この点において動物の如く振る舞うものであり、従って腸中毒や、その結果たる癌に冒されることもない”と…。

一般の癌罹病者が、疾患の発生に先立つ、20年または30年の間、いかなる毒物に悩まされるかを探求してみるならば、それが腸による自家中毒であることは極めて明確となるに違いない。

 

 多くの人々は45歳まで、約20年または30年の長きにわたり、慢性便秘および慢性自家中毒に悩まされているのである。

従って、癌に冒される危険期が40代を過ぎたときから始まるといっても、あえて異とするにはあたるまい。

慢性便秘は、多くの場合において、自家中毒や、種々の害悪および幾多の疾患を誘致するものであるが、従来、医師や学者は、これを重要問題として取り扱わずに、むしろ簡単な問題として取り扱ってきていた。

1884年、ロンドンのカッセル社から大冊の『健康の書』[2]という通俗向きの書物が発刊された。

その寄稿者は、当代においては、いずれも堂々たる一流の大家であって、これらの人々は、食物、刺激物、衣類、身体、耳鼻咽喉、眼、歯、皮膚の手当法等について詳述しているが、便秘についてはなんら言及していない。

その当時においては、否、ごく最近まで、医師は便秘を処置するにあたって、ただ下剤を用うるに止まり、なんら特殊な注意を要さない些細事として、これを取り扱っていたのである。

しかし、多くの経験ある開業医の語るところによれば、疾患の大部分は便秘に所因するものであるという。

長期にわたる便秘は、慢性自家中毒を誘致して、もって最も重大なる結果をもたらすことが多い。

 

 

私はまず、ガイ病院(Guy’s Hospital)の顧問外科医ウィリアム・アーバスノット・レーン卿(Bt、CB、FRCS、レジオンドヌール勲章、Sir Arbuthnot Lane)氏の言葉を借り、便秘と癌との関係を明らかにしたいと思う。

レーン氏が、常習的便秘(氏の語を用いれば腸麻痺)の危険を世人に提示した功績は、決してこれを忘れることができない。

氏はこの方面や他の方面における先駆者なのである。

我々はレーン氏[3]が、この問題に関して語れるところを聞くことにしたい。

氏は1923年10月18日、ガイ病院医学協会において、講演を行ったが、その講演は同年10月27日の英国医学雑誌に転載された。

氏は次のように語っている。

 

“ 現今、外科医および内科医は、終末的結果のみを解義し、これを処置せんとすることのみ急で、かかる結果の発生を根絶しようとは毫も努めていないように思われる…。

ただ開業医のみが、胃腸の機能欠陥、これに伴う栄養供給の不潔化、腸の吸収する腐敗物に基づく組織の中毒および毀損が、いかに甚大なる働きをなすかについて、漸(ようや)く意識しはじめているにすぎない ”

 

“ 癌は、機械的関連の一部とも看做(みな)されておらず、また健全なる器官を決して冒すことなきものとも考えられていなくて、むしろ、原発的(最初の、第一の)状態と考えられている。

しかし癌細胞は、適当な地盤内においてのみ生長するものであって、このような地盤は、組織内における毒素の長期にわたる作用によってつくられるのである…。”

 

1日に1回の便通があるのを正常と考えるのが、文化人の慣習である。

したがって、各人は通例少なくとも24時間、便秘に冒されているわけであり、消化されたる食物の残滓物は、24時間大腸内に堆積し、まず圧力を受けるわけであって、この圧力は、結腸の腸骨部分と骨盤部との結合局処において最も大きい。

なおまた、このような圧力に対応して、腸粘膜の外表上には、繊維性の外観をもつ腹膜の条紋すなわち繋帯がつくられる。

これは漸次、腸粘膜の基底から外側の方へ拡延して、腸粘膜の当該部分を収縮かつ短縮させ、当該部分の運動範囲を局限するに至るのである。

このような新生物の組織は、諸力線の結晶点をなすものであって、結腸の外壁に沿って拡延し、漸次その周縁を侵してくる。

こうして結腸を腸骨窩の中に固定させるばかりでなく、結腸をその長軸に沿って回転させ、その口径を著しく減じ、かつ腸腔内の糞便通過を阻害するのである。

この部分の腸に含まれる糞便は、おおむね引締まっていて、硬いことが多い。

従って、たとえそれが中位の程度において存在しているとしても、糞便がこれを乗り越えていくことは、はなはだ難しいといえよう。

この部分の結腸の機能が障害されると、能率的な排泄が著しく阻害を受けるのであって、その阻害が著しければ、これに近接せる胃腸管内においては、それだけ物質の渋滞が、はなはだしくなるわけである。

 

このような障害に対して、私は「最初にして最後の絡障(first and last kink)」という名を与えたい。

最初というのは、それが最も早く形成されるからであり、最後というのは、胃腸管の最下部を占めるからである。(注:kinkは網・糸・針金などの、もつれ・よじれを言う。   絡障の「絡」は、まつわる。「障」は、さわりである。)〞

