栄養
Nutrition
あなたは、あなたが食べてきたそのものです
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あなたは、あなたが食べてきたそのものです
2023.12.01
わたしたちの身体は、酸素を使ってエネルギー(波動)を生み出す仕組みになっています。
呼吸をするのに重要な臓器は肺ですが、酸素を使っているのは肺だけではありません。
60兆個ともいわれる全身の細胞の一つひとつに「ミトコンドリア」という細菌由来のエンジン(細胞内小器官)があって、そこで燃料として使われ、アデノシン三リン酸(ATP)というエネルギー源をつくっています。
ここで重要なのが、マグネシウムと鉄分です。
マグネシウムは、基礎代謝や新陳代謝といった様々な代謝機能を行う酵素にとってなくてはならない成分です。
マグネシウムがなければ、体内の350種以上の酵素は機能することができません。
つまり、エネルギーをつくり出せないのです。
細胞内にマグネシウムが欠乏すれば、あなたは途端に燃料切れとなって、なんだか疲れる、やる気も起きない、そして気がついてみれば、肥満、冷え性、糖尿病、脳卒中、心臓病、高脂血症、高血圧、ガン、痛風、骨粗しょう症、花粉症、アレルギー性鼻炎、喘息、アトピー性皮膚炎、乾癬(かんせん)、リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患、片頭痛、自閉症、認知症、うつ病、パニック障害、ひきこもり、不眠症などの症状を発症します。
これらの病気は、偏った食生活による過剰栄養と現代版栄養失調(マグネシウム欠乏など)、有害物質の摂取、運動不足などがもたらす「酸化ストレス・炎症体質」と、様々な病気因子が結びつくことによって引き起こされます。
そしてこれらの危険因子を長い間、放置してきた代償としてもたらされるのです。
「炎症」とは、感染、刺激、損傷に対して免疫系が活性されている状態です。
マグネシウムを補給するということは、すなわち病気の根本原因である「酸化ストレス・炎症体質」を改善するという意味なのです。
腸内の腐敗は、酸性腐敗便が有害な体毒をつくり出し、全身の細胞を酸化ストレスに晒し損傷させ、炎症体質にして何らかの病気を引き起こします。
ですから「マグネシウム欠乏」と「腸内腐敗」は、同じ結果を招くということです。
ということで、ここからはエネルギー産生に重要なもう一つのミネラル、「鉄分」についてのお話しです。
本稿は必須ミネラルの中で「微量ミネラル」に分類される「鉄分」の重要性について3回に分けてご紹介します。
さて、エンプティカロリー(高カロリーでありながら、栄養は空っぽ)のファストフードやコンビニ食などの超加工食品を食べつづければ、現代版の栄養失調に陥ります。
お腹はイッパイになり食欲は満たされますが、肥満体質となり肥えていきますが体内の栄養バランスは深刻な状態となっていきます。
そしてマグネシウムはもちろんですが、「鉄」も失われることになります。
鉄はミトコンドリアでエネルギーを産生する際に、「酸素を全身の細胞に運ぶ」とても重要な役割を果たしています。
酸素が細胞に適切に届かなければ、酸化ストレス・炎症体質が悪化していきます。
今日、マグネシウムと同様に、実質的に日本人の9割が鉄分欠乏症に陥っていると推測されています。
目次
太陽系第3惑星・地球は、おもに鉄、ケイ素、マグネシウムなどの酸化物からできています。
もっとも多いのが鉄で、地球の総重量の約35%を占めます。
太陽系の他の惑星を見てもその比率の高さは特筆すべきもので、地球は「鉄の惑星」だといっても過言ではありません。
地球に最初の海ができたとき、海中には酸素分子(O2)が存在しませんでした。
やがて地球に最初の生命である、酸素を必要としない嫌気性微生物が誕生します。
その後、葉緑素を持つシアノバクテリア(ストロマトライト)という微生物が繁殖します。
この微生物は太陽エネルギーを使って二酸化炭素(CO2)と水(H2O)から有機物を合成し、代わりに酸素を排出しました。
つまり「光合成」を行なったのです。
嫌気性生物にとって、この酸素は猛毒です。
人間の細胞を傷つけて老化などの原因となる「活性酸素」とは比べものにならないくらいの猛毒だったのです。
しかし、この頃の地球には酸性雨が降り注ぎ、硫酸や塩酸の海となっていました。
多量の鉄はイオン化された状態で溶け込んでいたため、シアノバクテリアが排出した酸素は、これらの鉄と反応して非水溶性の「水酸化鉄」となって海底に沈殿し堆積したのです。
それが現在、世界各地に分布する鉄鉱石の鉱山となっていて、こうしてできた鉄鉱床が地殻変動によって隆起し、地上にあらわれているわけです。
ここでのポイントは、生物にとって猛毒だった酸素が、海水中に溶けていた鉄イオンと反応して酸化され沈殿したという点です。
もし海水中に鉄がなかったら、酸素によって生物はたちどころに死滅していたことでしょう。
そして、生物が「酸素を有効活用するシステム」を体内に構築するのに充分な何十億年という時間を与えられることになったのです。
やがて、ミトコンドリアなどの現在の動物の祖先となる好気性微生物が誕生し、それが真核生物へと進化していきます。
つまり、わたしたちは鉄のおかげで、酸素を生命活動に有効に活用できる生命体へと進化することができたわけです。
ところで、なぜわたしたちの祖先はわざわざ猛毒だった「酸素」を使って呼吸をするようになったのでしょうか?
