人体
Human body
大自然の叡智の結晶・人体
Human body
大自然の叡智の結晶・人体
2022.06.18
これは運動のパラドクスかもしれません。[1]
運動が心身の健康維持・増進・生命の維持に不可欠であることは、誰でもがあたりまえだと思っています。
ところが、
歴史上、しかも地上で最悪の趣味はといえば、毎日でもできる「ジョギング」です。
こう話すのは、世田谷中央病院院長の岡田練之介氏です。
そしてさらに、
毎日、手軽にできるところがなおさらいけない。
物事には必ず両面があって、良いことと悪いことが背中合わせになっているものだが、これはどう考えても悪い面のみが見え、他には何も見えない。
ジョギングは、心臓やら関節やらを不可逆的に傷めて、引退を早めるだけ、戒名が早くつけられるだけ。
不可逆というのは治りませんから。
と述べ、いますぐジョギングをやめるように勧めています。
なぜなのか?
走れば心臓を通過する血流は激流になります。
握りこぶし大の心臓は、重力に逆らって、およそ1m下にある静脈血を汲み上げている。
そして汲み上げて、今度は駆出するという役割を担っています。
つまり拍動しています。
走るという行為は、その拍動を著しく増やすことになります。
心臓には、逆流を防止する弁(弁膜)が4か所ついていますが、静脈血の汲み上げとその駆出を絶えず行うため、それらの弁は中年以降、だんだん硬めになり動きが緩慢になってくるのです。
これは一種の老化で、その状態が進行すると、弁は正常に機能しなくなってしまいます。
それがいわゆる「心臓弁膜症」で、心臓内で血液が逆流し、心臓の中に血液が漏れる症状を引き起こします。
こういう状態がつづくと、心臓内に血液が澱み、血液が凝固します。
その塊(血栓)が血流にのって流れ、脳の血管を詰まらせると「心原性脳梗塞」を引き起こすことになるのです。
また、不整脈の一種の「心房細動」[2]を引き起こすこともあり、次第に心不全[3]へと進行していきます。
岡田医師は、ジョギングは脳にも悪い影響を与えるといいます。
(ジョギングは)脳虚血の状態を無理してつくっているに過ぎません。
臥位、座位で考えるときにこそ、脳血流は増します。
平均寿命が延び、人生100年時代と言われる今日、高齢の人に心臓弁膜症が増えています。
60歳から増加しはじめ、70代、80代と年代が上がるにつれ発症数は増加しています。
“ 心臓の弁膜の耐用年数は60年程度 ”
つまり平均寿命より短いわけですから、「心臓のムダ使い」を慎まなければなりませんね。
池谷医院(東京都あきる野市)の池谷敏郎院長は、自著『心臓を使わない健康法』(マガジンハウス)においてこうアドバイスしています。
少しでも長く心臓を使いたければ、使い方は、考えて、無意味な局面で心拍数や血圧を上げないに限ります。
心臓のムダ使いについては、多くの医師が指摘しています。
ナグモクリニック総院長の南雲吉則氏は、「無理に心拍数を上げるスポーツはすべきでない」と説き、「どんなことがあっても走らないよう心がけている」という。
また、自律神経の研究で知られる小林弘幸順天堂大学医学部教授は、自著『「ゆっくり動く」と人生が変わる』(PHP文庫)で、ゆっくり動くことは最高の健康法と述べ、その恩恵をもっとも受けるのは呼吸で、その理由を以下のように説明しています。
呼吸は自律神経に支配されていますが、自律神経は交感神経と副交感神経で構成されています。
多忙でストレスが多い現代人は交感神経優位になりがちで、その結果、血液循環や臓器の機能が低下し、全身が疲れやすいという人が多いです。
そうならないためには、動きを「ゆっくり」にして呼吸を深くして、副交感神経を高めることが重要なのです。
