人体
Human body
大自然の叡智の結晶・人体
Human body
大自然の叡智の結晶・人体
2023.02.10
あなたの体の細胞も、骨も筋肉も、脳も腎臓も、爪もまつ毛も、そして体内をめぐる5.5リットルほどの血液も、すべてあなたの食べた食物のかけらを組み合わせてつくられています。
そして、あなたが食べた物も、何かを食べてつくられています。
ということは、「あなたは、あなたが食べた物が、食べた物でできている」のです。
食物連鎖ということなのですが、、
ちょっと、ややこしいですか?!
しかし、となると、、
今日では、かなりの数の日本人が、歩いて話しをするジャンクフードだと思うと、ちょっとゾッとしますね !?
さて、あなたは何からできているのでしょうか?
想像してみてください…。
あなたの目の前にある、焼きあがったばかりの美味しそうなピザ…。
湯気がたってますね〜。
研究者はこのような美味しい食べ物を「嗜好性が高い」と言います。
一口食べて咀嚼すると、パン、ソース、ソーセージ、チーズが贅沢に混ざり合って「味蕾」の上で踊りはじめます。
クラストが歯にあたり、口蓋の奥から芳醇な匂いが立ち上がって鼻を満たします。
そして味覚と臭覚、触覚などのハーモニーに脳が反応し、報酬系が活性化してドーパミンや内在性カンナビノイドなどが分泌され、あなたに快楽をもたらします。
いかがですか !?
最高ですね!
ヒトの脳は食物、とくに「脂肪」と「糖類」に対して強く反応する仕組みになっているのです。[1]
さあ、ここからあなたの体内では「錬金術」がはじまります。
あなたの体には「パラケルスス」が棲んでいるのでしょうか?[2]
錬金術とは、つまり「代謝」です。
ところで、このよく耳にする「代謝」とはいったい何なのでしょうか?
代謝(metabolism)は、体の細胞のすべての働きをカバーする幅広い用語です。
代謝は生物の生存と機能に不可欠な一連の化学反応で、代謝の主な機能は大きく3つあります。
①食物の細胞プロセスを実行するためのエネルギーに変換すること。
②食物をタンパク質、脂質、核酸および一部の炭水化物の合成に必要な構成成分に変換すること。
③そして、代謝廃棄物を排出することです。
酵素が触媒するこれらの反応によって生物は成長し、繁殖し、構造を維持し、環境に対応することができるのです。
ちなみに「メタボリックシンドローム」とは、内臓肥満に高血圧・高血糖・脂質代謝異常が組み合わさることにより、心臓病や脳卒中などになりやすい病態を指します。
あなたやわたしの体は、体液が入った歩くバケツのようなものです。
そのバケツの中で「酵素」や「ホルモン」、「神経伝達物質」、「DNA」などの無数の分子が相互に作用しています。
しかし、これらの分子は、食物から直接使える形で取り出せるわけではありません。
エネルギーや構成物質として利用するために、細胞は血液中の栄養素やその他有用な分子を、細胞膜を通して絶えず取り込んでいます。
そして、その分子を別のものに変え、体で利用できるように細胞膜の外に押し出しているのです。
たとえば、子宮の細胞はコレステロールの分子を取り込んで、全身に作用するホルモン「エストロゲン」をつくり、血液の中に送っています。
神経細胞は細胞内の電位をマイナスに保つために、常にイオンの汲み入れ、汲み出しを行っています。
また、膵臓の細胞はDNAの助けを借りて、アミノ酸からインスリンやさまざまな消化酵素をつくります。
代謝を行うわたしたちの体は、今も膨大な量の仕事(錬金術)をこなしているのです。
この仕事にはエネルギーを必要としますよね !?
物理学的には、仕事とはエネルギーのことなのです。
「運動エネルギー」はわかりやすいかもしれませんが、「熱」もエネルギーの一般的な形態の一つです。
ガソリンの燃焼によって生まれたエネルギーは、車を走行させるためになされた仕事とエンジンが生み出した熱の合計に等しい。
つまり人体であれ、車であれ、スマートフォンであれ、消費されたエネルギーは、常に、そのエネルギーを使ってなされた仕事と発生した熱の和に等しいのです。
Portrait of Monsieur Lavoisier and His Wife.
「代謝とは本質的に燃焼である」ということを発見したのが、近代化学の父といわれるアントワーヌ・ラヴォアジエです。
ラヴォアジエは「質量保存の法則」を発見したことでも知られていますよね。
おっとそれから、酸素を初めて発見したのはジョセフ・プリーストリーですが、「酸素(オキシジェーヌ oxygene)」と命名したのはラヴォアジエでしたよね。
というわけで、すべてのものが物理の同じ法則に従っているというわけなのですが、、
食物に含まれている化学エネルギーであれ、火がもつ熱であれ、機械がする仕事であれ、エネルギーの標準的単位は「カロリー」と「ジュール」[3]で表されます。
日本で食物の話しをするときは「カロリー」を使うのが一般的ですね。
1カロリーは、「1ミリリットルの水の温度を1度上げるのに必要な熱量」と定義されています。
しかしわたしたちがカロリーというとき、実際には「キロカロリー」、つまり1000カロリーの話しをしているのです。
ではなぜ「カロリー」ばかりを使い「キロカロリー」と言わないのでしょうか?
