健康
Health care
いのちまで人まかせにしないために
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いのちまで人まかせにしないために
2024.03.15
これまで3回にわたって、東京都内(港区)の病院でリハビリ室長を務める、喜多村顕一先生の記事を掲載してまいりました。
今回がその最終回となります。
喜多村顕一|プロフィール
理学療法士、調理師
総合病院や脳神経内科・認知症専門クリニックに勤務後、現在は都内病院(港区)のリハビリ科室長を勤める。
10代からの持病であった尋常性乾癬や胃腸虚弱が西式健康法や甲田療法の実践によって改善した経験や、漢方薬局から受けた指導をもとに夫婦で取り組んだ食事療法によって、わずか1ヶ月足らずで子宝に恵まれた経験などを通じ「自分の身体は自分が食べた物からできている」「医食同源」ということを実感。
その後、もともと趣味であった料理で自身や家族の「身体にとって本当に美味しいもの」を目指すことが高じて調理師免許を取得。
「真実はシンプルである」という信念を持ちつつ、これまでの病院やクリニックでの経験も併せて、心身両面に対するより全人的なリハビリの追求をライフワークにしている。
前回は、「便秘」によって認知症の症状が大きく悪化しているような場合には、すっきり排便できただけで劇的に症状が改善する患者さんを何人も経験しているということをお話しし、そのような症例を1つご紹介しました。
引き続き、今回も実際の症例についてご紹介します。
この患者さんは、当院を受診される2~3年前から、もの忘れのほかに幻視で子供や女の人、動物などが見えたり、夜寝ている時に急に起き出して外に出ようしてしまうといった「レム睡眠行動異常」の症状が出現するようになりました。
また、パーキンソニズム症状も徐々に進行して転倒を繰り返すようになり、身体が斜めに傾く「斜め徴候」や口と舌の不随意運動(=オーラルディスキネジア)、軽度の構音障害、流涎(りゅうぜん;よだれが垂れる症状)なども見られるようになっていました。
ちなみにこの「斜め徴候」は、パーキンソニズム症状で体幹筋群の固縮(強張り)に左右差があること、さらにはその傾きを自身で認識して修正することができないために出現するのではないかと考えています。
また流涎は、普段から自然に分泌されている唾液を飲み込むのが難しくなって出現することが多く、嚥下機能機能の低下を反映している場合もあります。
この患者さんに対して、当院ではいくつかの神経学的検査や画像検査を実施し、その結果「レビー小体型認知症」と診断しました。
診察中の様子としては、オーラルディスキネジアがあって絶えず口をもぐもぐと動かし、舌が口の外に出てしまう場面も見られるほどでしたが、受け答えは比較的しっかりしていました。
また、「斜め徴候」に加えて小刻み歩行やすくみ足もあって転倒しやすくなっていましたが、何とか伝い歩きはできる状態だったので、しばらくは家族の介助で通院していました。
しかしその後、投薬調整を通じて幻視や夜間の症状は落ち着いてきたものの、パーキンソニズム症状が徐々に進行して通院するのが難しくなってきたため、家族の希望で往診管理に切り替えることになりました。
それで往診を開始したのですが、そこでまず気付かされたことがありました。
それは、往診で伺うたびに本人の状態が良かったり悪かったりと、その変動が非常に大きいということでした。
実は、外来通院している時には、本人の調子が悪いと家族が受診日を変更していたそうで、そのため我々スタッフはみな、症状の変動が大きく、通院できないほど本人の調子が悪くなることがあるということを把握できていなかったのです。
調子が良い時には、表情がはっきりしていて受け答えもでき、家の中も軽介助で歩けていましたが、調子が悪い時には、身体が大きく傾いたまま座って固まっていてよだれを垂らし、覚醒が悪くて何度身体を叩いて呼びかけても反応がないほどであり、そのためベッドまで移動させるにも、両側から2人介助で何とか立たせて、歩かせなければなりませんでした。
これだけ変動が大きいのは明らかにおかしいということで、改めて家族に色々と確認してみると、実は以前から「便秘」がひどいということが分かりました。
1週間以上便が出ないのも珍しくないというのです。
そんな状態では症状が大きく変動するのも当たり前です。
そこで数種類の便秘薬を試したり、内服する量を調節するのと同時に、訪問介護を導入して週に1回は浣腸をするなどして確実に便を出してもらうことにしました。
しかし、この患者さんの「便秘」は非常に頑固で、毎日数種類の便秘薬を一定量内服してもなかなか定期的な排便が難しい状態でした。
