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Nutrition
あなたは、あなたが食べてきたそのものです
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2025.05.23
近年、心血管系の問題や血中脂質代謝に関する新たな知見が蓄積されており、脂質異常を是正する化合物の利用が広まっています。
脂質にはいくつかの分画があり、それぞれが動脈硬化、心臓病、脳卒中などと異なる関連性を持つため、問題は非常に複雑です。
低密度リポタンパク(LDL)コレステロール、高密度リポタンパク(HDL)コレステロール、中性脂肪、リポタンパクなど、すべての指標が基準範囲内にあることが理想的とされています。
1955年、ルドルフ・アルトシュール医学博士、ジェームズ・スティーヴン医学博士、エイブラム・ホッファー博士の3名は、ナイアシン(※ナイアシンアミドではありません)にLDLコレステロールを低下させる作用があることを発見しました。(1)
その後、ナイアシンには中性脂肪を下げる作用もあることが明らかになりました。
それ以降、2000以上の研究によってこれらの知見が裏付けられ、ナイアシンがなぜ脂質に対してこのような作用を示すのかについても研究が進められています。
ナイアシンは、広範囲にわたって脂質を是正する物質と考えられるようになりました。
なお、脂質異常症の治療薬として使われてきた「アトロミドS®(クロフィブラート)」は、死亡率や胆嚢疾患の発生率を上昇させることが報告されています。
また、ナイアシンはコレステロール値が異常に低い人に対しては、コレステロールを増加させる作用を持つことも分かってきました。(2)
つまり、ナイアシンは単にコレステロールを下げるのではなく、血中コレステロールのレベルを正常化させる働きを持っているのです。
さらに、研究により、心血管系の健康の指標としては、総コレステロールよりもHDLコレステロールの方が重要であることが示されました。
被験者はナイアシンを摂取することで、すべての異常な脂質分画がより正常な状態へと改善されました。
このような研究成果により、ナイアシンは脂質改善分野で最も有効な物質のひとつと認識されるようになりました。(3)
ホッファー博士たちは、ナイアシンが冠動脈疾患の発症を有意に減少させると確信していますが、それ単独での解決策とは考えていません。
まずは砂糖を含まない、食物繊維が豊富で脂肪が少ないオーソモレキュラー食を基本とし、必要に応じてナイアシンを摂取するのが理想です。
ナイアシンを服用すると、総コレステロール値は180mg/dL付近に収束する傾向がありますが、これは理想的なレベルだと考えられています。
また、ナイアシンと併せて摂取することが推奨される栄養素としては、動脈硬化に関連するピリドキシン(ビタミンB6)、血管内皮の修復を助けるアスコルビン酸(ビタミンC)、必須脂肪酸、亜鉛などが挙げられます。
家族性高コレステロール血症の場合、食事の改善だけでは不十分なことが多く、コレスチポール(胆汁酸を捕捉する薬)とナイアシンの併用が唯一の有効な治療法とされています。
1975年にナイアシンを含む冠動脈疾患の治療薬に関する大規模研究が行われ、その10年後に約8000人の生存者が再検査を受けました。
治療群では、他の群と比べて平均寿命が2年長く、死亡率が11%低いことが確認されました。(4)
この被験者たちが1975年以降もナイアシンを継続していれば、死亡率はさらに低下していた可能性があり、最大90%の減少も期待できたかもしれません。
アメリカ国立衛生研究所(NIH)は、コレステロール値はまず食事改善で下げるべきとし、それで不十分な場合にはナイアシンなどの薬剤を使用することを推奨しています。
ナイアシンの具体的な作用としては、以下のようなものがあります。
これらの変化に加えて、ナイアシンは死亡率を低下させ、寿命を延ばし、動脈硬化の害を軽減し、脳卒中や冠動脈疾患の発症も減少させることが示されています。(5)
ナイアシンは通常ビタミンとして分類されますが、アミノ酸として捉えてもまったく遜色ないほどの働きを示します。
効率性、長期投与時の安全性、経済性のいずれを取っても、これほどまでに優れた単一物質あるいは複合物質は他にありません。
心血管系疾患における「コレステロール仮説」は、必ずしも十分に受け入れられているわけではありません。
そもそも、コレステロールがこうした疾患に密接に関わっているのかどうかについて、これまで激しい議論が交わされてきましたが、従来の「総コレステロール=動脈硬化の原因」という単純な見方は、もはや修正されるべきです。
現代の視点では、HDLがより重要な指標と考えられていますが、LDLも重要な働きをしており、すでに2015年に米国では「食事によるコレステロールを制限しない」なっています。