前出の岡田医師は自著『牛訓』(文芸社)で、率直に以下のように戒めています。
小児期に急がせる癖をつけてはいけない。
早食いもいけない。
横断歩道はもちろん、一般道路でも走って渡る癖をつけてはいけない。
心血管系の部品が早めに劣悪になるし、交通事故に遭うリスクも高まります。
あらゆる心不全は、無慈悲なほど密やかに忍び寄ってきます。
心臓病患者の4人に1人は、心臓疾患があると知った最初の、そして最後の機会は、致命的な心臓発作を起こしたとき、つまり最初の症状が「突然死」だということです。
そして憂慮すべきは、初めての心臓発作例の半数以上は、とても健康で、喫煙も飲酒せず、極度の肥満や高血圧でもなく、コレステロール値が高いわけでもない人に見られるということです。
マグネシウムは激しい運動を行う「アスリートに絶対に欠かせない栄養素」で、筋肉の動きに大きな影響を及ぼしています。
ヒトの筋肉は、「伸縮運動」を繰り返して身体を動かしていますが、マグネシウムは骨格筋繊維(筋肉)を弛緩させる(ゆるめる)作用をしています。
一方カルシウムは筋肉を収縮させる(縮める)働きをしているのです。
動物やヒトの研究では、運動能力の減退がマグネシウム欠乏の初期症状で、短時間運動、長時間運動のいずれもがマグネシウムを損耗させることが確認されています。
マグネシウムはクエン酸と同様に、運動後の疼痛の原因となる疲労物質の「乳酸」を減少させます。
また驚くべきことですが、マグネシウム欠乏は健康なスポーツ選手に「突然心臓死」を起こさせることもあるのです。
プロのスポーツ選手やコーチの大部分が認識していませんが、マグネシウムは、スポーツ選手が摂取すべき最も重要な栄養素の1つです。
マグネシウムが不足すると、筋肉をゆるめることができず、突然のけいれん、こむら返り、あるいは癲癇(てんかん)さえも起きやすくなります。
平滑筋がカルシウム過剰、マグネシウム過小の作用を受けると、気管支が引き締まり、「喘息」の原因となる他、「子宮痙攣」や「月経痛」を引き起こします。
細胞内のカルシウムの1万倍の濃度をもつマグネシウムは、「カルシウム拮抗薬」と呼ばれ、互いに協力したり反対に拮抗作用(カルシウムの暴走を防ぐ)をもつことで、バランスを取りながら身体の健康維持調整を行なっているのです。
当然のことながら「心臓」も「弁膜」も「血管」も筋肉ですから、カルシウムとマグネシウムのバランスに支配されています。
体内がカルシウム過多になると心臓弁膜は固まって動かなくなってしまいます。
弁膜を機能させるためには、マグネシウムの緩める働きが必須なのです。
今日、ほとんどの人は「カルシウム過多」「マグネシウム過少」、つまりマグネシウム欠乏症に陥っています。
心臓のムダ使いに配慮するのと同時に、マグネシウムを多く含む食事を心がけてください。
Original note
1 「パラドックス(paradox)」とは、正しそうに見える前提と、妥当に見える推論から、受け入れがたい結論が得られる事を指す言葉である。逆説、背理、逆理とも言われる。
2 「心房細動」とは、心房内に流れる電気信号の乱れによって起きる「不整脈」の一種で、心房が痙攣したように細かく震え、血液をうまく全身に送り出せなくなる病気です。
いちばん問題となるのが、心房の中で「血液の固まり(血栓)」ができ、それが血流に乗って全身に運ばれ、血管を詰まらせてしまうことです。
3 「心不全」とは、心臓のポンプ機能が悪くなり、ちゃんと働かなくなった状態のことです。十分な量の血液を全身に送れなくなり、また、肺や肝臓などに血液が滞って、呼吸困難やむくみ、動悸、疲労感など、さまざまな症状が引き起こされます。心不全は個別の疾患名ではなく、さまざまな原因疾患が引き起こす心臓機能弱化の症候群のことを言います。