そこで便秘薬の量を増やすとともに、食物繊維の多い食事を摂ってもらったり、水分摂取量を増やしてもらったりもしながら、さらに座薬を併用することでようやく数日に1回は排便できるようになったのです。
すると徐々に心身ともに症状が改善していき、症状が大きく波打つこともなくなりました。
そんな時、とてもびっくりするようなことがありました。
それまでは往診で伺っても、リビングの椅子に傾いたまま座ってボーっとしていることが多く、自発的な発語などもほとんどなかったのですが、ある時伺うと本人が居室の床にあぐらをかいて座っており、いかにも自然な様子でテレビを観ていたのです。
そして自分から挨拶もしてくれたのです。
この方はもともと昔の洋画が好きで、部屋には洋画の雑誌とDVDがたくさんあったのですが、それらが散乱しており、自分でプレーヤーにDVDを出し入れしていました。
その時の表情は実にスッキリとしていて受け答えもしっかりでき、歩くように促すと床から一人で立ち上がって、伝い歩きはもちろん短距離ですが独歩も可能だったのです。
これには家族も非常に驚いたようです。
それからは家族がしっかり排便について確認してくれるようになり、それまで以上に食事や水分摂取、頓服の便秘薬の調節などにも気を配ってくれるようになりました。
その甲斐もあって、この患者さんは症状が大きく変動したり、進行するということもなく現在に至っています。
このように「便秘」がいかに認知症の症状を悪化させてしまうのかということについて、前回ご紹介した症例と同じく、この症例からも改めて教えられました。
前回は、「便秘」が認知症の症状を悪化させたり、大きく波立たせてしまうということを私たちに教えてくれた印象的な症例についてご紹介しました。
今回も引き続き、そのような症例をご紹介します。
この患者さんは、当院を受診される3年前から手が震える「振戦」の症状が出現し、その1年後にふらつきや転倒も見られるようになったため、大学病院を受診し「パーキンソン病(PD)」と診断されました。
しかし、投薬治療を開始してから数ヶ月後に「幻視」「幻聴」「幻臭」などの「幻覚」が顕著に出現するようなり、それらの「幻覚」をベースにした「妄想」や「不安感」から、様々な問題行動を起こすようになってしまいました。
それで薬の調整を何度か試みたのですが、それでもなかなか症状が落ち着かなかったため、転医を何回か繰り返した後に当院を受診されました。
当院初診時の問診内容と症状を以下にまとめます。
・背中が曲がってきてしまったので、大学病院で抗パーキンソン薬による治療を開始したところ、「幻覚」が出現するようになった。
・自分のベッドに裸のおじさんが寝ており、その人の臭いが消えないのでベッドでは寝られずに、リビングで寝ている。今は6人も来ているとのことで、先日は警察に通報してしまった。怖い人たちやワニもいて部屋を汚されるので部屋を掃除しなければいけないと言っている。数日前に「お化け」をよけようとして転び、頭を打ってしまった。
・パーキンソン病と診断されるまではとても健康で、ほとんど病院にかかったことがなかった。また、もともと非常にアクティブで1日に何回も買い物に行ったりしていた。また、優しい性格だったのが段々ときつくなり、顔つきも変わってきた。
・小刻み歩行があるものの、何とか独歩は可能で、現在は訪問リハビリを受けている。
・以前から「便秘」があり、便秘薬を少なくとも2日に1回は内服して排便している。
このように身体的には何とか歩ける状態でしたが、精神的にはリアルな「幻覚」が出現しており、それらが実生活に支障をきたすまでになっていました。
実は、これらの「幻覚」は抗パーキンソン病薬によって引き出されてしまった可能性が高いと考えられます。
抗パーキンソン病薬には身体の動きをスムースにする効果がありますが、量が多すぎると身体的には振戦などの不随意運動を引き起こしたり、精神的には「幻覚」を出したりすることがよくあるからです。
同居している娘さんも、抗パーキンソン病薬が原因だろうということには気付いており、処方された抗パーキンソン病薬を娘さんが自己判断で減量したり中止したりしていたのですが、抗パーキンソン病薬を減量・中止するとと身体の動きが悪くなり、それで薬を再開すると「幻覚」も再燃してしまうということを繰り返していたのです。
実は、認知症を伴う神経変性疾患の治療にとっては、これが大きな障害になります。
抗パーキンソン病薬に限らず、脳神経に作用して身体的・精神的症状をコントロールするような薬は、飲んだり飲まなかったりすると、薬剤成分の血中濃度が変動して、全体的な症状を大きく変動させる原因にになり、結果的に病状を進行させてしまうということが、これまでの経験上分かっているからです。
