健康
Health care
いのちまで人まかせにしないために
Health care
いのちまで人まかせにしないために
2023.08.11
〝排便の頻度が少ない人ほど、認知症のリスクが高くなるとの研究結果〞を、国立がん研究センターなどが4万人余りを追跡した調査(疫学調査)をまとめ、欧州の専門誌に発表しています。
この記事は、毎日新聞 2023/8/7(下桐実雅子)に掲載されています。
内容は以下の通りです。
研究チームは今回、認知症の患者に便秘が多いという報告に着目しました。
2000年と03年に秋田と長野、茨城、高知、沖縄のいずれかの県に住む50~79歳の男性19,396人と女性22,859人を対象に、普段の便通の頻度と便の状態を尋ねました。
その後、この集団を16年まで追跡して、要介護の認定情報から認知症を発症した割合を調べました。
すると、男性の1889人(9.7%)、女性の2685人(11.7%)が認知症と診断されていたのです。
このデータから排便の回数と認知症との関係を分析したところ、週3回未満の男性では、毎日1回排便がある男性より認知症のリスクが約1.8倍高かった。
同じように、女性も約1.3倍高く、排便の頻度が少ない人ほど認知症のリスクが高くなる傾向が見られました。
便の状態で分析すると、便が硬い人ほど認知症のリスクが高いという結果が得られました。
「特に硬い便」と回答した人では、「普通の便」と答えた人に比べて、男性で約2.2倍、女性で約1.8倍高くなっていたのです。
これまでの研究では、「腸内細菌を介した腸の働きと、認知症との関係を示す報告」があります。
研究チームのメンバーで、国立がん研究センターがん対策研究所コホート研究部長の沢田典絵(のりえ)さんは、
便が腸にとどまる時間が長くなると腸内細菌の働きに影響して、それが全身性の炎症や〝酸化ストレス〞を引き起こし、認知症のリスクを高めている可能性がある。
と指摘しています。
この研究は観察研究ですから、なぜ排便回数が少ないと認知症のリスクが高まるのか?についての因果関係は明らかにされていません。
しかし前述の沢田氏のコメントで示唆されている通り「全身性の炎症や酸化ストレス」、つまり「酸性腐敗便」による悪害であることに疑いの余地はないでしょう。
弊社では、繰り返し「腸内腐敗が引き起こす酸性腐敗便」が「万病の元」であることをお伝えし、それは「便やオナラの臭いでわかる」と警鐘を鳴らしています。
健康医学の創始者・西勝造は、次のように述べています。
完全な排泄物とは完全な糞のことである。
完全な糞には臭気がない。
放尿が臭かったり、糞が臭かったりするのは、結局消化不良のためである。
食物が完全に消化され、完全に吸収されると、臭気などあるわけはない。
完全な排泄物になると、いやでもおうでも、神経などなくても体外に追い出されてしまうことになる。
野の鳥や山の獣の糞を、たまに嗅いでみるがよい。
臭いかどうか。
動物の意志を束縛して飼っている家畜の糞は、とかく臭うことがある。
同じ家畜でも、インド人などは牛を御神体として自由にして飼っているから、その糞は臭気がない。
インド人は牛の糞を拾い集めて、自分たちの住居の壁にせんべいのように貼り付けて乾燥し、それを燃料とする。
しかし、はたで考えるような臭気はない。
牛は完全な排泄物を排泄するからである。
完全な静脈血が─酸素を十分に組織に与え、老廃物を残りなく受領してきた静脈血が、右心房に入ってくると、いやでもおうでも右心房は物におびえたように収縮し、それを肺動脈を通じて肺に送ってやることになる。
ところが、いい加減の静脈血が右心房に還流してくるから、右心房もいい加減のことしか働かないことになるのである。
人工的に動物に腸閉塞をおこさせると、その動物の脳に出血がおきて死亡する。
閉塞した腸の場所によって、脳の出血場所も異なってくる─これは慶大川上教授の発表である。
さらにまた、腸閉塞部の上と下との腸内瀦溜物(ちょりゅうぶつ)を、他の動物に注射すると、その動物もまた死亡し、脳に出血が見られる。
われわれは腸と脳との関係を、切り離して考えることはできない。