製薬業界は、コレステロールを悪者に仕立てることで、抗コロステロール薬で利益をあげる策謀を企てましたが、すでに多くの医師や研究者によって暴露されています。
にもかかわらず、古典的な見解は依然として支配的であり、LDLや総コレステロールを下げる薬が大量に使用されています。
初期の薬である「フィブラート」は、より現代的かつ毒性の高い「スタチン」に置き換えられました。
スタチンが高コレステロールを下げ、心疾患の発症を減らすこと自体は事実ですが、健康全体の向上や寿命延伸に本当に寄与しているのかという点では、明確なエビデンスはほとんどありません。
こうした古い仮説に基づき、何十億ドルもの費用が投じられ、数百万人にスタチンが処方されてきました。
しかし、これが患者に利益をもたらすどころか、大きな副作用を招いている可能性もあります。(6)
したがって、これらの薬は極めて慎重に用いられるべきだと考えられます。
一方、HDLを上げる化合物の使用は極めて効果的であり、その点でナイアシンは群を抜いて優れています。
ナイアシンによってHDLが上昇することを示す確かなエビデンスがあり、さらに先述のように死亡率も同時に低下することが確認されています。
米国の国立冠動脈薬剤プロジェクトに所属し、後にマイアミ心臓研究所で研究監督を務めたエドウィン・ボイル・ジュニア医学博士は、さらに注目すべき結果を報告しています。
彼によると、冠動脈疾患を持つ患者のうち、保険統計上では約62名が死亡すると予測されていたところ、実際に冠動脈血栓で死亡したのは6名のみだったといいます。(7)
これはすでに冠動脈疾患のエピソードを経験した患者の死亡統計ですが、もし初発エピソードが起こる前からナイアシンを投与していたなら、死亡率はさらに低下していた可能性があります。
また、ビタミンB3を1日約2000mg摂取することで、HDLが35%増加し、LDLや中性脂肪は50%も低下したという研究結果が、『ニューヨーク・タイムズ』紙にて報じられました。
この結果を受けて、アメリカ心臓病学会の会長スティーブン・E・ニッセン医学博士は、次のように述べています。
ナイアシンはすばらしい。他の薬ではここまで効くものはない。(8)
ナイアシンは、多くの血管障害に対して広く用いられております。
1938年に始まった研究では、ナイアシンの血管拡張作用に焦点が当てられました。
ナイアシンは血管内に投与しても全く害はありません。
いわゆるナイアシンフラッシュは一時的に軽度の血圧上昇を引き起こしますが、基準値より10%以上上昇することはほとんどなく、5分以内に正常値に戻ります。
その後、一時的な血圧の低下が起こりますが、収縮期血圧への影響の方が大きく、10%以上低下することは稀です。
実用的な意味において、ほとんど悪影響はありません。
循環時間は最大で25%短縮され、心拍出量は収縮期に送り出される血液量の増加に応じて増加します。
肺血管抵抗や末梢の血管抵抗は低下する一方で、酸素消費量は増加します。
ナイアシンが効果を示す症状としては、血管拍動性の頭痛、局所的な血管攣縮、網膜の痙攣による黒内障(黒そこひ)、脳血管性攣縮、末端攣縮症候群などが挙げられます。(9)
ナイアシンが有効な頭痛のタイプには、顔色不良や網膜の血管攣縮を伴う非拍動性の痛みが特徴的です。
ある研究者は、ナイアシンが塞栓症の治療選択肢となることを示しました。
手や足、骨などの基部に近い大血管に塞栓が起こった際、100mgのナイアシンを静脈注射すると、数分以内に痛みが緩和されました。顔色の悪さや低体温、※チアノーゼも改善しました。
チアノーゼ(Cyanosis)とは、体の表面、特に唇や爪、舌などが青紫色に変色してしまう症状を指します。 体内で酸素が十分に行き渡っていない状態を示すサインであり、心臓の病気や肺の機能低下、血液の異常など、体に問題がある時に現れます。
その後数日間、ナイアシンは2〜4時間おきに静脈注射され、さらに6〜8時間おきの投与に切り替えられました。(10)
ナイアシンは脳、脊髄、腎臓、腸間膜、網膜など末梢の動脈にも効果を示しますが、即効性はそこまで強くはありません。
エイブラム・ホッファー博士の高齢の患者の一人は、網膜動脈の塞栓によって片目を失明しましたが、1日3000mgのナイアシンを数週間服用した結果、突然視界がクリアになり、視力が回復しました。
ナイアシンは、異常な動脈血栓の治療選択肢でもあり、動脈の閉塞によって血流が減少した際に生じる障害の軽減にも有効です。
跛行にも効果があり、糖尿病性壊疽によって切断の必要があった症例でも、それを回避できた例があります。(11)
末端の動脈塞栓に対して、ナイアシンは最良の治療手段であり、最も劇的な効果が得られるのは、手足のような身体末端部の血栓症です。
