人体
Human body
大自然の叡智の結晶・人体
Human body
大自然の叡智の結晶・人体
2022.10.08
“ Autophagy: A Scientific Discussion of the Ancient Sacred Ritual of Fasting ”
目次
メタボの診断基準には、中性脂肪とHDLコレステロールが用いられています。
HDLコレステロールは、善玉コレステロールとしての認識が定着していますが、中性脂肪といえば「運動不足・飲酒・肥満」が数値上昇の主な原因とされる悪玉ですね。
実は、この中性脂肪値を上げやすいのは、脂質よりも炭水化物(糖質)なのです。
脂肪酸は、どの脂肪酸でも中性脂肪は下がります。
炭水化物(糖質)やアルコールは、直接的に中性脂肪を上げますが、炭水化物やアルコール、脂質、タンパク質はエネルギー(カロリー)源になりますから、どれでも必要以上に食べれば、肥満を介して中性脂肪を上げることになります。
いずれにしても、少食を習慣にすることが重要ですが、、
そこで注目されるのが、低糖質・低タンパク質・高脂肪の食事法、つまり「ケトジェニック・ダイエット」です。
ケトジェニック・ダイエットは、低糖質、低タンパク質、高脂肪を実現し、Ⅱ型糖尿病やアルツハイマー病の改善だけでなく記憶力、体力維持、老化を促す酸化ストレスに対する抵抗力を高め、健康長寿を向上させることが多くの研究で示されています。[4・5・6]
さらに、「間欠断食を取り入れたケトジェニック・ダイエット」が、オートファジーを活性化させる食事にもっとも近いといわれています。
なぜなら、ケトジェニック・ダイエットは代謝的、生理学的に見て、多くの点で断食に似ているからなのです。
ケトジェニック・ダイエットの重要なポイントは、「健康的な脂質」を十分摂取することですが、健康的な脂質とは、何を意味するのでしょうか?
まずは脂質の基礎知識から始めましょう。
脂肪と脂質の違いをご存知でしょうか?
たとえば、気になるわたしたちの脂肪を「皮下脂肪」とか「内臓脂肪」と呼びますよね。
皮下脂質とも内蔵脂質とも呼びません。
このように、脂肪は筋肉や内臓と同じく、動物の身体の組織の名称として使われ、一方の脂質の「質」はタンパク質、糖質など栄養素を示すようです。
脂質が人間の健康にとって不可欠だと言われるとき、それはたいてい「脂肪酸」のことを指しています。
脂肪酸は、植物や動物、微生物の体内に存在する重要な化学物質で、人間の場合、血圧と炎症を制御し、血液凝固を防ぐ働きを助けています。
また、脂肪酸は、細胞の発達と健康な細胞膜の形成を助け、動物の体内での腫瘍形成を抑え、たとえば乳がん細胞の成長を妨げます。
ちょっと専門的になりますが、脂肪酸は通常、枝分かれせず1本の鎖状に連なった「直鎖状」に結合した炭素原子と水素原子の一端にカルボシ基(-COOH)がついた構造をしています。
カルボン酸は、カルボシ基を持つ有機化合物の総称です。
飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸は、この結合構造の違いで決まります。
炭素原子間の結合がすべて一重の場合は飽和脂肪酸となり、炭素原子間で二重結合や三重結合がある場合は不飽和脂肪酸になります。
※その他の構造を持つものもありますが、ここでは省略します。
最も代表的な脂肪酸はオレイン酸で、オリーブオイルやパーム油、ピーナッツ油、ひまわり種子油などの植物油に豊富に含まれ、体脂肪のおよそ46パーセントはそれらからつくられます。
また脂肪酸は、必須脂肪酸とそれ以外に分類することができます。
必須脂肪酸は文字通り、生存に欠かせないが体内で合成できない脂肪酸で、食事から接種しなければなりません。
オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸は、必須脂肪酸の2大カテゴリーです。
