健康

Health care

いのちまで人まかせにしないために

『便秘 LES CONSTIPATIONS』Vol.3

2022.08.20

※ 『便秘 LES CONSTIPATIONS』西 勝造 著より抜粋

A. C. Jordan. Stasis and the Prevention of Cancer, British Medical Journal, 25 th.Dec., 1920.

 

ジョルダン(A. C. Jordan)氏[4]は、胃、腸、肝臓、胆嚢などの癌腫が慢性便秘から起こることを、刻銘的に説いている…。

 

腸麻痺症患者の病歴を慎重に調べてみると、その起始はおおむね出生後の第一年ないし数週間目にあることが知られる。

多くの患者は、その時以来便秘に悩まされているのであって、初期の幼児時代から「胆汁質」なのである。

青年時代においては、組織は疾病に抵抗し得るので問題は起こらない。

慢性腸麻痺の場合においては、能動的な病原バクテリアが腸内で繁殖し、腸内に毒物を形成する。

このような毒物は、胸管によって一般循環に運び込まれ、体内のあらゆる生体細胞に達するのである。

いかなる組織も、また、いかなる器官も、その恐るべき影響に抵抗することはできない。

これに冒された、あらゆる組織は、疾患能因に対する抵抗力を失うに至るのであるが、このような抵抗力の低下が癌の発生を助成すべき潜伏的影響をなすのである。

 

 

またメチニコフ(Metchnikoff)氏[5]は、慢性便秘の与える結果について、幾分異った視野からこれを観察してはいるが、しかしレーン氏と、ほとんど同一の結論に達している。

 

腸による病毒感染の様態については、いまだ異論の尽きざるところであるが、腸が病毒侵入の関門をなすことは、疑いの余地はない。

腸中毒に所因すると考えられる幾多の疾患においては、腸細菌ことに大腸桿菌が腸壁を通して体組織を侵し、それによって血液に感染することは確かである。

科学的研究を通して蓄積された成果を綜合してみるに、腸壁は最も慎重な保健衛生的考慮を要するものである。

糞便の滞溜に伴って不健康状態が起こるのは、確かに腸細菌のあるものが悪作用をするからである。

しかしながら、このような細菌の作業様態を確定するについては、少なからぬ困難がある。

一般に信じられているところによれば、これらの細菌は、毒物を生成し、この毒物が腸壁によって吸収され、系統中へ侵入するのであるということだ。

幼児や、分娩中の婦女や、あるいは、心臓、肝臓、または腎臓病患者が自家中毒に冒されていると断案を下すのは、当該病理過程に対して以上のような解義を与える所に根ざしているのである。

便秘の場合においては、吸収された細菌の毒素によって自家中毒が起こるのであるが、また細菌自身が腸壁を通過して血液に侵入することもある。

便秘に所因する疾患の場合においては、若干の症状が、病毒感染の症状を想起させる。

もしも特殊な研究を行なってみるらば、腸に起原する細菌が、病児・妊婦または産婦の血液中に見出されることは、確かである。

このような患者の具示すべき症状については、上述しておいた通りである。

細菌が腸壁を通過するか否かは細菌学上最も異論の多い問題である。

この問題について論及する著者は数多あるが、しかし、ほとんど一致点が見出されない。

いわんや、細菌を豊富に含める腸管において、果して、いかなることが起こるかを見きわめることは、とうてい不可能である。

健全な状態にある腸壁は、病菌の通過を阻止するに違いないけれども、それら病菌の若干が器官および血液に侵入することは論を侯(ま)たない。

種々の動物、馬、犬、兎などについて行なわれた実験の結果によると、食物とともに摂取された細菌の若干は、消化管壁を通過して近傍の淋巴腺、肺臓、牌臓および肝臓に侵入するが、その一方において若干の細菌は、時おり、血液および淋巴中に見出されることがある。

腸壁が絶対的に健全であるときにおいても細菌が通過するか否か、あるいは多少とも傷害を被っている場合に限り、はじめて細菌の通過が行なわれるか否かは議論のあるとことである。

この問題を確定的に解決することは、はなはだしく難しい。

しかしこれは、実際上の問題からすれば、ほとんど、いずれでも同じことであるのが、容易に知られよう。

それというのも、腸壁は極めて容易に損傷されるからである。

 

Human large intestine tissue under microscope view. Histological for human physiology.

 

さらにロス(H. C. Ross)氏[6]は日く、

通例、癌腫の起こるのは、細菌分解を起こす有機物質と絶えず接触する場所、例えば直腸、胃、全腸管、口腔、子宮頸、乳房、包皮、陰嚢等であることを忘れてはならない。

 

著名な外科医にして、かつまた英国癌防止運動協会の会長のマムマリー(Mummery)氏[7]は日く、

結腸癌は、結腸内の含有物が特殊な摩擦を受けやすい個処において、よく起こるようである。

少なくとも、これは事実の若干を明らかにするものといえよう。

先天性巨大結腸に悩まされて最近までセント・マーク病院に入院していた、ある患者(年齢60歳 )を検査したところによると、結腸が拡大して肛門のところまで達し、肛門溝の直上に腺腫性癌腫が見出された。

これは拡大する結腸内に詰まった多量の糞便が、局部を間断なく摩擦するために起こったものであった。

 