不思議ですよね?
それは、酸素を使わない嫌気性呼吸に比べ、酸素を使うことで20倍近い量のエネルギーを産生することができたからです。
このエネルギー産生システムこそが、生物の進化の中心的な役割を担うことになったのです。
わたしたちの体内にある鉄分の量は、成人男性でたったの4g、成人女性で2.5gです。
パチンコ玉1個の重さが「5.4g以上5.7g以下」と法令で定められていますから、パチンコ玉1個にも満たない量です。
しかしこの微量ミネラルが、わたしたちの健康の鍵を握っているのです。
ところで、鉄は酸素との反応が非常によいという性質をもっています。
空気に触れるとすぐに錆びてしまうのはそのためです。
これを「酸化」といいます。
ところが、錆びた鉄は加熱して溶かし、酸素を飛ばせば元の鉄に戻ります。
これが「還元」ですね。
つまり鉄は「酸化・還元反応」を容易に引き起こす物質だということです。
この酸化・還元反応は、わたしたちの体内でも常に起きている現象です。
たとえば、酸素を取り込んで二酸化炭素を吐き出すというのもそのひとつです。
要するに「鉄」というのは、「生命活動に直結する重要な物質」だということなのです。
呼吸によって体内に取り込まれた酸素は、二価鉄を含む色素「ヘム」と、タンパク質「グロブリン」からなる複合タンパク質「ヘモグロビン」として全身に運ばれる仕組みになっています。
このヘモグロビンに抱き込まれている鉄は、酸素が多いところでは酸素と結合し、酸素が少ないところでは逆に酸素を解き放ち、二酸化炭素を取り込みます。
この仕組みによって、体内の酸素量を調節し、過不足がないよう適切な場所へ適切な量の酸素を運んでくれるというわけです。
全身のすみずみに酸素がきちんと行き渡れば、60兆個ある細胞の一つひとつが活性化して新陳代謝が活発になり、免疫力も高まります。
免疫力が高まれば、当然のように病気になりにくくなりますよね。
このことから、体内の「鉄」が充分に働いてくれるかどうかによって、わたしたちの健康が左右されているということがわかります。
前述の通り、生命は海から生まれました。
生物の細胞液の組成が、海水に近いのはそのためです。
ただし、生命の誕生は、海水中に溶けている鉄の量が変化する(酸化されて減少する)、その過程で起こりました。
その当時の水中には、まだ多くの鉄が溶け込んでいる状態だったのです。
その濃度は現在の数万倍だったといわれています。
海で誕生した生命は、やがて単細胞生物から今日の生物の起源となる多細胞生物へと進化していきます。
海に鉄が豊富にあった時代に誕生した好気性生物は、酸素を効率よくエネルギーに変換するために、その鉄を細胞内に組み込むことにしたのです。
ところが、多量の鉄が溶けていた海水は酸素によって酸化されていき、やがて現在のような鉄をほとんど含まない海水へと変化してしまいました。
生命活動を維持するために鉄を必要とする仕組みをつくり上げた生物にとって、海は生存しにくい環境となってしまったのです。
ここで生命は新たな変化を余儀なくされました。
海底まで行くことができれば、鉄はたくさん沈んでいましたが、それは簡単なことではありません。
水圧ですね。
ではどうしたのでしょうか?
