栄養

Nutrition

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3.17 ナイアシンと消化器の健康 ——消化管の代謝、修復、炎症制御に関わる重要因子

2025.11.21

⑴ ナイアシンの基礎と消化器への影響

ナイアシン(Niacin)は、ビタミンB₃とも呼ばれる水溶性ビタミンで、ニコチン酸(nicotinic acid)とニコチンアミド(nicotinamide)の2つの形で存在し、いずれも体内で補酵素のNAD⁺(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)やNADP⁺の構成要素として働いています。

これらの補酵素は、消化管上皮細胞のエネルギー代謝、DNA修復、細胞死の制御、免疫応答の調節など、幅広い生命活動に関わっています。[1]

⑵ ナイアシン欠乏とペラグラ症候群

ナイアシンが欠乏すると、「4D症状」として知られる皮膚炎(Dermatitis)、下痢(Diarrhea)、認知障害(Dementia)、死(Death)が特徴的なペラグラ(pellagra)を引き起こします。

なかでも慢性的な下痢や消化不良は、ペラグラの初期症状としてしばしば現れます。[2]

これは、ナイアシン不足によって腸粘膜の細胞再生やエネルギー産生が阻害され、バリア機能が低下するためと考えられています。

とくにアルコール依存症や偏食、胃腸手術後、または消化吸収障害のある患者では、ペラグラのリスクが高まります。

ペラグラとは、ビタミンB3(ナイアシン)の欠乏によって引き起こされる病気で、「皮膚炎」「下痢」「認知症」「死亡」の4つの症状(4D)を特徴とします。

日光に当たる部分に発疹ができ、下痢や精神的な異常が現れます。

アルコール依存症や摂食障害の人に見られることがあります。

⑶ ナイアシンと腸内環境・炎症制御

最近の研究では、ナイアシンが腸内細菌叢の構成や腸管免疫の調節にも影響を及ぼすことが明らかになってきました。

ナイアシンは、腸内の免疫細胞にあるGPR109A受容体に作用し、抗炎症性サイトカイン(IL-10など)の産生を促進するほか、制御性T細胞(Treg)の誘導を通じて炎症抑制に貢献することが報告されています。[3・4]

これにより、炎症性腸疾患(IBD)や腸過敏症(IBS)といった疾患の予防や緩和に寄与する可能性があります。

Niacin flash

⑷ ナイアシン補給の臨床応用と注意点

ナイアシンは、経口または静脈内投与で補給が可能であり、ペラグラの治療には即効性があります。

また、ナイアシンアミド(nicotinamide)としての補給は、胃腸への刺激が少なく、長期使用にも適するとされています。[5]

ナイアシンアミドは、関節炎やリウマチなどの改善にも効果があります。

実際に、筆者のグラフィック・デザイナーの友人は、指の関節炎でキーボードを打つのも辛い状態でしたが、ナイアシンアミドの服用で改善されました。

彼女は、「更年期障害だー!」と思い込んでいましたが、実は「栄養欠乏」だったのです。

一方で、高用量のナイアシン(特にニコチン酸)は、皮膚紅潮(Niacin flush)、消化不良、肝機能障害といった副作用を引き起こすことがあるため、医師の管理下での使用が推奨されます。[6]


 

References

 

  1. Houtkooper, R. H., & Auwerx, J. (2012). “NAD⁺ and the regulation of metabolism and transcription.” Science, 336(6083), 1341–1343.
  2. Zinder, R., et al. (2014). “Pellagra: the forgotten nutritional deficiency.” Dermatology Online Journal, 20(8).
  3. Singh, N., et al. (2014). “Activation of GPR109A, receptor for niacin and butyrate, suppresses colonic inflammation and carcinogenesis.” Immunity, 40(1), 128–139.
  4. Bogan, K. L., & Brenner, C. (2008). “Nicotinic acid, nicotinamide, and nicotinamide riboside: a molecular evaluation of NAD⁺ precursor vitamins in human nutrition.” Annual Review of Nutrition, 28, 115–130.
  5. Fiechter, C., et al. (2013). “Nicotinamide: mode of action, metabolism and side-effects.” Drugs of Today, 49(7), 411–423.
  6. McKenney, J. M. (2003). “Pharmacologic characteristics of nicotinic acid and nicotinic acid extended-release tablets.” American Journal of Cardiology, 91(8A), 14C–20C.
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