栄養

⑴ 胃酸の役割と重要性

胃酸（主に塩酸 HCl）は、胃内のpHを1.5〜3.5に保ち、消化酵素ペプシンの活性化や病原菌の殺菌に加え、鉄（Fe³⁺→Fe²⁺）やカルシウム、亜鉛、マグネシウムなどのミネラルのイオン化を促進する重要な役割を担っています。[1]

イオン化されることでミネラルは水に溶けやすくなり、小腸での吸収が可能になります。

したがって、胃酸分泌が低下していると、これらのミネラルの吸収率は著しく下がることが知られています。[2]

Pantoprazole, Proton pump inhibitor (PPI)

⑵ 胃酸分泌低下の要因と健康影響

加齢や慢性胃炎、萎縮性胃炎、H. pylori（ピロリ菌）感染、またはプロトンポンプ阻害薬（PPI）の長期使用などは、胃酸の分泌低下（低酸症あるいは無酸症）を引き起こします。[3]

この状態が長期にわたると、以下のようなミネラル欠乏症が起こりやすくなります：

• 鉄： 鉄欠乏性貧血、疲労、集中力低下
• カルシウム： 骨密度の低下、骨粗鬆症
• 亜鉛： 味覚障害、創傷治癒遅延、免疫低下
• マグネシウム： 筋肉のけいれん、心不整脈、慢性疲労

特にPPIの長期使用者では、骨折リスクの上昇や低マグネシウム血症の報告が増えています。[4・5]

Composition with food products rich in zinc

⑶ 栄養療法の視点：胃酸のサポート

胃酸分泌の補助としては、ベタインHClや酢、レモン果汁、消化酵素サプリメントなどが用いられることがあります。

また、ピロリ菌の除菌後には胃酸分泌が回復する例もあり、根本的な原因への対処が重要です。[6]

さらに、ビタミンB1、亜鉛、塩素（Cl⁻）などの栄養素も胃酸の生成に関与しており、これらの欠乏が胃酸不足を招くことも指摘されています。[7]

References

1. Reimer, C. (2013). “Safety of long-term PPI therapy.” Best Practice & Research Clinical Gastroenterology, 27 (3), 443–454.
2. Ito, T., & Jensen, R. T. (2010). “Association of long-term PPI use with hypomagnesemia.” Current Gastroenterology Reports, 12 (6), 448–457.
3. Lahner, E., et al. (2009). “Atrophic gastritis and micronutrient deficiencies.” Autoimmune Diseases, 2009, Article ID 1–6.
4. Lam, J. R., et al. (2013). “Proton pump inhibitor use and fracture risk.” JAMA Internal Medicine, 173 (9), 764–771.
5. Hess, M. W., et al. (2012). “Hypomagnesemia and proton-pump inhibitors.” BMJ, 344, e3672.
6. McColl, K. E. L. (2010). “Helicobacter pylori infection.” New England Journal of Medicine, 362 (17), 1597–1604.
7. Wright, J. V. (2001). Why Stomach Acid is Good for You. Evans and Company.