健康
Health care
いのちまで人まかせにしないために
Health care
いのちまで人まかせにしないために
2022.08.27
※ 『便秘 LES CONSTIPATIONS』西 勝造 著より抜粋
ポーシェ(Victor Pauchet)氏[14]は日く、
便秘の主たる原因は、腸の訓練不良にある。
幼児が初めて便所へ行くことを教えられる場合、それは、どうすれば便秘となるかを教えられているに等しい。
幼児に対しては、便通を催すときに直ちに便所へ行って排便を行なうように躾けねばならない。
言い換えれば、日に三回または、それ以上便所へ行かせることとなるわけである。
したがって、幼児に対し一日一回の便通があれば足りるというように教えこむと、早くも便秘が起こって、これが学齢期に至ると著しくなるのである。
学校へ通い出すと、母親は朝食を食べさせるように、いろいろと配慮するが、その癖、朝食というものは、おおむね、あまり迅速に摂られる傾きがある。
ところで幼児の胃を、みたすよりも、腸の排泄を実行させる方が重要であることを知っている母親は、極めて少ない状態である。
一日に一回の便通があれば、それで差支えないと考えるのは、誤りである。
未開人は一日に数回その結腸の掃除を行なっているのである。
婦人が、乳房の疼痛または 腫瘍を訴うる場合には、X光線によって腸の状態を調べてみるがよい。
そうすれば、多くの場合、乳房の傷害は、その根源が腸にあることが判明するであろう。
腸の排泄を正常に復活させれば、しばしば乳房を正常状態に還すことができるのである。
私の見出したところによれば、乳癌患者十名の中、九名は便秘に悩まされていた。
思うに、十年または十五年前に便通に注意するように教えられていたならば、乳房の腫瘍または癌には冒されずにすんだことであろう。
なおジョルダン(Jordan)氏[15]は日く、
すべての哺乳動物は、糞便物を大腸内に保有し、若千の腸吸収が行なわれる。
大腸は、草食動物においては、肉食動物よりも遥かによく発達しており、その口径もまた大きい。
草食動物においては、大腸は夥しい細菌を保有していて、そのため、その常食物の、ほとんど全部を構成する植物細胞の繊維素性壁は、これらの細菌によって破壊されるのである。
繊維素は、腸酵素の作用に抵抗するものである。
従って草食動物は、腸内に所在するバクテリアの助力なくしては、その食物を消化することができないに違いない。
このようなバクテリアは、植物細胞繊維素性被膜が細菌によって破壊された後、腸の分泌液を働かして植物細胞の蛋白を取り巻く。
肉食動物の場合においては、大腸のこのような機能は、それほど顕著に働かない。
また、爬虫類および両棲動物は、大きな腸を必要としない。
これらの動物は「冷血」であって、従って、いずれも少食なのである。
典型的な草食動物ゴリラ
便秘は、幾多の方面から培われる。
幼児は下等動物と同じく、排便の反射作用を刺激するにたるだけの糞便が、直腸に溜ると排便を行なう。
しかるに、小児の教育が系統的に始められるや否や、腸の自然な要求に応じていくことが阻止されるに至るのである。
このようにして、小児は便秘になるように教えこまれていくわけである。
学校は、こうした養育法をさらに強化するに至る。
それというのも、教室から出る許しをたびたび求める生徒は、教師から疑いの目をもって見られるからである。
文化生活を通じて、腸の排泄要求は、都合または便宜のために抑圧されるのである。
腸停滞は、一連の確たる臨床的障害をひき起こし、その一方において、バクテリアの産物による敗血症または循環中毒症が、人体のあらゆる組織および器官に対して影響を及ぼしてくる。
麻痺に伴う多くの症候および徴候は、内分泌腺および他の器官の機能異常に因るが、しかし、その効果は極めて錯綜しているので、慢性腸麻痺の症状および肉体的徴候を合理的に分類することはできない。
腸停滞の直接的影響に基づく障害としては、便秘、風気、膨大、腹部孱弱(せんじゃく)および疝痛がある。
なお食欲は減退あるいは気まぐれとなる。
また嘔気が起こることもある。
息は悪臭を帯び、口内に、いやな味がついているのである。
これがさらに充進してくると腸壁は、全身的敗血症によって影響をこおむり、粘膜はカタルを起こし、便秘に代ってある形態の下痢が起こり、少量の糞便とともに粘液が排泄される。
初期麻痺に伴う症状の若干は、単純な敗血症に因るものといえるが、しかし、いずれかの内分泌腺の機能異常が、果して、いかなる時機に始まったかを定めることはできない。
これらの初期の症状としては、頭痛、背痛、筋痛、関節疼痛、神経痛および神経炎がある。
ある場合には、喘息の発作をみることもある。
上記のような初期症状は、最初はすべて間欠的であるが、しかし疾患の進むにつれて次第に頑固となってくるのである。
疾患が犠牲者を、より一そう固く捕えるにつれて、種々の精神障害が起こってくるが、それは倦怠や性交不能から幻想的狂気に至るまで種々である。
さらに詳しくいえば、意気消沈、精力欠乏、集中力の欠乏、記憶喪失、および神経衰弱などがある。
不眠症および悪夢もまた普通にみる障害である。
激しい精神障害としては、癇癪、白痴、憂鬱症および自殺狂が挙げられる。
私の取り扱った三人の患者は、意気消沈が嵩じて、ついに自殺という悲劇的最期をとげたのであった。
糞便停滞の肉体的徴候は、極めて一定かつ明確である。
皮膚は帯黄色となり、脂肪分を失って、弾力性を欠いてくる。
通例ならば色素の所在せる局処すなわち眼瞼、腋窩、頸の後などが褐色に変じはじめて、皮膚の色が汚濁するのである。
汗は不快な臭をもっている。
