人体
Human body
大自然の叡智の結晶・人体
Human body
大自然の叡智の結晶・人体
2022.10.22
“ Autophagy: A Scientific Discussion of the Ancient Sacred Ritual of Fasting ”
オートファジーに導くケトジェニック・ダイエットですが、その具体例として研究された事例を2つ取り上げます。
書籍本文で取り上げた健康長寿地域「ブルーゾーン」の中から、弊社のお客さまが大勢いらっしゃる、沖縄の食習慣を取り上げます。
世界各地のブルーゾーンと呼ばれる地域には、食習慣における以下の3つの共通項があることを憶えておいてください。
タンパク質の摂取制限は、軽視されることが多い。
カロリー制限は減量に有効だが、それが大きな健康効果を生み出すのはカロリー制限によってタンパク質の摂取量が減るからだ。
食べる量を減らすことに強い抵抗感を感じる人や、そもそも体重を減らす必要のない人にとって朗報なのは、タンパク質の摂取を減らせば、カロリー制限をすることなく、健康的に年齢を重ねられることだ。
タンパク質を減らすだけなので、食事を「制限」していると感じることもないため、この方法は「タンパク質循環」と呼ばれている。
※カロリー制限は、断食療法とは異なります。
タンパク質とカロリーの摂取量を減らすことで得られる恩恵とは何なのでしょうか?
かつての沖縄の人々は、日本で、おそらく世界の中でも最も平均寿命が長いことで知られていました。
沖縄の人は老化の進行が遅く、心臓病の発生率も欧米の2割しかありません。
沖縄の100歳以上の高齢者(センテナリアン)を対象にした有名な沖縄百寿者研究(1970年に鈴木信・琉球大学名誉教授が開始し、その後、医師の兄弟であるブラッドリー・ウィルコックスとクレイグ・ウィルコックスが加わった)によれば、この地域では乳がんは稀にしかないためマンモグラフィ検診は定期的に必要なく、高齢の男性が前立腺がんを話題にしたり、心配したりすることもほとんどないということです。[19]
沖縄の人々は、平均すると人生の97パーセントの期間を身体に障害のない状態で過ごしていましたが、日本の本土やハワイなどに移住するとこうした健康上の利点はすぐに失われてしまいます。
そうしたことから、その長寿が遺伝的な要因とはあまり関係がないこともわかっています。
沖縄は、日本で最も所得水準が低い地域であり、この地域には満腹になるまで食べない「腹8分目」の習慣もあります。
こうした経済的事情と習慣のために、長年、沖縄の人々のカロリー消費量は日本の本土の人々よりも2割少なかったのです。
沖縄人が長寿である理由は様々な側面から説明できます。
沖縄空手やウォーキング、ガーデニング、伝統的な踊りなど、日常的に身体を動かす機会が多いこと。
土着の信仰が浸透し、ストレスを感じにくい社会であること。
人間関係のつながりが豊かであること。
医療システムが整っていること。
このように様々な要因が、健康長寿の基盤となっていますが、決め手はなんと言っても「食事」です。
この研究に取り組むクレイグ・ウィルコックスによれば、この地域の伝統的な食事には、次のような特徴があるといいます。
グリセミック指数(GI)は、食品(糖質を含むもの)が血糖値に及ぼす影響を測る指標として、およそ40年前に開発された。
純粋なグルコースを基準にして、0から100までの数値で示される。
純粋なグルコースのGI値は100。
GI値の高い食品(70以上)は消化吸収が速く、血糖値もインスリン(血中のグルコースを細胞に運ぶホルモン)値も急上昇する。
GI値の低い食品(1〜40)は消化が遅く、血糖値とインスリン値はなだらかに上昇する。
低GI値の食品の中には、食べても血糖値がほとんど変わらないものもある。
GI値が40〜70の食品は「中程度」と見做される。
デンプン質の少ない野菜を、たくさん食べる。
一般的には、アーティチョーク、アスパラガス、アボカド、ブロッコリー、キャベツ、カリフラワー、セロリ、キュウリ、葉物野菜、キノコ、タマネギ、ピーマン、ほうれん草、カボチャ、トマト、ズッキーニなど。