ご存知の方も多いと思いますが、わたしたちが食事に含まれる脂質について語るとき、「飽和脂肪酸」「不飽和脂肪酸」「トランス脂肪酸」の3種類を指していることがほとんどです。
飽和脂肪酸は常温で固体であり、動物の肉や、ミルク、チーズ、バター、クリームなどの乳製品、ココナッツ油やパーム油、ナッツなどの植物性食品に含まれています。
血中総コレステロール値と一般に悪玉と言われるLDLコレステロール値を上昇させるため、心血管系疾患やⅡ型糖尿病の遺伝的素因がある人が飽和脂肪酸を摂り過ぎると、これらの病気の発症リスクが高まります。
このような理由から「飽和脂肪酸は悪者だ」と考えがちですが、体内のあらゆる細胞が生き延びるために、飽和脂肪酸は不可欠な存在なのです。
実際に、細胞膜の50パーセントは飽和脂肪酸でできており、肺や心臓、骨、肝臓、免疫系などの組織にも使われています。
内分泌系も、インスリンなどのホルモンをつくる必要性を伝える際に、飽和脂肪酸を用いています。
また飽和脂肪酸は、空腹感や満腹感を脳に伝える働きもしています。
トランス脂肪酸は、飽和脂肪酸と似た働きをする人工合成脂肪(天然由来も若干存在する)で、トウモロコシ油や大豆油など野菜由来の油を、水素添加と呼ばれる手法で固体化したもので、成分表には「水素添加油」や「部分水素添加湯」と表記されます。
トランス脂肪酸はマーガリン、スナック菓子(ポテトチップス、クラッカー)や市販の焼き菓子(マフィン、クッキー、ケーキなど)、ショートニング、ファストフードのハンバーガーや揚げ物、ピザなど、多くの加工食品に含まれています。
トランス脂肪酸は非常に有害であり、健康上のメリットはほとんどありません。
ハーバード大学のダニエル・リバーマン教授は、「トランス脂肪酸は、要するに、ゆっくり効いてくる毒のようなものだ」と指摘しています。
したがって、米国食品医薬品局(FDA)は新方針を打ち出し、2021年に使用禁止になっていますが、ここ日本では野放しで、規制すらありません。
トランス脂肪酸(または、それが多く含まれる加工食品)は、あなたの食生活から完全に排除すべき有害物質です。
不飽和脂肪酸は常温で液体で、多くの野菜やナッツ、油に含まれており、一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸に分類されています。
研究によれば、一価不飽和脂肪酸が豊富な食品は、血中コレステロール値を改善させることが報告されています。[7]
また、インスリン値と血糖値にも、明らかにプラスの影響を与えます。
この2つの値は、体重増加と糖尿病発症リスクをコントロールするための優れた指標です。[8]
一価不飽和脂肪酸は、オリーブオイルやキャノーラ油(過度に精製されているため、オリーブオイルほど健康に良いという評価を得ていない)、アボカド油などに含まれています。
多価不飽和脂肪酸は、主に植物由来の食品・油、魚由来の油(サケ、ニシン、オヒョウ、海藻など)に含まれ、この脂肪酸を豊富に含む食品を摂取すると血中コレステロール値が改善し、Ⅱ型糖尿病の発症リスクが低下することがわかっています。[9]
多価不飽和脂肪酸の一種でとりわけ健康効果が高いのが、「オメガ3脂肪酸」です。
オメガ3脂肪酸の中でも特に重要なのが、ドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA)です。
健康面の効果からDHAの方がEPAよりも注目されていますが、わたしたちには両方が欠かせません。
DHAは哺乳動物の脳の主な構成成分で、脳内に最も豊富に存在するオメガ3脂肪酸です。
そのため、DHAは哺乳動物の脳の働きを強化し、認知機能低下や認知症のリスクを減らす効果があるといわれます。
つまり、加齢に伴う脳の萎縮を防ぐためには、DHAを多く摂取することが有効な方法のひとつになるということです。[10・11・12]
なぜDHAが脳に有益で、認知機能を向上させるのか?