実は、1800年代の終わりに科学者たちは食品に含まれるエネルギーの推奨単位に「カロリー(calorie)」を選びましたが、このとき、アメリカの栄養学の先駆者で大きな影響力があったウィルバー・オリン・アトウォーター(Wilbur Olin Atwater・1844~1907)が、古くからの不可解な慣例にこだわって、キロカロリーといいたいときは「Calorie」と「calorie」の語頭を大文字で書くことを決めたからなのです。[4]
以来、わたしたちは食品ラベルの紛らわしいカロリー表示に煩わされているわけです。
体を維持する洗練された代謝の仕組みをわたしたちは当然のように思っていますが、これは進化の驚異なのです。
今日見られる「単細胞生物」のもっとも単純な代謝システムの基本となる形が地球上に現れるまでにおよそ10億年を要したと考えられています。
そして、組織化された代謝システムと役割分担がなされた最も単純な「多細胞生物」が現れるまでに、さらに20億年が必要だったようです。
わたしたち人間の体が行うあらゆる仕事のためのエネルギーを供給するのは、もとは別の生命だったミトコンドリアで、この微生物はわたしたちの細胞に住み着いています。
ミトコンドリアは自身のDNAと20億年に及ぶ進化の歴史をもち、その歴史には地球上のすべての生き物を絶対絶命のピンチから救ったことも含まれます。
今日の地球では、虫からタコ、象まで、すべての動物がエンジンとして働く細胞を体内にもつ仕組みを取り入れて生き延びてきたのです。
また、食べたものを利用できる形になるまで分解する仕事の大半を担っているのは、消化管の中に広がる生態系です。
この微生物叢(マイクロバイオーム)は何兆もの細菌からできていて、それらはわたしたちの消化管の端から端までを棲家としています。
あなたの「ヒトとしての遺伝子の数」は、あなたの体内に棲むマイクロバイオームの遺伝子の1%未満でしかありません。
この膨大な数のマイクロバイオームは、代謝をはじめ、あなたが生きていく上でのかなりの仕事を担っているのです。
わたしたちは体内に微生物がいなければ、生きられません。
ヒトは細菌などの微生物と、共生して進化してきました。
あなたもわたしも「ヒト」と「微生物」が合体した「複合生物」なのです。
わたしたちは、「一部は人間」、「一部はその他の生命体」という、歩く「キメラ」であり、「命を失った食物を、生きた人間に変えるという奇跡」を、何も考えずに行なっています。[5]
パラケルススもビックリ、まさに錬金術です。
人体とは見事なものですね!
ちょっと余談ですが、
ピザなどに使われるチーズのような乳製品を食べると、体調が悪くなるという人がいます。
なぜなのか?
乳製品に含まれるカロリーの多くは「乳糖」です。
乳糖はブドウ糖(グルコース)とガラクトースが結合した二糖類です。
哺乳類全般に見られることですが、乳糖をブドウ糖とガラクトースに分解するには「ラクターゼ」という酵素が必要なのです。
赤ん坊は、母乳を分解するためにラクターゼの分泌が多いのですが、成人はそうではありません。
大半の人、そして1万年以上前に生きていたすべての人は、普通、子ども時代の終わりとともにこれに関わる遺伝子がラクターゼの合成をやめる仕組みになっています。
これは乳糖不耐症の大人にとって問題です。
乳糖不耐症の人が乳製品を摂ると、乳糖がそのまま大腸に入り、大腸内のマイクロバイオームによって分解(醗酵)され、大量のガスが発生する(膨満感)など、なんとも困ったさまざまな症状を引き起こします。
人前でのオナラは、ちょっと困りますね 😱
おまけに、乳製品は動物性のタンパク質ですから、ニオイもキツイ…。
References & Footnote
1 M. Alonso-Alonso et al. (2015). “Food reward system: Current perspectives and future research needs.” Nutr. Rev. 73(5): 296-307. doi: n10.1093/nutrit/nuv002.
2 パラケルスス(Paracelsus)こと本名:テオフラストゥス・(フォン)・ホーエンハイム(Theophrastus (von) Hohenheim, 1493年11月10日または12月17日 – 1541年9月24日)は、スイスアインジーデルン出身の医師、化学者、錬金術師、神秘思想家。悪魔使いであったという伝承もあるが、根拠はない。後世ではフィリップス・アウレオールス・テオフラストゥス・ボンバストゥス・フォン・ホーエンハイム(Philippus Aureolus Theophrastus Bombastus von Hohenheim)という長大な名が本名として広まったが、存命中一度も使われていない。バーゼル大学で医学を講じた1年間を例外に、生涯のほとんどを放浪して過ごした。
3 現在、1キロカロリーは4.184ジュールと定義される。1キログラムの物体を(重力に逆らって)1メートル持ち上げるのに必要なエネルギーが約10ジュール。
ジュールという単位は、1800年代に力学的仕事と熱エネルギーの関係を明らかにしたイギリスの科学者ジェームズ・プレスコット・ジュールにちなんだものである。
4 J. L. Hargrove. (2006). “History of the Calorie in Nutrition.”J.Nutr. 136: 2957-61
5 生物学における キメラ(chimera)とは、同一の個体内に異なる遺伝情報を持つ細胞が混じっている状態や、そのような状態の個体のこと。嵌合体(かんごうたい)ともいい、平たく言うと「異質同体」である。
この語は、ギリシア神話に登場する生物「キマイラ」に由来する。近年は「キメラ分子」「キメラ型タンパク質」のように「寄り合い所帯」「由来が異なる複数の部分から構成されている」という意味で使われる例もある。