豆類の摂取量が多い(主に豆腐や味噌)。
沖縄の豆腐は、本土の豆腐より水分が少なく、ヘルシーな脂肪やタンパク質が多く含まれている。
水産物を適度に摂取している。
特に沿岸地域の人々。
肉類・肉製品の摂取量が少ない。
乳製品の摂取量が少ない。
適度な飲酒。
カロリー摂取量が少ない。
魚からオメガ3脂肪酸を多く摂取している。
飽和脂肪酸に対する一価不飽和脂肪酸の比率が高い。
低GIの炭水化物を多く摂取している。
果物の摂取量が少ない。
タンパク質の摂取量が少ない(1日に約39グラム)。
食物繊維の摂取量が多い(1日に約23グラム)。
伝統的な沖縄料理はタンパク質の含有量が特に低く、mTORを抑制し、IGF-1レベルを大幅に低下させるために十分なタンパク質制限になっています。
注目すべきは、野菜(特にサツマイモと大豆)の摂取量が多く、タンパク質の供給源としての「肉」や「乳製品」が少ないことです。
1グラム当たりのカロリーが少ない地元産のサツマイモは、1600年代から1960年頃までこの地域の主食で、総摂取カロリーの5割以上を占めていました。
意外に思うかもしれませんが、サツマイモのGI値はそれほど高くありません。
焼いたジャガイモのGI値は85ですが、茹でたサツマイモは40台半ばで、糖質とカロリーはジャガイモよりも少ないのです。
沖縄のセンテナリアン研究では、この地域の80代の人々のDHEA(デヒドロエピアンドステロン)値を測定し、米国カリフォルニア州サンディエゴに住む同年代の人々と比較し、沖縄県の高齢者の方が、値が高かったと報告しています。
「若返りホルモン」とも呼ばれるDHEAは、加齢とともに減少しますから、身体の老化度を示す指標になります。
※DHEAに関するより詳細な記事は、ブログ内の「若返りホルモンDHEA産生とマグネシウム・オイル」でご覧いただけます。
沖縄の高齢者は、同年代の米国人より体内で産生されるエストロゲン(女性ホルモン)やテストステロン(男性ホルモン)のレベルも高いことが分かっています。
その理由は、健康的な食生活と身体を動かす機会が多いためと考えられています。
健康長寿の秘訣が食事にあるとすれば、その中でも特に重要な鍵を握るのは何なのでしょうか?
科学者たちは、それは「総摂取カロリーの少なさ」だと指摘しています。
健康にあまり興味のない人の多くが、「栄養は、摂れば摂るほど良い」と誤解しています。
この間違った19世紀のままの固定観念が、次々に病人を生み出しています。
現代人は栄養失調よりも、ある特定の「過剰栄養」が原因で、生活習慣病を発症しているのです。
1935年にコーネル大学の著名な栄養学者クライブ・マッケイらの研究など、カロリー制限は、酵母から哺乳類に至るまで、老化を遅らせ、寿命を延ばす最も強力で再現性のある手法であることも解明されているのです。[20]
この論文を分析・精査するレビュー論文も大量に出され、過去数十年間に数えきれないほど多くの他の論文に引用されています。
そして今日に至り、同大学のT・コリン・キャンベル博士(栄養学の世界的権威)による史上空前の疫学調査によって、動物性食品の有害性と植物性食品の有用性が明らかにもされています。
戦前の沖縄は、カロリー制限のお手本でした。
当時の沖縄の人々の1日のカロリー摂取量は約1780キロカロリーで、現在推奨されている約2000キロカロリーより、11〜15パーセント少なかったのです。
しかし第2次世界大戦後、米国が基地を設置し、数万人の軍人とその家族が移り住み、欧米式の食料品店やレストラン、ファストフードが持ち込まれています。
こうした欧米文化の影響を受け、年配者のような健康的な食生活をしていない若年層は、全年齢層の中で最もBMI(ボディマス指数)が高く、Ⅱ型糖尿病と心疾患の発症リスクも高くなっているのです。
もちろん、これは沖縄に限った話しでなく、世界中で起こっている食害です。
ギリシャ北東部にある世界遺産で女人禁制の山間の半島、アトス山をご存知でしょうか?
