健康

Health care

いのちまで人まかせにしないために

『便秘 LES CONSTIPATIONS』Vol.6

2022.09.10

※ 『便秘 LES CONSTIPATIONS』西 勝造 著より抜粋

Man with heavy headache – 3D illustration

神経系統および眼の変化

脳および神経系統に及ぽす自家中毒の影響は、はなはだ顕著であって憐憫(れんびん)に堪えぬものがある。

頭痛(その激しさは種々様々であるが)は、普通にみる症状である。

私の経験した一例などは、この頭痛が極めて激烈で、しかもこれに伴って猛烈な咽吐を起こしたため、著名な神経病学者も、これを脳腫と誤って、手術を勧めたほどであった。

神経痛の起こることが多く、非常に種々様々の神経が、これに冒されることがある。

また、その程度が極めて激しいこともあり、なおロイマチス性疼痛を訴えることも少なくない。

患者は、よく眠れぬにもかかわらず、日中は眼をさましていることが、なかなかできないのに気づく。

悪夢に悩まされることもまた多い。

Depressed woman awake in the night, she is exhausted and suffering from insomnia

朝起きると、はなはだしき虚脱感を経験し、夜分の休息も、なんらの効益を与えなかったことを知ることになる。

腸自家中毒に伴う最も悩ましい症状は「意気消沈」である。

その激しさは一様でなく、単に精神作用不能症であることもあるし、あるいはまた生活を耐え難く感じて自ら生命を絶つに至る場合もある。

精神を集中しようとしても無駄であり、体力を働かすと、その後でひどい疲労を感ずる。

患者は勢い内省的となり、ことに婦人は、はなはだしく宗教的となりやすい。

 

神経衰弱とは、神経系統が、このような状態を呈している場合を指していうのである。

神経哀弱は、ある程度まで、ほとんど常に腸麻痺に伴う症状である。

患者は自制を失い、癇癪(かんしゃく)や、あるいは激情の発作を起こすことも少なくない。

こうした人とともに生活して行くのは難しい。

多くの患者は、愚鈍、不活発、不注意、または白痴とさえ考えられるであろう。

このような特徴は、成育中の小児において特に著しい。

こうした小児は、しばしば学級中の最下位にあって、激しく叱責されたり、あるいは罰せられたりすることがある。

 

眼もまた常に影響をこうむるものである。

眼は自家中毒の程度を示す最も優れた、かつ微妙な標識であって、眼の起こす変化は、はなはだ重要な価値をもっている。

こうした眼の変化は主として水晶体内における変質性隆起、眼瞼筋力の喪失に因るものである。

アーネスト・クラーク(Ernest Clark)氏は、このような容態を、はなはだ明確に記述している。

 