頭髪が脱けるようになるが、 これは全身的敗血症に因るものである。
それというのも、頭蓋の組織が、栄養の阻害を受けるので、細菌が毛根を侵すからである。
中毒に冒された歯齦(歯茎)には膿漏が起こり、歯根および歯窩が病毒感染を起こしてくる。
中毒に冒された関節組織が、球菌によって第二次的病毒感染を受け、それから関節のロイマチス性腫脹やロイマチス性関節炎が、起こってくる。
歯根が化膿すると、関節が、かような第二次的病毒感染に冒されやすくなるのである。
体内の中毒筋肉および靱帯は、一般的に消耗し、かつ軟化してしまう。
若い患者の場合に関節の筋肉支保が欠乏すると、脊柱彎曲、扁平足および、その他の奇形が起こる。
関節の過度伸展は、おおむね、 中毒性の小児にみるところである。
すなわち、親指が二重関節になって、他の指や手頸は異常なる程度まで後へ曲げることができるし、肱(ひじ)も過度に伸長し得るのである。
患者が中年者以上であるならば、眼の眼瞼筋(がんけんきん)が弱くなり、かつ水晶体が硬化するので、調節がうまく行かぬようになる。
脂肪が一般的に失われて、骨が隆起し、皮膚に皺を生じて、早老の外観を現わしてくる。
乳房は垂れ下り、腹および臀部の皮膚にも皺がよってくるのである。
このような変化は、早老の外観をいっそう強むるに至るのである。
内臓器官は、脂肪支保を失い、肝臓は下垂し、子宮は直腸の上へ後屈してしまうのである。
リー(Lee)氏[16]は日く、
疾患の発生は、三つの能因に所以するものといえよう。
すなわち最初に与えられたるバクテリアの数、そのバクテリアの毒性、および身体の抵抗力—の三者がそれである。
…疾患の強さと、その発生とを支配する最も重要なる要素は、いうまでもなく各個人の抵抗力いかんの問題、すなわち自然の免疫性、または自然の罹病性、および疾患に対する各人の組織の抵抗的反応いかんの問題である。
…それなのにわれわれは、身体の抵抗および防御の機構については、ほとんど何ら積極的に知るところがない状態である。
なお、レーン氏[17]が1919年に行なった講演の全文を引用してみよう。
医学の進歩は、疾患の原因を見きわめることによってのみ遂げられる。
「閉塞個処における停滞の機械的効果」
筋肉麻痺または制動膜の発生によって、閉塞を起こした場合、その個処に腸の含有物が堆積して停滞すると、これによって次のような機械的効果が起こる。
⑴ 骨盤部結腸の末端を支配する括約筋は粘膜によって被われているが、これが硬性糞便によって衝撃されるため、当該局処に潰瘍または癌が起こりやすい。
⑵ 骨盤部結腸が過度伸長するため、蹄係(弓状をした綱状の組織)が、ねじれて慢性腸捻転が形成される。
こういう配置になると、物質は蹄係内に入ってくるが、出て行くことが難しくなる。
こうした捻れは、いつ完全な形態をとって、以って急性閉塞を起すかもしれない。
⑶ 最後の絡障によって、硬糞の通過が閉塞されると、これがこの方面における癌の発生を不可避的のものとすることがある。
あるいはまた、閉塞に近き部分の腸が脂肪浸潤に陥ってこれが絶えず過度伸長を被ると、憩室が形成されて、これが後に炎症性細菌または癌に冒されることがある。
⑷ これと同じように、肝臓部彎曲が閉塞すると、その結果、感染性または癌腫性潰瘍を起こすことがある。
⑸ 肝臓の下面、膠嚢、幽門、十二指腸、および横行結腸の間に形成せられた靱帯によって、閉塞が起こると、閉塞の個処に潰瘍を生ずることがある。
これは、誰しも考えるように、癌を引き起こす局処となることが多い。
⑹ 上行結腸に後天的繋帯が形成される場合にも、その制動作用によって上記と同じような結果をみることがある。
⑺ 十二指腸・空腸結合部に閉塞が起こると、十二指腸、特にその最初の部分が伸長かつ 拡大して、それとともに充血、擦過傷、潰瘍等を起こし、後には、この部分の腸を内被する粘膜に穿孔(せんこう)を生ずることがある。
⑻ 十二指腸の伸長に伴う幽門の痙攣は、幽門の物質通過を阻害し、幽門の周囲における粘膜対して、単なる充血から癌腫に至るまでの、種々なる変化を起こすことがある。
⑼ 幽門の痙攣作用によって、胃からの流出が障害されると、物質は胃の中に堆積し、胃小彎曲の粘膜に対して披裂的張圧を加えて、充血ないし癌腫を起こすことがある。
胃の分泌が正常の酸性を保っている限り、癌をひき起こすべき細菌または他の物質は、確たる足場をとり得ないもののようである。
しかしながら、酸性度が明白に正常以下になるならば 、このような状態が起こることがある。
⑽ 胃からの流出が多少とも節害されると、食道括約筋の不規則な痙攣性牽縮(心臓痙攣)が起こることがある。
このように食道内における物質通過が障害されると、粘膜内に変化を生じて、後にこれが癌となることがあるのである。
To be continued
References
(14) Dr. Victor Pauchet. Le Colon Homicide, Paris, 1922.
(15) Dr. Jordan. Chronic lntestinal Stasis: A. Radiological Study, London, 1923.
(16) Dr. Roger I. Lee, Professor of Hygiene in Harvard University, Health and Di sease : Their Determing Factors, Boston, 1917, p.170.
(17) Lane. Reflections on the Evolution of Disease, Lancet, 20 th Decembre, 1919.