ここには20のギリシャ正教の修道院があり、3世紀以来定住した修道士が、現在では約2000人となっています。
アトス自治修道士共和国は、ギリシャ共和国の中央マケドニア南方に所在するギリシャ正教最大の聖地、修道院共同体で一種の宗教国家です。
ギリシャ国内にありながら同国より治外法権が認められ、各国正教会の20の修道院・修道小屋(「ケリ」と呼称される)によって自治がおこなわれる共和国です。首都はカリエス。
アトス山はギリシャ北東部、エーゲ海に突き出したアトス半島にあります。
入国は簡単ではなく、まずギリシャに入国し、ギリシャ外務省宗教課が発行する特別な査証を取得しなくてはなりません。また申請から査証の発給まで約1ヶ月程度かかります。入国の際には船か徒歩による入国のみ許可されています。
一般の旅行者は、アトス山周辺の街から出ている観光クルーズに参加して船上からアトス山を見学することもできます。
アトス山の修道院での生活は多くの神秘に包まれていますが、この地域の奥深く神話的でさえある歴史を除けば、最も話題になるのは修道士たちの優れた健康状態です。
彼らは、がんや心臓病、アルツハイマー病とほぼ無縁で、寿命もギリシャ人の平均より10年も長いのです。
1944年以来、修道士たちは定期的な検診を受けてきましたが、前立腺がんの発症例はわずか11人と世界平均の4分の1しかなく、肺がんと膀胱癌は1例も見つかっていません。
修道士の1日の大半は、掃除や料理、菜園の手入れなどの雑事に費やされます。
そして、彼らの健康状態は、かつての沖縄の人々とも共通する食生活に起因しています。
修道士は、わずか10分間の地中海式の食事を1日に2度摂ります。
朝食は、堅いパンと紅茶のみで、夕食には魚(タコなどの魚介類も)とパン、豆、自家栽培の果物や野菜をとり、赤ワインも飲みます。
そして、週に3日は菜食という形の断食をします。
ギリシャ正教の断食では、肉、ある種類の魚、乳製品(牛乳、チーズ、ヨーグルト)、油、ワインを控えます。
たまにある祝祭日には、ケーキやアイスクリームなどの甘いものを少しだけ楽しみますが、ギリシャ正教の聖典では、1年間に180日から200日もの断食が推奨されているのです。
ギリシャ正教の断食が、血中脂肪値と肥満にどのような影響を及ぼすかを調べた、クレタ大学の研究者カテリーナ・サリーは、調査の結果を次のように報告しています。[21]
「断食をした人は、しなかった人に比べて総コレステロール値が12パーセント低く、LDL値も16パーセント下回った。
HDL値は、わずかに低かったが、LDL/HDL比は断食した人のほうが良かった」
画像は典型的な地中海式の食事(Mediterranean Diet)の食材ですが、魚介類や野菜を多く摂る点において、伝統的な和食とかなり似通っています。
サラダボウル(生菜食)を増やすのを忘れないでください。
玄米食がベターですが、「銀シャリ」をもっと食べたいという人は、MCT(Medium Chain Triglyceride 中鎖脂肪酸)が含まれるココナッツオイルを併用するのがよさそうです。
ケトン体はMCTから効率的につくられるため、食事療法に取り組む人は、標準的なケトジェニック・ダイエットよりも糖質を多く摂取できるようになります。
ケトジェニック・ダイエットの栄養素の構成比は、おおむね健康的な脂肪75%、タンパク質20%、炭水化物(糖質)5%とされています。
しかし、この数値は調査の結果であって、ブルーゾーンに暮らす人々は細かく計量して食べているわけではありません。
細かな数値やスタイルにあまりこだわらず、自分なりに工夫をしてみてはいかがでしょうか。
余談ですが、ギリシャ神話によれば、巨人アトスが投げつけた石を、ゼウスがマケドニア近くの地面に叩きつけ、それがアトス山の聖なる頂きになったとされています。
アトス山のある半島はギリシャ本土とは地続きですが、この半島の地形は長く急峻で、荒い海に囲まれています。
紀元前5世紀、ギリシャの歴史家ヘロドトスは、ペルシャの将軍マルドンがアトス山の沖で起きた嵐によって300隻の船と2万人の兵を失い、自国に撤退したと記しています。
紀元前411年にはスパルタ人が、この危険な海で50隻の船を失っています。
現在でも、この半島には実質的にフェリーでしかアクセスできません。
何かに護られているかのようですね。
伝説によると、キリストの死後、ラザロを訪れるため福音伝道者の聖ヨハネと共にキプロスに向かって航海していた聖母マリアを乗せた船が、突然の嵐に遭い、アトス半島に漂着しました。
岸を歩き、たちまちこの土地の美しさに圧倒されたマリアは、息子のイエスにこの地を庭として与えてもらいたいと願いました。
すると「ここをあなたの遺産とし、庭としなさい。救いを求めている者たちのための、楽園と安息の地に」という声が聞こえたといいます。
それ以来、聖母マリアへ敬意を示すために、この半島は女人禁制になったということです。
現在でも、この半島を訪れる1日の観光客の数は限られており、女性の入場は禁止されています。
ユネスコの世界遺産の中でも、文化と自然の複合遺産として認められた唯一の場所として知られています。