またバーカー(Barker)氏[8]は日く、

ロックウッド(Lockwood)氏の記録した病例によれば、下行結腸が二重になって、しかも、これら二つの結腸管が結合する個処に、癌腫が発生していたという。

癌腫は、確かに直腸・S字状部結合個処において起こることが多い。

従って、これらの個処にあっては、一定量の摩擦が起こるものと考えて差支えないであろう。

 

またガント(Samuel Goodwin Gant)氏[9]は日く、

著者の考うるところによれば、絶えざる刺衝および外傷は、直腸およびその他の器官の癌腫を最も発生させやすくする原因であって、その実例としては、喫煙者の口唇癌、煙突掃除夫の陰嚢癌、それからまたX光線専門医やパラフィンおよびワックス製造工などの手を冒す上皮細胞腫、さらに乳房や直腸や子宮頸等を冒す癌腫がある。

直腸は、排便中にしばしば傷害をこうむり、子宮頸は陣痛中に裂傷をこうむるのである。

 

悪性の疾患や変化は、一定の構造に対する単一な傷害から起こることは稀であって、継続または反覆する傷害に伴って起こることが多いものである。

その証拠は、次の事実に見出される。

すなわち結腸癌は、ほとんど常に肛門、S字状部、肝臓部湾曲または牌臓部湾曲において起こるからである。

この部分の結腸は、糞便の通過、または詰まった硬化糞、あるいは異物の排除によって、しばしば傷害されるのである。

外傷が反覆すると、充血を誘致し、当該部分の上皮細胞が披裂されて、ここに、寄生虫やバクテリアや毒素や、あるいは悪性疾患の誘発能因などの侵入に適合する局竈(きょくそう)が開かれるのである。

 

悪性疾患は、また、しばしば、胃・十二指腸および直腸潰瘍、子宮頸痕、傷口、および傷痕組織によって支配される個処等に発生する。

思うに、それは、栄養補給に乏しい傷痕組織が、バクテリアなどを培養し、中胚葉構成素を阻害するからであろう。

 

Human colon. Cross section. 3d illustration

 

またエドワーズ(F. Swinford Edwards)氏[10]は日く、

腸を冒す悪性疾患は直腸内において起こることが最も多い。

直腸癌は四十歳以前に起こることは稀である。

しかし私の知るところによれば、数名の患者は三十歳以下であったにもかかわらず、極めて悪性の癌に、驚くほど速かに冒されたのであった。

直腸癌は女子よりも男子に多いようである。

直腸の痔・瘻および披裂は、肛門部分に癌腫を発生しやすくする能因といえよう。

私の記憶するところによれば、直腸の絨毛腫が、後に至って悪性に変化する病例が、若干あった。

また私は、悪性腺腫に冒された患者一名を処置したこともあったが、これは既存する痔瘻から起こったものであったらしい。

肛門上皮細胞腫に冒された二名の患者は、肛門披裂がその原因であった。

 

 

さらにアダムス(Adams)およびキャシディ(Cassidy)両氏[11]は、結腸癌の病原学については、次の事実以外はほとんど知られていない。

すなわち、結腸癌に最も冒されやすいのは、その原因として刺激の作用が加わりやすい場所であるということ、是である。

従って盲腸あるいは結腸の彎曲部、その他およそ、ある程度の糞便停滞が平常存在する個処においてはすべて、最も頻繁に癌腫の生長を見るのである。

結腸癌の場合においてみるように、炎症の加重、糞便の停滞、重積箝頓(ちょうせきけんとん—積み重なり塞ぐ)等は、しばしば急性梗塞を発生させるが、最初には、おおむね慢性梗塞が所在しているのが例であって、このことは、組織上方のカタル性変化および停滞糞便の分解によって例証される。

腫瘍の潰瘍面から出血をみるのが通例であり、また「症候的痔瘻」の発生することも多い。

拡大性潰瘍、ことに盲腸の拡大性潰瘍は、しばしば直腸癌を伴っている。

 

メーヨー(William J. Mayo)氏[12]は日く、

結腸の癌についていえば、小さい粘膜嚢または憩室に逃げこんだ糞便が、慢性的剌衝を与えるのであって、このような刺衝は、結腸癌の原因として、決定的能因の一つとなることが多いのである。

 

Sir Herman David Weber FRCP (30 December 1823 – 11 November 1918) was a German physician who practiced medicine in England.

ウェーバー(Sir Hermann David Weber)氏[13]は曰く、

便秘は、しばしば結腸炎の原因をなすのみならず、さらに重症な腸疾患をも引き起こす。

硬い糞便が結腸および直腸の粘膜に対して与える剌激は、ある人々の場合においては、癌の可能原因の一つとなるのである。

 

To be continued

 


References

(4) A. C. Jordan. Stasis and the Prevention of Cancer, British Medical Journal, 25 th.Dec., 1920.

(5) Metchnikoff. The Prolongation of Life, 1907, p.42, 69, 71,

(6) H. C. Ross. Journal 0f Cancer Research, 1918.

(7) J. Lockhart Mummery. Diseases of the Rectum and Colon, 1923.

(8) Barker. Cancer, 1933, p.166.

(9) Samuel Goodwin Gant. Diseases of the Rectum and Colon, 1923.

(10) F. Swinford Edwards. Diseases of the Rectum, Anus, and Sigmooid Colon, 1908, p.263.

(11) Adams and Cassidy. Acute Abdominal Diseases, 1913, p.191—202.

(12) William J. Mayo. Mayo Papers, Vol. IV, 1913, p.711.

(13) Sir Hermann Weber. On Means for the Prolongation of Life, London, 1914, p.153.

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