それは、DHAが特に脳のニューロンを包む細胞膜の形成に不可欠な成分となるからです。
DHAは体内での生成が非効率なため、DHAが豊富な魚や卵から摂取する必要があります。
もう一つのオメガ3脂肪酸であるEPAは、炎症の重要な調節因子で、特に脳細胞の炎症を抑えるのに重要と考えられています。
うつ病やADHD、脳損傷などの脳関連疾患に関する研究の多くで、EPAはDHAよりも優れていることが示されています。
オメガ3脂肪酸は、HDLコレステロールを増やし、中性脂肪を低下させます。
また、血液をサラサラにする抗凝固作用でも知られており、心不全につながる不整脈から心臓を守るとも考えられています。
また、アテローム性動脈硬化症や糖尿病、肥満、関節炎、認知症などを引き起こす炎症プロセスにブレーキをかけてくれます。[13]
コレステロールは食品成分表や栄養学のテキストなどでは、脂質の一部、または、脂肪酸と同列に扱われることが多いのですが、化学構造のうえでは脂質や脂肪酸とは異なり、むしろアルコールに近いものです。
アルコールもコレステロールも、ともに「オール」で終わっていますよね。
ですから、専門的には脂質と見なされないこともありますが、重要な成分です。
コレステロールは、ワックス状の柔らかい物質で、全ての細胞につくる能力がありますが、おもに肝臓で合成され、全身の細胞に運ばれて使われます。
一応おことわりしておきますと、食品中のコレステロールと血中コレステロールはイコールではありません。
しかし、全く別物というわけでもありません。
また意外にも、HDL(高密度リポタンパク質)とLDL(低密度リポタンパク質)というわたしたちがよく耳にする2種類のコレステロールは、異なるコレステロールではありません。
これは、コレステロールと結合するリポタンパク質の密度の違いを表すもので、コレステロールを運ぶための2種類の船としてそれぞれ役割を果たしています。
人間が生きるためには、LDLとHDLのどちらも必要ですが、そのバランスが崩れることがあります。
HDL値が低いと心疾患の発症リスクが低下し、LDL値が高すぎると動脈硬化や血栓のリスクが高まります。
コレステロールは他の飽和脂肪酸とともに細胞膜を形成するだけでなく、細胞膜を保護したり、細胞膜の透過性を監視したりする門番としての役割も担っているのです。
わたしたちは、コレステロール値が低いことのメリットをよく耳にしますが、この値が低すぎると、脂質を消化する能力だけでなく、コレステロールが部分的に管理をしている身体の電解質(ミネラル)バランスも損なわれてしまう可能性があるのです。
1965年に米国の生理学者アンセル・キーズが考案し、現在もその正確性が支持されている「キーズの式」[14]によれば、食品から摂取するコレステロールだけでなく、飽和脂肪酸も血中コレステロール濃度に影響します。
詳細な説明は省略しますが、国民栄養調査および国民健康・栄養調査におけるコレステロールの摂取量は、1972年をピークにその後減少に転じた一方、飽和脂肪酸は現在まで増え続けています。
現在、飽和脂肪酸は1972年に比べて3割増、コレステロールは3割減となっています。
つまり注意すべき栄養素は、コレステロールから飽和脂肪酸へと変わっていったわけです。
「食品中のコレステロール=血中コレステロール」という誤った理解が、飽和脂肪酸から目を逸らしてしまっているようです。
健康診断の結果を見て、「コレステロールを多く含む食べ物に気をつけているのに、どうして血中コレステロール値が下がらないのだろう?」と不思議に思われている方は案外と多いのではないでしょうか。
さて、コレステロールは脳の機能と発達も支えています。
脳の重さは体重の2パーセントほど(約1.5キログラム)ですが、体内の総コレステロールの25パーセントを占めています。
ということは、脳の重量の5分の1がコレステロールなのです。
脳にこれほどコレステロールが多いのは、脳内でコレステロールをいかに利用できるかで、新しいシナプスを成長させられるかが、決まるからではないかと考えられています。
脳内のコレステロールは、強力な抗酸化物質としても働き、脳をフリーラジカルによる損傷から保護してもいるのです。
体内にコレステロールがなければ、エストロゲンやアンドロゲンなどのステロイドホルモンや、非常に重要な脂溶性抗酸化物質であるビタミンDを生成することもできません。
コレステロールは、これらのホルモンの材料(前駆体分子)になるのです。
つまり自然界の法則、バランスが重要だということですね。
脂質を積極的に摂取すべき大きな理由は、身体のさまざまな部分に材料や機能が提供されることに加えて、必須脂溶性ビタミン(A、D、E、Kなど)の吸収や活用が促されるからです。
脂溶性ビタミンは水に溶けない性質のため、吸収のためには周りに脂肪があることが欠かせないのです。
ビタミンKが不足すると、血を凝固させる能力が低下し、自然出血を起こすことがあります。
ビタミンAが不足すると、失明や感染症にかかるリスクが高まります。
ビタミンDの不足は、うつ病、神経変性疾患、Ⅰ型糖尿病など様々な自己免疫疾患にかかりやすくなり、心臓疾患(特に高血圧や心臓肥大)のリスクを高めるおそれもあります。
近年の「美白ブーム」は一方で、健康に関する阻害要因になっています。
これで脂質に関する基本的な知識をご理解いただけたでしょうか。
健康的な脂質とは、オメガ3脂肪酸のことですね。
Volume 4では、オメガ3脂肪酸や、もう一つよく聞くオメガ6脂肪酸について、さらに詳しく解説していきます。
Continued in VOLUME 4
https://minus-chokaz.jp/human_body/1884/
References
THE SWITCH: IGNITE YOUR METABOLISM WITH INTERMITTENT FASTING, PROTEIN CYCLING, AND KETO by James W. Clement with Kristen Loberg 2019.