宗教の多くが断食を慣習に取り入れているのにも、理由があります。
断食は歴史的に、身体から毒素を排出し、心を清め、健康な身体を取り戻す神聖なものと考えられていたからなのです。
holy(聖なる)という言葉は、ギリシャ語で「全体性」を意味する「ホロス(holos)」を語源としています。
そこから派生した言葉には、Holistic(全体)、whole(全体)、heal(癒す)、health(健康)などがあり、「健康-health」と「聖なる-holy」は語源を一つにする言葉であり、強いつながりがあるのです。
事実として、世界の四大宗教は何らかの形で断食を取り入れています。
間欠断食は「時間制限ダイエット」とも呼ばれ、何千年もの長い歴史があります。
紀元前5世紀〜4世紀の古代ギリシャの医師で、医学の父(医聖)と称されているヒポクラテスは著作の中で、病気もてんかんも飲食を完全に止めることによって治せると主張しています。
古代ギリシャ人は、断食とカロリー制限をてんかんの治療に使っています。
医師であるエラシストラトスは、「てんかんを起こす者には容赦なく断食をさせ、そのあとも食事を制限すべきだ」と述べています。
ギリシャ・ローマの哲学者プルタコスは『健康のしるべ:De tuenda sanitate praecepta』と題された論考の中で、「薬の代わりに1日断食しなさい」と記しています。
中世アラブの偉大な医師で思想家でもあるイブン・スィーナーは、3週間以上の断食をたびたび治療に用いています。
2世紀のローマ帝国の有名な医師ガレノスは、少量の食事を推奨しています。
古代ギリシャの哲学者ピタゴラスは、弟子に哲学を教える前に、40日間の断食をさせています。
それによって心が十分に清められ、生命の神秘についての深い教えを理解できるようになると考えていたからなのです。
そして、長い年月を経て科学者たちは、その「聖なる儀式」の科学的メカニズムを解き明かしてきたわけです。
2022年8月31日、東京理科大学生命医科学研究所の昆俊亮らの研究チームは、「オートファジーが『細胞競合』を介してガン細胞を排除する」ことを発見したと、オープンアクセスジャーナル「Cell Reports」で報告しています。
細胞競合におけるオートファジーの役割。正常細胞のフィラミン集積が変異細胞内のリソソーム機能低下ならびに、オートファジー小胞の蓄積を誘引し、さらに蓄積したオートファジー小胞が正常細胞のフィラミン集積を促す(出典:理科大Webサイト)
健康医学・自然療法の先駆けである西医学健康法の創始者・西勝造が提唱し、断食博士・甲田光雄が臨床で実践した断食療法。
甲田医師が数えきれない程の難病患者の治療を可能にしたのは、オートファジやケトーシス、そして腸内腐敗の排除といった科学的根拠に裏づけられていたこともご理解いただけたのではないでしょうか。
あなたも、科学的にその有効性が証明された「聖なる儀式・断食(間欠断食)」を生活習慣に取り入れてみてはいかがでしょうか。
オートファジーやケトーシスに導き、老廃物や毒素を毎日のスムーズな排泄でデトックスして、身体が細胞レベルで浄化され、蘇る、溌剌とした清々しい未来が、あなたを待ちうけています。
End
References
THE SWITCH: IGNITE YOUR METABOLISM WITH INTERMITTENT FASTING, PROTEIN CYCLING, AND KETO by James W. Clement with Kristen Loberg 2019.
19 Donald Craig Willcox, Bradley J. Willcox, Hidemi Todoroki, and Makoto Suzuki, “The Okinawa Diet: Health Implications of a Low-Calorie, Nutrient-Dense, Antioxidant-Rich Dietary Pattern Low in Glycemic Load,” Journal of the American College of Clinical Vutrition 28 (suppl.) (August 2009): 500S-516S.
20 C. M. McKay, Mary F. Crowell, and L. A. Maynard, “The Effect of Retarded Growth upon the Length of Life Span and upon the Ultimate Body Size: One Figure,” The Journal of Nutrition 10, no.1 (July 1935): 63-79.
21 Katerina O. Sarri, Nikolaos E. Tzanakis, Manolis K. Linardakis, et al. “Effects of Greek Orthodox Christian Church Fasting on Serum Lipids and Obesity,” BMC Public Health 3 (May 16, 2003):16.