海中にはなくても、鉄は陸上にたくさん存在していました。
そうした鉄を求めて、海辺に生息するバクテリアや藻類、地衣類などのなかから、海を出て地上へと進出を始めるものがあらわれたのです。
それらはやがて地表部分の鉄を取り込むために「根」を持つ生物となりました。
これが「植物」の誕生ですね。
植物は最初、海辺や水辺で繁栄を始めました。
さらにその植物を食べることによって鉄を摂取する動物が誕生します。
こうして「食物連鎖」が誕生し、鉄が受け渡されていくシステムが作られていったのです。
微量ミネラルといっても、人体にとって、鉄は今でも非常に貴重です。
したがって、鉄に関しては他のミネラルのように「排泄機構」(過剰に摂取した分は尿から排泄し、不足時には腎臓で回収率を上げて調節する仕組み )を持ちません。
体内で循環し、無駄なくリサイクルできるような仕組みになっているのです。
しかし、消化管上皮細胞部の剥落や汗などとともに、毎日1㎎ほどが消失し、その分を補給しなければなりません。
わたしたちは食物連鎖を通じて、日々不足した鉄を補給しています。
しかし、それがうまくいっていないために、多くの人が体の不調に悩まされているというわけです。
前述の通り、現代版の栄養失調です。
植物に必要な三大栄養素は、「窒素、リン、カリウム」です。
それに加えて、鉄とマグネシウムも必要です。
これらが不足すると植物は葉緑素を作ることができません。
つまり、光合成ができないのです。
それでは、植物はどのような仕組みで鉄を取り込んでいるのでしょうか?
鉄は、酸素、ケイ素、アルミニウムに次いで地殻中に多く含まれる元素で、地殻質量の約5%を占めます。
陸上の鉄も、水に溶けない水酸化鉄の形で存在しています。
このままでは植物は、鉄を吸収することができません。
そこで、植物は大きく2つの鉄吸収機能を進化させてきました。
● 根からの分泌物によって鉄をキレート化して吸収する
● 根の表面にて還元酵素を産生し、三価鉄を二価鉄に還元してから吸収する
「キレート化(結合)」というのは、吸収しにくい養分をアミノ酸や有機酸を使って吸収しやすい形に変えることをいいます。
たとえばイネ科の植物は、根から「ムギ根酸」 というキレー ト化物質を分泌して、水に溶けやすいキレート化合物「三価鉄・ムギ根酸」に変換してから鉄を吸収しています。
一方、イネ科以外の植物は、根の表面にある三価鉄還元酵素を使って、三価鉄を水に溶けやすい二価鉄に還元してから吸収しているのです。
「連作障害」 という言葉を聞いたことがありますよね。
かつては「忌地(いやち)」 と呼ばれ、ひとつの耕作地で同一の作物(あるいはそれに近い種の作物 )を連続して作付けすると、作物の生育が悪くなってしまう現象のことをいいます。
この原因にも鉄不足が関係しています。
よく「土地が痩せる」 という言い方をしますよね。
その原因はさまざまですが、鉄やマグネシウムの欠乏がおもな原因のひとつなのです。
たとえば汚れのない湧き水が海に流れ込んでも、それで海が豊かになるわけではありません。
海を豊かにするのは、見た目がきれいなだけの川ではなく、上流に豊かな森があることなのです。
もちろん、ゴミなどのないきれいな川であるべきですが…。
森林では、落葉や動物の死骸などが微生物によって分解され、腐植土(おもに腐葉土) がつくられます。
この腐植土には、「フミン酸」や「フルボ酸」といったキレート物質が含まれていて、特に「フルボ酸」は、水に溶けない水酸化鉄(三価鉄)を、植物が吸収しやすい二価鉄のキレート物質「フルボ酸鉄」としてたくわえる働きを持っています。
このフルボ酸鉄は、空気に触れても酸化されないため、雨水などの水系を通して海へ運ばれると、藻類や海藻類、植物性プランクトンなどがそのまま取り込んで利用することができます。
それらが繁殖すると、植物性プランクトンを求めて動物性プランクトンが、さらに動物性プランクトンを求めて小型の魚介類が集まってきます。
さらに、フルボ酸鉄によって豊かに育った藻類や海藻類がそれらの繁殖場所にもなるのです。