なお、ホッファー博士はナイアシンを脳卒中患者にも使用したことがありましたが、脳機能の回復に非常に役立つと感じました。
周辺組織が本来の機能を取り戻し、壊れた脳組織の代わりを担っているように見受けられます。
ビタミンB₃は冠動脈疾患の治療にも非常に有効であることが分かっており、冠動脈の血流不足が改善されることによって、労作性狭心症や心室伝導障害が改善されました。
ただし、ショックを伴う急性心筋梗塞にはナイアシンは使ってはいけません。
一方、循環動態が安定した後であれば、ナイアシンの使用によって虚血性の不可逆的な損傷を限定的なものにとどめることが期待できます。
エイブラム・ホッファー博士の女性患者で、重度の腎炎と診断され「治らない」と宣告された方がいました。
医師は透析の準備を進めていましたが、ホッファー博士は彼女に、主治医と相談しながら1日3000mgのナイアシンを試すよう勧めました。
主治医はその提案を却下しましたが、彼女はこの選択肢に賭け、ナイアシンを開始しました。
すると1カ月も経たないうちに回復し、今でも元気に過ごしています。
こうした効果は動物実験でも確認されています。
糖尿病のラットにおいて、ナイアシンは血糖値を有意に下げ、糖尿病性腎症の進行を遅らせることがわかっています。(12)
血管性の症状に対しては、一般に100mgのナイアシンを静脈注射することから治療が始められます。
経口投与でも、より多くの量を用いれば同様の効果が期待できるとされています。
50年以上前に、R・グレン・グリーン医学博士は、学習障害および行動障害を持つ子どもたちが、潜在的なペラグラにかかっている子どもたちと非常によく似ていることに気付きました。
これらの子どもたちは、ペラグラに典型的な皮膚病変を呈していなかったため、グリーン医師は彼らを「潜在性ペラグラ患者」と呼びました。(13)
ここでいう「潜在性」とは、病気にかかってはいるものの、初期段階などの理由で症状がはっきりと現れていない状態を指します。
「無症状性」や「亜臨床的」とも呼ばれることがあります。
グリーン医師は、学習障害や行動障害のある子どもたちすべてが、この「潜在性ペラグラ患者群」に含まれると考えました。
そして、これらの子どもたちはオーソモレキュラー療法によく反応し、その中でも特にビタミンB₃が重要な構成要素であることが示されています。(14)
糖尿病患者がナイアシンを摂取し、血中脂質レベルを正常に保つことで、糖尿病の最も深刻な慢性的影響である動脈硬化を防ぐことができると考えられています。
ただし、ナイアシンは血糖値、耐糖能、インスリン必要量にも影響を及ぼす可能性があり、その影響は増加させる場合も減少させる場合もあります。
インスリン依存性の若年成人型糖尿病患者にナイアシンアミドを投与したところ、一部の患者に寛解が見られたことが研究で明らかになっています。
研究者らは、10〜35歳の新たに診断されたインスリン依存型糖尿病患者16名を対象に二重盲検試験を実施しました。
被験者は1日3000mgのナイアシンアミドまたはプラセボを投与され、6カ月経ってもインスリンが必要な場合はナイアシンアミドの投与を中止するという条件でした。
その結果、治療群のうち3名が2年間にわたり寛解状態を維持しましたが、プラセボ群には9カ月以上寛解が続いた者はいませんでした。
研究者らは、以下のように結論づけています。
Ⅰ型糖尿病において、ナイアシンアミドは膵臓のβ細胞の破壊進行を遅らせ、再生を促進することで寛解期間を延ばした。(15)
さらに、動物実験でもナイアシンアミドの効果が確認されています。
症状や組織変性を伴う非肥満性糖尿病(NOD)マウスを使った実験では、糖尿病の人間モデルとしてこのマウスが用いられました。
尿糖陰性の18匹のNODマウスを無作為に2群に分け、一方の9匹には毎日、体重1gあたり0.5mgのナイアシンアミドを皮下注射し、もう一方はコントロール群とされました。
40日後、ナイアシンアミド投与群では、すべてのマウスにおいて耐糖能がほぼ正常化し、膵炎もごく軽度にとどまりました。
対照群の9匹のうち6匹では顕著な尿糖と重度の膵炎が確認されました。
さらに、尿糖が確認された6匹にナイアシンアミドの投与を初日から行ったところ、そのうち4匹で尿糖が消失し、耐糖能も改善しました。
この結果から、NODマウスにおけるナイアシンアミドの予防的・治療的効果が明らかになっており、また、糖尿病初期であればβ細胞の損傷が回復可能であることも示唆されています。(16)
References
(1) Altschul, R., A. Hoffer, and J.D. Stephen. “Influence of Nicotinic Acid on Serum Cholesterol in Man.” Arch Biochem Biophys 54 (1955): 558-559.