私は、その重要さを、とうてい説きつくすことができない。

それというのも、これが与える害悪が、はなはだ大であり、かつ、極めて広き範囲に及ぶからである。

かつまた、それは間接的および直接的に慢性腸麻痺に所因する、あらゆる変化と関連をもっているのである。

それは文化の失墜を呪詛(じゅそ)するものであり、また真実なるパンドラの筥(はこ)をなすものというほかはないであろう。

結腸内に糞便が滞溜すると、腸粘膜に沿って、類似の繋帯が発生し、荷重を負わされた結腸の凸彎を確保することになる。

これは、特にある部分、例えば牌臓部彎曲や回腸の末端において著しい。

後者の場合においては、これを回腸絡障と称する。

なお、これに随伴して内容物が小腸内に堆積すると、十二指腸・空腸結合部分が角張って、先ず十二指腸を拡張させ、その最初の部分に潰瘍を起こし、幽門痙攣(ゆうもんけいれん)、胃拡張を誘致し、圧力の所在個処すなわち胃小彎に沿って潰瘍を起こすことになる。

このような胃潰瘍は、容易に癌に転ずるのである。

 

Human Digestive System Anatomy For Medical Concept 3D Illustration

 

結腸内においても、同じような癌発生の傾向が現われる。

すなわち後天的繋帯または肛門括約筋の痙攣作用あるいはメーヨー氏環状筋繋帯(かんじょうきんけいたい)の痙攣作用により、結腸が角張り、かつ梗塞されるとき、その阻害の程度および糞便の硬度増大に対応して、このような傾向が現出してくるのである。

結腸内における内容物の滞留は、また虫様突起の炎症を引き起こす。

虫様突起は、結腸粘膜の後天的癒着によって固定かつ梗塞され、種々なる程度および形態の結腸炎を起こすのである。

虫様突起が固定すると、回腸内の輸送が抑制され、小腸内における物質の滞留が増してくることとなるのである。

その中毒的結果や、このような腸麻痺に伴う機械的結果は、極めて明白であるが、しかしまた、小腸・十二指腸および胃内に滞留する物質中の細菌によって病毒が生じ、それが肝臓および膵臓に沿って感染を起こして、その結果胆石および癌が発生してくることをも忘れてはならない。

このような場合における感染の様態は明らかに機械的変化である。

 

次にわれわれの考察すべき変化は、肝臓で処理し得る以上の毒素その他が胃腸管内の含有物によって吸収され、その結果起こる変化である。

こうして、有害な物質は、循環血液中に侵入して、体内のあらゆる器官および組織に運ばれ、血液の毒性いかんに対応し、それぞれ呪わしい結果を発生させるのである。

甲状腺、副腎その他の内分泌腺心臓、血管、神経系統、耳、眼、腎臓、肝臓、膵臓、子宮、卵巣、睾丸、摂護腺、乳房、脂肪組織、皮膚、毛髪、鼻、咽喉の淋巴組織、歯銀および歯などの変質的変化 (最後の2つは、最も顕著であることが多い)については、   従来、私は、しばしば詳述しておいたし、なおまた、このような変質器官の若干、たとえば乳房、子宮、卵巣および摂護腺等がいかに癌に冒されやすいかをも指示しておいた。

神経症状としては、激しい頭痛、神経炎、神経痛、不眠症、急性疼痛、精神的肉体的虚脱、憂鬱症、癇癪、散在性硬化妄想、早発性痴呆症などがあげられる。

このような変化は、毒性血液が組織へ供給される直接的結果である。

この他に、変質した組織が病毒の侵入に抵抗し得ぬことからして、起こるところの幾多の病毒感染がある。

しかしながら、このような病毒は、健康な人体内においては、足場をとり得ないものなのである。

 

癌は決して健全なる器官を冒さない。

“ Cancer Never Affects a Healthy Organ. ”

とレーン氏は一段と力を入れて、つづいて論述する。

 

“ おそらく、現代において最も顕著なるものは、癌であろう。

しかし、癌は決して健全なる器官を冒さない。

私が検証し得たところによれば、罹癌患者は、慢性腸麻痺すなわち便秘に悩まされているものであり、癌病毒の感染は、このような状態の間接的結果にほかならない。

この範疇(はんちゅう)に包含し得ないものは、慢性外傷によって起こる皮膚および舌の癌である。

もしも、私の推定が正しいとすれば、癌の発生を防止するには、文化国の食物と習慣が胃腸内において惹起(じゃっき)する変化を、根絶しなければならない。

癌は慢性腸麻痺(便秘)の最終段階である。

それは結腸のみならず、胃腸管の他の部における排泄欠陥を語る物語の最終章である “

 

レーン氏の説くところは、たしかに感銘的である。

しかし、批判的な読者は、こう問われるかもしれない。

 「レーン氏は自説を一人で立てているのか、あるいは幾多の経験ある人々や、専門家や、その他の人々からも支持を受けているのかどうか」と…。

以上引用したところを読んだ人々が、こうした疑問を起こされたとき、これに答えるため、私はここに幾多の著名な専門家の文献中より、逐次、引用文をあげ、そして彼らが、あるいはレーン氏の説に帰依し、あるいは多少とも別個に研究を遂げて、次のような結論に到達していることを指摘しておきたい。

すなわち、慢性便秘は、腸の慢性裂傷および慢性自家中毒を介して、恐るべき疾患たる癌を誘致するのである、と…。

 

To be continued


Reference

(1) Dr.Victor Pauchet. Chirurgien de l’Hôpital Saint Michel. Le Cancer, Paris, 1923.

(2) The Book of Health. Messrs. Cassell and Co., London, 1884.

(3) Lane. British Medical Journal, 27 th. Oct., 1923.

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