
⑴ 微量ミネラルの吸収とその場としての小腸
鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、セレン(Se)などの微量ミネラルは、小腸、特に十二指腸から空腸にかけて吸収されることが多い栄養素です。[1]
腸粘膜の健康やpH環境、トランスポーターの発現状態が吸収効率に大きく影響します。
たとえば鉄の吸収は、胃酸によるFe³⁺(三価鉄)の還元と十二指腸のDMT1(divalent metal transporter 1)による輸送が不可欠です。
亜鉛もまたZIP4という特異的トランスポーターを介して吸収されますが、慢性下痢や炎症性腸疾患などによってこれらの輸送系は容易に障害を受けます。[2]

Crohn’s disease pain and Crohn syndrome illness.
⑵ ミネラル欠乏をもたらす消化管疾患
以下のような消化管疾患や状態は、微量ミネラルの吸収障害を引き起こす要因になります:
- セリアック病やクローン病などによる小腸粘膜の萎縮・炎症
- 胃切除後や萎縮性胃炎による胃酸分泌低下
- 長期の下痢やステアトレア(脂肪便)による腸管通過速度の異常
- 膵液・胆汁の分泌障害
これらの結果、鉄欠乏性貧血、亜鉛欠乏による味覚障害や免疫低下、マグネシウム欠乏による筋痙攣、セレン欠乏による心筋症や免疫異常などが生じる可能性があります。[3・4]

⑶ 腸内環境とミネラルバランス
腸内細菌叢もまたミネラルの吸収に影響を与える要因の一つです。
とくに短鎖脂肪酸(SCFA)の産生は、腸内pHを下げてミネラルの可溶化を助け、吸収効率を高めます。
逆に、腸内での病原菌の過剰増殖や慢性炎症は、ミネラルの消費・喪失・吸収障害を引き起こします。[5]
繰り返しますが、腸内を衛生的に保つことで、最適な栄養状態を維持することができます。

References
- Fairweather-Tait, S. J., et al. (2011). “Minerals in health and disease.” Biochimica et Biophysica Acta (BBA) – General Subjects, 1820 (11), 1943–1950.
- Kambe, T., et al. (2015). “Zinc transporters and signaling in physiology and pathogenesis.” Archives of Biochemistry and Biophysics, 611, 1–9.
- Gibson, R. S. (2007). “A historical review of progress in the assessment of dietary zinc intake as an indicator of population zinc status.” Advances in Nutrition, 2 (6), 420–429.
- Chasapis, C. T., et al. (2012). “Zinc and human health: an update.” Archives of Toxicology, 86 (4), 521–534.
- O’Neill, C. A., et al. (2016). “The gut microbiome and diet in psychiatry: focus on depression.” Current Opinion in Psychiatry, 29 (1), 1–6.