さらに、この患者さんにはもともと注意欠陥多動性障害(ADHD)の気質があり、そのような気質の人が持ち合わせていることが多い「薬剤過敏性」を強く持っていました。
そのため、使用する抗パーキンソン病薬と精神症状に対する薬の量は、薬によっては常用量の10分の1程度にしなければならず、それを症状に合わせて微調整しなければなりませんでした。
また大抵の場合、微調整した薬の効果をしっかり判断するためには最低でも1~2週間ほど様子を見なくてはなりません。
それにも関わらず、この患者さんの娘さんは薬の効果が表れるまで「待てず」に、いくらクギを刺しても、その時その時の症状に反応して自己判断で内服調整してしまうということをやめられず、そのためになかなか症状が落ち着かなかったのです。
その証拠に、この患者さんはショートステイに行くと、その間は「何の問題もなく」落ち着いていました。
これはおそらく、施設では医師の処方通りに薬を内服させてもらえるばかりでなく、このような「気質」の娘さんと離れて過ごすことで、精神的にも穏やかに過ごすことができるからではないかと考えられました。
つまり、患者さんから受け継いだであろう娘さんの「気質」が、適切なケアを妨げる要因の一つになっていたのです。
さらにもう一つ、この患者さんにとって大きな問題だったのが「便秘」です。
この患者さんは、ショートステイを繰り返しながら在宅で投薬調整を進めていき、少しずつ精神症状は落ち着いてきていたのですが、ある日突然服を脱いで落ち着かなくなるといった強い不隠状態になってしまいました。
また、体調も悪くて数回嘔吐もあったことから、脱水を疑い、臨時往診で点滴を行うために自宅へ伺ってみたところ、それまでもそうでしたが相変わらず娘さんの話は要領を得ず、とにかくワサワサして落ち着かずに「私の方が点滴してもらいたい!」と言うほどでした。
それで患者さんに点滴したところ、本人の様子は少し改善したものの、まだまだ落ち着かない状態というのは続いていました。
しかし、翌朝娘さんから連絡が入り「便が大量に出て、それから具合がすっかり良くなった!」というのです。
実は、それまでも便は出るには出ていたのですが、少量ずつしか出ておらず、いつのまにか腸に便が大量に溜まっていたようなのです。
それが一気に排泄されて、心身ともに症状がスッキリ改善されたことから、この患者さんも「便秘」が原因で症状が急激に悪化していたということが分かりました。
その次に往診で伺った時に本人が言っていたことを今でも覚えています。
「周りがうるさいと出るもんも出なくなる。ひっこんじゃう」と。
つまり、娘さんがワサワサしていると、本人も落ち着かなくなり、それで便も出ずらくなってしまったというのです。
腸の活動が活発になるのは、自律神経の副交感神経の働きが優位な時です。
この副交感神経が優位な時というのは、気持ちがゆったりと落ち着いていて、リラックスしている時であり、精神的に興奮している交感神経が優位な時には、腸の活動が抑制されてしまうのです。
また、パーキンソン病になると出現しやすい症状、つまり「パーキンソン症状」の中にも、この交感神経と副交感神経の切り替えがうまくできなくなる「自律神経障害」が含まれています。
そのため「パーキンソン症状」を呈する病気になると、自律神経がつかさどる体温や血圧の調節、排便などにも支障をきたしやすくなるのです。
したがって、ただでさえパーキンソン病のために交感神経優位になりがちなのに、娘さんがさらに本人を落ち着かなくさせたり、興奮させてしまうことで「便秘」を後押ししてしまったのだと思われます。
ちなみに「パーキンソン病は腸から始まる」とも言われています。
そのため、パーキンソン病はもちろんですが、「パーキンソン症状」を伴う神経変性疾患の患者さんは、病気を発症する何年も前から「便秘」だったり、若い時から「便秘」だったという人が少なくありません。
「パーキンソン病」と「レビー小体型認知症」を含む「レビー小体病」は、「レビー小体」が脳神経や自律神経に蓄積することで発病しますが、腸をつかさどる自律神経から侵されるという報告もあるほどです。
いずれにしても、認知症を伴う神経変性疾患では、その予防・改善において「便秘」が「大敵」であることには間違いありません。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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