皮膚の変化

皮膚は、身体の各部分において、その性質が種々である。

腸麻痺の場合に起こる最も顕著な変化は、腹、胸および頸の皮膚が、着色または汚染することである。

これは、ことに頸、腋窩(えきか)、鼠蹊(そけい)およびその他の、すべて圧迫を受ける局処において著しい。

汚染は、おおむね一様であるが、しかし疱(もがき)の性質を具えている。

自家中毒に伴う他の症状と同じく、この症状もまた、頭髪の色によって種々異なるものである。

黒髪の人であると汚染は著しいが、赤色の毛または頭髪の薄い人であると、汚染は軽微であり、あるいは全く欠如していることもある。

腹部の皮膚は薄くて、もしも腹に力を入れて引くと、夥しい皺が現われる。

背部の皮膚は厚いように感じられる。

上膊の伸筋面において、皮膚の厚化が著しい。

これを指で触診してみると、皮下組織が膠質物質によって滲透されていることが知られる。

この局処の皮膚は、しばしば疱性を呈し、温和な天候の時でも鉛のような色を帯びている。

なおまた、丘疹で蔽われていることも少なくなく、従ってその格好の醜いために、夜会服を着て腕をむき出しにするわけにいかないこともある。

Skin before and after treatment, close-up, square format, horizontal

頭髪は灰白色となって、薄くなり脱毛する傾向がある。

それと同時に、頬、頣、上唇にむく毛を生ずる。

額および瞼における毛髪線の緑端は不規則であって、毛髪が隣接皮膚を正常限界以上に被っている。

前膊の背部にもまた毛が生えてくる。

発汗は、しばしば過多であって、煩わしく思われるほどである。

体温は常に正常以下である。

それが上昇すれば、何らかの病毒感染が加重することを指すものといえる。

耳は冷たくて、鉛のような色を呈している。

体表面の温度は三角筋の水準において、唐突的に変化するが、これは、つまり、指の方に近づくに従って皮膚が漸次に冷たくなっているからである。

このような循環不全の結果として、前膊および手は、温度の低下に伴って鉛色となる。これが特に著しい特徴をなしていることがあるため、腸麻痺とレノー(Raynaud)氏病(フランスの医者モーリス・レノーが指の動脈における血管痙攣による症候群を1862年に観察した)とを厳正に区別することのできないことがある。

 

場合によっては、皮膚は全く青色となっていて、しかも、この色が種々様々であることがある。

これに対して、「細菌性チアノー ゼ」(皮膚が鬱血のため黒く見えること)という語が用いられている。

脚においても同じように体温が低くて、患者は、時として、膝のところまで感覚がないと訴えることがある。

 

脂肪の喪失と筋肉の消耗

慢性腸麻痺の場合において最も悲惨な結果を将来するものは、脂肪の喪失である。

これは、早期に、しかも漸進的に、起こることを特徴としているが、しかし、すべての患者が同じように、これに冒されるわけではない。

それというのも、ある患者は腸麻痺が顕著となる前に、かなりな肥満状態に逹していることがあるからにほかならない。

脂肪の喪失は、患者に対して老哀の外観を与えるものである。

乳房・腹部および臀部の優美な曲線は消失する、乳房は痩せて垂れ下り、腹は萎縮し、臀もまた羸痩(るいそう)して柔らかくなるのである。

脂肪が喪失すると、内臓、ことに脂肪を主として、その支保とする器官は、下垂を起こす。

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腎臓は下垂し、その機能が損なわれる。

輸尿管は、それが骨盤と接合せる個所または、それが血管の上を通過する個所において角張ってくるので、尿の流出が閉塞して、その結果腎臓水腫を起こすに至るのである。

腎臓から流出する静脈血も、また同様にして閉塞し、その結果腎臓は充血して極めて鋭敏となる。

元来腎臓は、腸骨窩の形成する硬床の上に所在しているもの故、ちょっとした動作をしても感度が増大して、その結果はなはだしい疼桶と苦悩とを感ずる。

骨盤内に尿が溜ると、腎臓の排泄する大腸菌または、その他の細菌に感染する危険性が増大する。

脂肪が喪失すると、腸はさらに下垂して処置の困難な個所に角張り、遂には閉塞を生ずる。

子宮と膀胱は、脂肪による支保を失って下垂し、幾多の不都合な症候を起こしてくる。

 

腸麻痺の初期に起こる筋肉の消耗は、種々なる症候の原因となるものである。

それは、随意筋および不随意筋をともに消耗させる。

随意筋が力を失う場合に、その証左として最も早く現われるものは、胸廓呼吸の消失であって、患者は、血液の酸化を行なうため、より反射的で、かつ、より不正確な、横隔膜および腹筋の作用に頼るのである。

その結果として、患者のとる姿勢は、はなはだ醜いものとなる。

面白いことには、このような腹部呼吸の状態は、固定化に基づくものと私が見倣している、すべての奇形に先行し、しかもそれの原因となるのであって、そして後には、いわゆる「休息姿勢」の過大化が起こるが、これらのことは、すべて上記のように、間接的には慢性腸麻痺の自家中毒に基因しているものなのである。

それらは、すなわち「胸椎彎曲過大」「扁平足」「脊柱側彎」および「膝内飜」である。

 

不随意筋についていえば、腸の随意筋および神経繊維の消耗によって、腸内における物質の通過が影響をこうむり、真性不正循環が発生する。

子宮の筋繊維が萎縮すると、子宮は種々の転位および彎曲を起こすが、このような転位および彎曲は、子宮を正常位置に保つ上において、重大な働きをなしている脂肪が、消失すると、いっそう顕著となるのである。

チャップル(Chapple)氏は、子宮病が腸麻痺に対して密接な依存関係にあることを立証している。

また腸麻痺によって、心臓実質および血管壁に変化が起こることは、マッケンジー(Mackenzie)氏の細密な研究によって、われわれのすでに熟知せるところであるが、今やわれわれはさらに進んで、心臓・血管系統中にも腸麻痺による退行性変化の起こることを認めねばならない…。