4 John C. Newman, Anthony J. Covarrubias, Minghao Zhao, et al., “Ketogenic Diet Reduces Midlife Mortality and Improves Memory in Aging Mice,” Cell Metabolism 26, no.3 (September 5, 2017): 547-57.
Megan N. Roberts, Marita A. Wallace, Alexey A. Tomilov, et al., “A Ketogenic Diet Extends Longevity and Healthspan in Adult Mice,” Cell Metabolism 26. No.3 (September 5, 2017): 539-46.
5 Roberts et al., “A Ketogenic Diet Extends Longevity and Healthspan in Adult Mice.”
6 John C. Newman and Eric Verdin, “β- Hydroxybutyrate: A Signaling Metabolite,” Annual Review of Nutrition 37 (August 2017): 51-76.
7 Penny M. Kris-Etherton, Thomas A. Pearson, Ying Wan, et al., “High-Monounasaturated Fatty Acid Diets Lower Both Plasma Cholesterol and Triacyglycerol Concentrations,” The Amerian Journal of Clinical Nutrition 70, no.6 (December 1999): 1009-15.
8 Fumiaki Imamura, Renata Micha, Jason H. Y. Yu, et al., “Effects of Saturated Fat, Polyunsaturated Fat, Monounsaturated Fat, and Carbohydrate on Glucose- Insulin Homeostasis: A Systematic Review and Meta-analysis of Randomised Controlled Feeding Trials,” PLOS Medicine 13, no.7 (July 19, 2016): e1002087.
9 Maria Luz Fernandez and Kristy L. West, “Mechanisms by Which Dietary Fatty Acids Modulate Plasma Lipids,” The Journal of Nutrition 135, no.9 (September 2005): 2075-78.
Olivia Goncalves Leao Coelho, Barbara Peteria da Silva, Daniela Mayumi Usuda Prado Rocha, et al., “Polyunsaturated Fatty Acids and Type 2 Diabetes: Impact on the Glycemic Control Mechanism,” Critical Reviews in Food Science and Nutrition 57, no.17 (November 22, 2017): 3614-19.
10 James V. Pottala, Kristine Yaffe, Jennifer G. Robinson, et al., “Higher RBC EPA + DHA Corresponds with Larger Total Brain and Hippocampal Volumes,” Neurology 82, no.5 (February 4, 2014): 435-42.
11 Z. S. Tan, W. S. Harris, A. S. Beiser, et al. “Red Blood Cell -3 Fatty Acid Levels and Markers of Accelerated Brain Aging,” Neurology 78, no.9 (February 28, 2012): 658-64.
12 Framingham Heart Study, https:// www.framinghamheart study.org.
13 Eric Dewailly was a Canadian epidemiologist who studied the Inuit paradox throughout his career, as well as the effects of contaminants on the environment in the Arctic. He is credited for calling omega-3 polyunsaturated fats a “natural aspirin” to dampen inflammatory processes.
14 Keys A, et al., Serum cholesterol response to changes in the diet: Ⅳ. Particular saturated fatty acids in the diet. Metabolism 1965: 14: 776-87.