中国では昔から、長命を得んとするものは、腸内を清くせよといっている。
自分で体内に製造したものだとはいえ、糞便を腸内へ貯えておくことは、衛生的ではないはずである。
とくに消化不良の場合の糞便などは、鼻持ちならぬ臭気を発するのであるから「わがものと思えば軽し傘の雪」というわけにはいかぬ。
近年では、50歳未満で発症するガンの増加が世界的な問題になっており、そこには質の悪い食生活や肥満、運動不足などの要因が関連している可能性が高いとするレビュー論文が、米国ブリガム・アンド・ウイメンズ病院およびハーバード大学医学大学院の荻野周史氏らにより『Nature Reviews Clinical Oncology』(2020年)に発表されています。
また、免疫系に影響を及ぼし、慢性的な炎症を抑えるなどの重要な働きを持つ腸内細菌叢(マイクロバイオーム)が健康にとっていかに重要であるかを究明した研究結果が、近年相次いで報告されています。
腸内細菌叢(マイクロバイーム)の構成は、部分的には遺伝に依存します。
しかし荻野氏は、〝食事、アルコール摂取、喫煙、運動、抗生物質の使用などの環境要因も重要だ〞と述べ、〝こうした環境要因への暴露の状況は、ここ数十年で大幅に変化した〞と説明します。
その例とし同氏があげるのが「西洋型の食生活」です。
西洋型の食生活とは、加工度の高い食品(超加工食品)、砂糖、赤肉の摂取量が多く、果物、野菜、食物繊維、「良質な」脂肪の摂取が少ない食事を指します。
近年、50歳未満での大腸ガンの増加は、特に注目を集めています。
米国立がん研究所によると、大腸ガンの発症率は、65歳以上では減少傾向にあるのとは対照的に、50歳未満では増加傾向にあり、1990年代から2倍以上になっているといいます。
荻野氏は,
〝健康的な生活習慣は、人生の早期の段階で身につけるようにするべきだ。
今回の研究から導き出せる最も重要なメッセージは、将来の子どものがんリスクは、親の今の行動にかかっているというものだ〞
と述べています。
HealthyDay News 2022・9・4
1万年もの歴史を持ち、今日でも人気のヨガは、断食をその奥義とし、
〝腹八分に医者知らず〞
〝腹六分で老いを忘れる〞
〝腹四分で仏に近づく〞
と伝承しています。
そして近年の研究では、カロリー制限によって〝長寿遺伝子〞が発現することが立証され、最新の科学が最古の智慧を証明しています。
実は人間が生涯を健康に生きる智慧は、古来、何も変わっていません。
人間を取り巻く環境の変化による「生き方」が、変わっただけなのです。
前述の疫学調査でも明らかなように、腸内に長い間留まり水分を抜かれた硬い便(バナナ状・硬便・コロコロ便)は、腸内腐敗を引き起こし、酸性腐敗便となり、有害物質を産生して認知症やガン、その他多くの病気のリスクを高めます。
何よりも大切なのは、腸内に便を溜め込まないこと、そして腐敗(腸内異常醗酵)を起こさないことです。
つまり「予防」することなのです。
References
今回の研究をまとめた国立がん研究センターの論文は、欧州の専門誌に掲載されています。
© 2023 Published by Elsevier Ltd on behalf of The Royal Society for Public Health.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37392635/
Y Shimizu 1, M Inoue 2, N Yasuda 3, K Yamagishi 4, M Iwasaki 5, S Tsugane 6, N Sawada 7,“Bowel movement frequency, stool consistency, and risk of disabling dementia: a population-based cohort study in Japan.”. 2023 Aug;221:31-38. doi: 10.1016/j.puhe.2023.05.019. Epub 2023 Jun 29.
『西勝造著作集第十一巻・人生医談』たにぐち書店