栄養

Nutrition

あなたは、あなたが食べてきたそのものです

現代人が大好きな「砂糖」のお話し

2022.11.25

2011年、科学ジャーナリストで『ヒトはなぜ太るのか?』の著者でもあるゲーリー・トーベスが、ニューヨーク・タイムズに「砂糖は毒か?」というタイトルのエッセイを寄稿して注目を集めました。[1]

トーベスは、砂糖にまつわる食品の歴史だけでなく、砂糖が人体に及ぼす影響を最新の科学的知見に基づいて説明しています。

2016年には「砂糖に対する訴訟」というタイトルのエッセイを発表し、砂糖が慢性病の主な原因であると批判しています。[2]

カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学大学院の小児ホルモン障害の専門家で小児肥満研究の第一人者であるロバート・ラスティグも、この話題について幅広く執筆しています。

 

砂糖はご褒美。砂糖は昔は楽しめたものだが 、今は日常的に私たちの舌に塗りこまれている。

それは食事の主食と化し、私たちを殺しているのだ。 ─ Dr. Robert H. Lustig

Robert H. Lustig (born 1957) is an American pediatric endocrinologist. He is Professor emeritus of Pediatrics in the Division of Endocrinology at the University of California, San Francisco (UCSF), where he specialized in neuroendocrinology and childhood obesity. He is also director of UCSF’s WATCH program (Weight Assessment for Teen and Child Health), and president and co-founder of the non-profit Institute for Responsible Nutrition.

 

ベストセラーとなった『果糖中毒─19億人が太りすぎの世界はどのように生まれたのか?』(中里京子訳 ダイヤモンド社)の著者でもあるラスティグによると、身体は各種の糖を異なる方法で代謝するといいます。[3]

糖の最も単純な形態である純粋なグルコース(ブドウ糖)は、白色のグラニュー糖と同じものではありません。

グラニュー糖の主成分はショ糖で、グルコースとフルクトース(果糖)が結合したものなのです。

ちなみに、フルクトースは、果物と蜂蜜に豊富に含まれている糖質で、自然界に存在する天然の糖質の中で最も甘い糖です。

実は、グルコースとフルクトースのカロリーは同じです。

しかし、体内で処理される方法には、次のような違いがあるのです。

グルコースは血糖値を上昇させ、全身の細胞によって代謝されます。

一方、フルクトースは、肝臓で吸収、処理され、インスリン値にもすぐには影響しません。

また、フルクトースをジュースなどの液体として飲むことは、果物や蜂蜜から同量を摂取することと同じではありません。

フルクトースは天然の糖類の中で最もGI値(グリセミック指数)が低く、すぐに血糖値の急上昇を引き起こすわけではありませんが、過剰に摂取すると(特に、天然ではない場合)、長期的に悪影響を及ぼす可能性があります。

中でも悪名高いのは「HFCS 高フルクトース・コーンシロップ(ブドウ糖果糖液糖)」です。

フルクトースの摂取が対糖能障害やインスリン抵抗性、高脂質、高血圧と関連することは、研究によって以前から知られています。

フルクトースを過剰摂取しても、代謝と食欲を調節するホルモンであるインスリンとレプチンの産生が誘発されないため代謝に悪影響が及びます。

このメカニズムは、フルクトースを豊富に含む食事が肥満や代謝疾患につながる仕組みを理解するのに役立ちます。

旧石器時代の人々は果物を食べていましたが、決して頻繁ではありませんでした。

旬のときにだけ食べていた果物は、普段わたしたちが食べている栽培されたものほど甘くなかったのです。

果物は体に良い食べ物だと、ほとんどの人が信じています。

もちろん、ビタミンや食物繊維の摂取などにおいてはメリットをもたらしますが、厄介なのは、わたしたちの食欲をそそる「甘み」、つまり過剰なフルクトースなのです。

現代人の身体は時代に遅れていて、わたしたちが摂取する大量のフルクトースを処理できるようには進化していないのです。

そしてさらに厄介なのは、今日わたしたちが口にするフルクトースの大部分は、天然ではなく「工場で生産」されたものだということです。

天然の果物は、大量のフルクトースで甘さを加えた清涼飲料水に比べれば、糖質の量は少量です。

glasses of apple juice with fresh fruits on a wooden table in a garden

たとえば、中サイズのリンゴ1個と12オンス缶(約350ミリリットル)のフルクトース入り清涼飲料水を比較してみましょう。

リンゴには約44キロカロリー分の糖質が含まれていますが、果肉には水溶性のペクチン繊維、皮には不溶性の繊維と、食物繊維が豊富に含まれています。

一方、清涼飲料水のフルクトースはリンゴの倍の約80キロカロリーで、食物繊維はまったく含まれていません。

リンゴを絞ってリンゴジュースをつくり、その液体を濃縮して350ミリリットルにすれば、フルクトースとカロリーの点では清涼飲料水とほぼ同じ飲み物になります。

肝臓でフルクトースの大半は脂肪に変わり、脂肪細胞に蓄えられます。

何十年も前から、生化学者はフルクトースを最も太りやすい糖質と考えてきました。

食事のたびに、フルクトースを脂肪に変える作業を身体に強いていたら、何が起こるでしょうか?

このような状況がつづけば、そのうち筋肉組織にもインスリン抵抗性が生じてしまいます(つまり、肥満・糖尿病になる)。

前述のように、わたしたちが摂取するフルクトースの大部分は天然由来ではありません。

現代人は、大量の精製された砂糖を消費し、このうちの大部分を加工食品で主流となっている高度に加工されたHFCS(高フルクトース・コーンシロップ)から摂っています。

一般的な統計データでは、HFCSの成分構成は、フルクトースが55パーセント、グルコースが42パーセントで、残りの3パーセントは他の糖質とされていますが、この割合は製品によって異なります。

研究によれば、HFCSには、ラベルに記載された値よりもはるかに多くの遊離フルクトースが含まれていることがあるからです。

つまり、HFCSがたっぷり入った加工食品を食べると、自分が思っている以上の量の糖分を摂取している可能性があるということです。

これはジャンクフードや菓子類、清涼飲料水に限った話しではありません。

HFCSは、調味料やサラダ用ドレッシング、エナジーバー、ヨーグルト、パンなど、身近でよく食べる多くの食品にも多用されているのです。

現代人の多くが、本来人類が遺伝的にはほとんど発症しないはずの生活習慣病に苦しんでいることと、激増した精製糖質は無関係ではありません。

もし精製糖質入りの加工食品を大量に販売する加工食品産業がなければ、肥満は珍しかったはずです。

断食博士・甲田光雄医師も著書『白砂糖の害は恐ろしい―これを防ぐために』で、砂糖の健康被害について言及しています。

そして今日、世界の多くの研究者がそれを裏づけています。

 


References

1 Gary Taubes, “Is Sugar Toxic?,” New York Times, April 13, 2011.

2 Gary Taubes, The Case Against Sugar (New York: Knopf, 2016)

3 Robert Lustig, Fat Chance: Beating the Odds Against Sugar, Processed Food, Obesty, and Disease ( New York: Hudson Street Press, 2012)

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