栄養
Nutrition
あなたは、あなたが食べてきたそのものです
Nutrition
あなたは、あなたが食べてきたそのものです
2022.11.04
人類の祖先の食事に「乳製品」「穀類」「加工糖」「植物油」「アルコール」は無かった
There were no “Dairy products,” “Grains,” “Processed sugars,” “Vegetable oils,” or “Alcohol” in the diet of our ancestors.
現代人の食生活は、控えめに言っても、身体が進化の過程で築いてきた「遺伝的遺産」と、まったく一致していないようです。
著名な地理学者でピューリッツァー賞を受賞した作家でもあるジャレド・ダイヤモンド(米国の進化生物学者、生理学者、生物地理学者)は、農耕の出現で人類の身長と寿命が変化したことにいち早く注目し、それを「人類史上最悪の過ち」と言いました。[1]
狩猟採集民族の食事が初期の農耕民とは対照的にとても多様だったことに触れ、農耕革命によって物々交換などの取引が発達し、その結果、細菌や感染症が蔓延したかもしれないと指摘しています。
そして、人類が農耕を取り入れたのは「より良い生活に踏み出す決定的な一歩と思われているが、実は多くの点で、人類にとって二度と取り返しのつかない大失敗だった」と述べています。
歴史家のユヴァル・ノア・ハラリ(イスラエルの歴史学者)もベストセラーとなった著書『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』(柴田裕之訳・河出書房新社)の中でこの考えを支持しています。
農耕革命は確かに人間が自由に扱える食べ物を増やしたが、それはより質の高い食事や余暇の拡大にはつながらなかった。
農耕革命は人類史上最大の詐欺だった。[2]
狩猟採集から農耕へのシフトには、メリットもありました。
人類が人口を急速に増やし、安定したコミュニティを確立したことに、農耕が大きく貢献したことに間違いはありません。
しかし、食べ物の量は豊かになりましたが、質は必ずしも健康的にはならず、食べ物が入手しやすくなったため、必要以上のカロリーを摂取してしまうというパラドックスに陥ってしまったのです。
また、農耕は食生活の多様性も低下させてしまいました。
特に、人工的に精製された原料をふんだんに使用した小麦などの穀物ベースの加工食品が生産されるようになると、人々は太りやすく、病気にもなりやすくなったのです。
このように、農耕の出現は、世界中の人々の健康と幸福において悲惨な結果をもたらすことになったのです。
かつて、わたしたちの祖先は高脂肪の肉や内臓、脳、淡水の魚介類、脂質の多いナッツや種子、ココナッツ、アボカドなどをたくさん食べていました。
マンモスや象、カバなどの脂肪の多い動物を好み、鹿や小動物など脂肪の少ない獲物は、大物が獲れなかったとき以外は犬の餌にしていました。
農耕が始まったことで、南ヨーロッパの人々の身長は約15センチ低くなり、平均寿命も10年短くなったことが解っています。
北米ではコロンブスが発見する100年前に農耕が普及しましたが、先住民にも同様の変化が観察されています。
逆に、農業化の流れに与しなかった集団はどうだったのでしょうか?