(2) Altschul, R.. and A. Hoffer. “The Effect of Nicotinic Acid upon Serum Cholesterol and upon Basal Metabolic Rate of Young Normal Adults.” Arch Biochem Biophys 73 (1958): 420-424.
(3) Carlsons, L.A. “Nicotinic Acid: The Broad-spectrum Lipid Drugs. A 50th Anniversary Review.” J Intern Med 258 (2005): 94-114. Parsons. W. B., Jr. Cholesterol Control Without Diet: The Niacin Solution, 2nd ed. Scottsdale.AZ: Lilac Press, 2003.
(4) Canner, P.L., K.G. Berge, N. K. Wenger, et al. “Fifteen-year Mortality in Coronary Drug Project Patients. Long-term Benefit with Niacin.” J Am Coll Cardiol 8 (1986): 1245-1255.
(5) Hoffer. A., and H. Foster. Feel Better, Live Longer with Vitamin B:i. Toronto, Canada: CCNM Press. 2007.
(6) Wright, J. “Statins: To Whom Should They Be Prescribed.” The Medical Post (Toronto) (February 20, 2007).
(7) Boyle, E. In “The Vitamin B, Therapy: A Second Communication to A.A.’s Physicians. From Bill W. (February 1968).
(8) Mason, M.”An Old Cholesterol Remedy is New Again.” The New lark Times (January 2007).
(9) Condorelli. L. “Nicotinic Acid in the Therapy of the Cardiovascular Apparatus. In Altschul. R. (ed.). Niacin in Vascular Disorders and Hyperlipidemia. Springfield. IL: Charles C Thomas. 196 .
(10) Ibid.
(11) Ibid.
(12) Wahlberg, G.. L.A. Carlson. J. Wasserman. et al. “Protective Effect of Nicotinamide Against Nephropathy in Diabetic Rats. ’ Diabetes Res 2:6 (1985): 307-312.
(13) Green, R.G. “Subclinical Pellagra: Its Diagnosis and Treatment” Schizophrenia 2 (1970): 70-79. Green, R.G. “Subclinical Pellagra—A Central Nervous System Allergy” J Ortho Psych 3 (1974): 312-318. Green. R.G. “Subclinical Pellagra.” In Hoffer. A.. H. Keim, and H. Osmond (eds.). Hoffer- Osmond Diagnostic Test Huntington, NY: Robert E. Krieger. 1975.
(14) Cott, A. “Treatment of Schizophrenic Children.” Schizophrenia 1 (1969): 44-59. Cott. A. “Orthomolecular Approach to the Treatment of Learning Disabilities. J Ortho Molecular Psych 3 (1971): 95-105. Cott, A. “Orthomolecular Approach to the Treatment of Children with Behavioral Disorders and Learning Disabilities.” J Appl Nutr 25 (1973): 15-24. See also: Hoffer, A. Vitamin B- Dependent Child.” Schizophrenia 3 (1971): 107-113. Hoffer. A. “Treatment of Hyperkinetic Children with Nicotinamide and Pyridoxine.” Can Med Assoc J 107 (1972): 111-112
(15) Vague. P . B. Vialettes. V. Lassmann-Vague. et al. “Nicotinamide May Extend Remission Phase in Insulin-dependent Diabetes.” Lancet 1:8533 (1987): 619-620.
(16) Yamada, K„ K. Nonaka, T. Hanafusa, et al “Preventive and Therapeutic Effects of Large-dose Nicotinamide Injections on Diabetes Associated with Insulitis.” Diabetes 31 (1982): 749-753.