こうした循環を通じて、海は豊かになっていくというわけです。
近年、近海の漁場を再興するために、そこに流れ込む川の上流部にある森を手入れしたり、植林したりする活動が盛んに行なわれています。
その活動の原点にあるのは、森から海に「鉄」を届けるということです。
海を豊かにするには森からの「鉄」なのです。
かつて、海中から鉄がなくなり生物が棲めなくなってしまいました。
自然界では、その海に鉄を戻す仕組みがちゃんと備わっているのです。
その偉大なる自然のシステムを、人間は身勝手にも壊しています。
なんと罪深いことでしょうか。
これからの季節、使い捨てカイロを常用している方も多いと思います。
さて、この使い捨てカイロ、海や川の浄化に一役買っています。
使い捨てカイロは、鉄粉が空気に触れて酸化する(錆びる)ときに発熱する性質を利用しています。
その発熱を促進するために、塩類、活性炭、保水材を加えているので、使用後はおもに酸化鉄と炭からなる廃棄物となります。
この使用後の使い捨てカイロの中身に、クエン酸や糊を混ぜて5センチほどの団子状に固めて焼くと「鉄炭団子」ができます。
これを汚染された海に散布するという取り組みが各地で行なわれています。
鉄炭団子をヘドロまみれの河川や海岸に投入すると、ヘドロが激減して悪臭が消え、水質も改善されてさまざまな水生生物が戻ってくるというのです。
最近では、使い捨てカイロの酸化鉄では効率が悪いことから、町工場から出る鉄の削り粉を用いているそうです。
実際、ヘドロが残る山口県の瀬戸内海側では、水質浄化や水生生物の繁殖などに一定の成果を上げています。
しかし、ヘドロの少ない日本海側ではその効果が顕著ではありません。
ヘドロがないということは、酸素が充分に含まれる好気環境だということです。
そうした場所では、二価鉄はただちに酸化されて三価鉄になってしまうため、植物が利用することができないのでしょう。
また、瀬戸内海の泥のなかには、シデロフォアというキレート物質を放出するシデロフォア産生菌がいることも、効果が上がっている要因かもしれません。
この産生菌は、増殖するために鉄が必要なときにはシデロフォアを出して鉄を取り込み、鉄量が増えてバクテリアが増えると、逆にシデロフォアの産生量を減らします。
いずれにせよ、「鉄炭団子」によって鉄を海へ戻すということは意義深いことです。
もっといえば、健全な海を取り戻すためには、その上流にある森林の豊かさを取り戻すほうが理に適っています。
しかし、それには長い年月が必要になります。
ちなみに、地球上の原生林は、文明が始まったおよそ8000年前と比較すると約8割が消滅したといわれています。
とくに19世紀の産業革命以降は、燃料材や建築材としての森林伐採、20世紀後半の熱帯地域の開発途上国での爆発的な人口増大にともなう食料確保のための耕地開墾などで多くの森林が消失しました。
世界的に見ると、現在でも木材の用途の半分は燃料として利用されています。
1990年の森林面積41.28億ヘクタールに対し、25年後の2015年には39.99億ヘクタールと、約3.1%、日本の国土の3.4倍もの森林が消滅しました。
森林の減少は、地球温暖化だけではなく、海の生物への影響も考慮しなければならない問題でもあるのです。
本稿のVolume 2では、以下のコンテンツをご紹介しています。
● 体内の鉄分の大部分はどこに貯蔵されているのか?
● 1日に補給する鉄分の量は何ミリグラム必要か?
● レバーと小松菜、貧血時に摂るならどっち?
● 玄米に含まれる「フィチン酸」は鉄分を排泄してしまうのか?
● 果たして「ひじき」は鉄分補給に向いているのか?
● 鉄剤や鉄分の多い食品を摂れば、鉄はいつでも充分補えるわけではありません
● アスリートには意外と貧血の人が多い
鉄分欠乏症 Volume 2はこちらからご覧いただけます。
https://minus-chokaz.jp/nutrition/4526/
Reference
後藤日出夫『鉄マグ欠乏症』健康ジャーナル 他