たとえば、水牛を主食にしていたオーセージ族、カイオワ族、ラックフット族、ショショニ族、アシニボイン族、ラコタ族などの遊牧民族は、小麦とトウモロコシを主食にしていたヨーロッパからの移住者よりも10〜20センチ身長が高かったのです。
興味深いことに、肉とミルクを主食とする遊牧民である東アフリカのマサイ族も、並外れた身長と身体能力で知られています。
またカナダ北東部の奥地では、20世紀前半当時でも、心臓病やガン、アルツハイマー病に罹る人がほとんどいませんでしたが、「文明」の近くに住み、小麦粉と砂糖を日常的に摂取する社会には、これらの病気が蔓延したのです。
農耕革命は1万2000年あまり前に始まりましたが、精製糖質(砂糖と小麦粉)を日常的に食べる人は、中世までほとんどいませんでした。
19世紀、政府の指示で現地に派遣されて先住民の調査を実施した欧米の医師団は、かつては健康的で痩せていた狩猟採集民族が、小麦や砂糖の摂取量が増えると急激に肥満になり、欧米人と同じガンや心臓病、高血圧、Ⅱ型糖尿病、肥満、虫歯、自己免疫疾患、骨粗しょう症、アルツハイマー病などの文明病(生活習慣病・慢性病)を発症するようになったと記録しています。
これは米国のお話しですが、19世紀前半、平均的な米国人の砂糖の消費量は1年間に7キログラム弱でしたが、20世紀末には10倍近くの54キログラムに増加しています。[3]
また、冷蔵保存技術の発達と輸送インフラの整備によって乳製品が日々の食卓に欠かせないものとなりました。
食生活が欧米化した日本も、米国同様の道を辿っています。
歴史的に大きなライフスタイルの変化により、わたしたちの身体は血糖値と分岐鎖アミノ酸(BCAA)値が上昇し、その結果、1年中、オートファジーがオフになった状態になっています。
「パレオ・ムーブメント」の創始者としても知られる米国コロラド州立大学のローレン・コルダイン名誉教授によると、穀物を粉砕するための道具は4万〜1万2000年前の後期旧石器時代に初めて現れています。
しかし、狩猟採集民族による穀物の恒常的かつ持続的な摂取の証拠が初めて確認されたのは、約1万3000年前、東地中海地域のレバントにおけるナトゥフ文化です。[4]
動物の家畜化は1万1000〜1万年前から始まりましたが、ミルクが日常的な食料にされていたことを示す確かなエビデンス(証拠)は6000年前が最古です。
蜂蜜は狩猟採集民族の食生活のごく一部に過ぎなかったと考えられており、サトウキビから結晶糖がつくられ始めたのは約2500年前のインドです。
オリーブオイルは約6000年前に初めてつくられた人口油の一つです。
他の食用油は、19世紀後半の産業革命によって大量生産が可能になるまで、ほとんど知られていませんでした。
ワインが初めて醸造されたのは約7500年前、初めて穀物からビールがつくられたのは約4000年前と考えられています。
蒸留酒は約1200年前まではつくられていませんでした。
現在、先進国の人々が摂取するカロリーの約4分の3を占めるこれらの食品群は、人類の歴史からすれば、ごく最近、食生活に取り入れられたばかりです。
ですから、現代人がこれらの食品に適応しているとは考えづらいのです。
狩猟採集から農耕へのシフトは、地域によって事情が異なります。
北ヨーロッパやイングランド、スコットランドでは、約2000年〜1500年前まで、農耕は一般的ではありませんでした。
さらに、現代の欧米人の食事に豊富に含まれている精製糖質や、穀物の飼料で育てられた家畜、フルクトース(果糖)のような単糖類も、まだ100〜200年の歴史しかありません。
考えたこともないと思いますが、人体がこれらの食品に適応(進化)するには短すぎるのです。
「乳製品」「穀類」「加工糖」「植物油」「アルコール」
わたしたちの人体が適応していないこれらの食べ物を、長い時間、腸内にとどめておくメリットは何もありません。
むしろデメリットになります。
食べた物の残渣(便)は、なるべく早く体外に排出してください。
腐敗の進行過程である「バナナ状の便」になるまで、大腸内にとどめておくメリットは何もありません。
References
1 Jared Diamond, “The Worst Mistake un the History of the Human Race,” Discover, May 1, 1987, 64-66.
2 Yuval Noaj Harari, Sapiens: A Brief History of Humankind (New York: Harper, 2015), 91-92.
3 “The Sugar Timeline,”Hippocrates Health Institute, September 9, 2016.
T.L. Cleave, The Saccharine Disease: Conditions Caused by the Taking of Refined Carbohydrates, Such as Sugar and White Flour(Bristol: John Wright & Sons, 1974).
4 Loren Cordain, S. Boyd Eaton, Anthony Sebastian, et al., “Origins and Evolution of the Western Diet: Health Implications for the 21st Century,” The American Journal of Clinical Nutrition 81, no.2 (February 2005): 341-54.