 

男子よりも女子に腸麻痺が多いことからみれば、癌に冒される女子が男子の二倍もあるとしても、あえて異とするにはあたるまい。

未開状態の下に生活する未開人中には、癌に冒されるものが、ほとんどないに反して、しばらくの間文明の洗礼を受けた者の間に癌の頻発することからみれば、腸麻痺が癌の成因として直要なる役割をもつことは当然首肯されなければならない。

 

なお、レーン氏の説を支持しつつある幾多著明な専門家中の一人、ロンドンのフラソス病院付き医師レオナード・ウィリアムス(Leonard William)氏[18]は日く、

あらゆる慢性疾患(生活習慣病)は、慢性便秘の症状であるといっても、あえて過言ではあるまい。

さらにまた慢性便秘は、少なくとも、あらゆる慢性疾患の助成的原因であるといっても決して誇張ではない。

そこで細菌よりもさらに一歩奥へ進んで、細菌の発生原因を探究しなければならない。

あらゆる場合において、その発生原因は、細菌の繁殖を許容する地盤の状態であるといってよい。

このような地盤の状態を慢性自家中毒というのであって、これは、換言すれば、排泄系統に欠陥があるということに他ならない。

排泄系統に欠陥を生じて、胃という食堂の床下に汚水溜りができるようになると、抵抗力が著しく減じて、細菌が現出し、極めて容易にかつ驚くべきほど確実に根をおろしてしまうのである。

 

諸多の疾患中には、幾多の長き論文や大冊の書籍をもって論究したものが多数ある。

例えば、歯槽膿漏およびロイマチス性関節炎、さらにまた、多くの悪液質症、例えば痛風性・腺性・酸性および偏頭痛性悪液質があるが、それらのものは、今ぞ知る、いずれも慢性腸麻痺の症候に過ぎないことを。

以上の汚水溜から炉過される細菌は地盤に浸透し、こにおいて、腐敗と疾患を起こすべき生物および腸菌が、構造全般に巣喰うことになるのである。

これら有害微生物群の中、いかなるものが果してさらに侵入をあえてし、もって特定個所を選定して、究極的進展をなすに至るかは、現在のところ、われわれの論究範囲を越える問題というべきであろう。

 

このような慢性便秘の一般的結果、すなわち敗血症は、あまり重要視されていない。

一般に記述される諸症候は、それ自身としては全く正しいものといえるが、しかし、それらは、あまりに局部的・局処的である。

土色の顔貌、冷い手足、腋窩部の糞便様の悪臭、憔悴、全身的不快、加酌レーン氏嚢腫性乳房等のようなものは、中毒症の如実なる表現であるが、実はかような中毒症こそ、現実の疾患の発生する根抵をなすものであることを忘れてはならない。

例えば、ロイマチス性や、その他の形態の関節炎・バセドー氏病や、その他の形態の甲状腺腫・「夢現(ゆめうつつ)」や、その他の機能性神経症候・月経障害や、その他種々なる婦人科疾患・その他あぐべきものは、いくらでもある。

従って、慢性疾患が存在している場合には、われわれの脳裡には、その疾患が、もしや腸排泄不全によって存続しているのではあるまいかという疑いが湧いてくるのである。

以上列挙した個々の症候は、こうした方面において役立つであろうが、しかし、これに関連して、われわれの忘るべからざる点は、かような諸症候は、是非ともこれを探し出さねばならぬということ、是である。

それというのも、いずれの症状も、あまり顕著でなくて、皮相な観察者の眼からは容易に見逃がされてしまうからである。

以上述べ来ったところよりいえば、われわれが慢性便秘を処置するとは、要するに血液中毒状態のみならず、さらに幾多の、いわゆる疾患なるもの一般をも処置することであることを忘れてはならぬ。

便秘と、これに伴う血液中毒状態とを克(よ)く処置せずしては、いわゆる多くの疾患も満足にこれを治療することはできないのである。

 

To be continued


Reference

(18) Dr. Leonard Williams, Physician to the French Hospital in London. Minor Maladies and Their Treatment, London, 1918, 4th Edition, p.111.

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