栄養

Nutrition

あなたは、あなたが食べてきたそのものです

3.12 肥満と消化管障害

2025.10.17

⑴ 消化管の異常と肥満の関連性

肥満は、エネルギー摂取と消費の不均衡により脂肪が過剰に蓄積された状態ですが、単なるカロリー過多だけでなく、消化管機能や腸内環境の異常が密接に関与していることが近年の研究で明らかになっています。

とくに、腸内細菌叢(マイクロバイオーム)の組成の変化や腸管バリア機能の低下は、肥満の発症と維持に寄与していると考えられています。[1]

肥満者では、ファーミキューテス門(Firmicutes)の細菌が増加し、バクテロイデス門(Bacteroidetes)が減少している傾向があり、この細菌組成は食事からのエネルギー吸収効率を高めることが示されています。[2]

また、腸内細菌叢の異常は、腸粘膜から内毒素(LPS)などの炎症性物質が体内に入りやすくなる「腸漏れ(リーキーガット)」の原因となり、慢性的な全身炎症(メタ炎症)を引き起こします。[3]

この炎症は脂肪細胞のインスリン感受性を低下させ、脂質代謝や糖代謝の破綻につながり、肥満の悪循環を助長します。

⑵ 消化ホルモンと食欲調節

消化管は消化吸収だけでなく、ホルモン分泌を通じて摂食行動やエネルギー代謝にも関与しています。

たとえば、空腹ホルモンであるグレリン(ghrelin)は胃で分泌され、視床下部に作用して食欲を刺激します。

肥満者ではこのグレリンの分泌や感受性が変化しており、空腹感が過剰になる場合があります。[4]

一方で、小腸から分泌されるGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)やPYY(ペプチドYY)などの満腹ホルモンは、食後の食欲抑制やインスリン分泌促進に寄与します。

これらのホルモンの分泌や作用が低下することも、肥満の発症と関係しています。[5]

⑶ 栄養療法による改善の可能性

食物繊維や発酵食品を多く含む食事は、腸内細菌のバランスを整え、短鎖脂肪酸(とくに酪酸)の産生を促します。

酪酸は腸上皮のエネルギー源であり、腸管バリア機能を強化し、炎症を抑える作用があります。[6]

また、特定のプロバイオティクス(例:Bifidobacterium、Lactobacillus)やプレバイオティクスの摂取は、肥満関連の代謝異常を改善する可能性が示されています。

このように、肥満は単なるエネルギー過剰ではなく、消化管の機能や微生物環境の破綻と深く結びついているため、腸内環境の改善を含む包括的なアプローチが求められます。


 

References

 

  1. Turnbaugh, P. J., et al. (2006). “An obesity-associated gut microbiome with increased capacity for energy harvest.” Nature, 444(7122), 1027–1031.
  2. Ley, R. E., et al. (2006). “Microbial ecology: human gut microbes associated with obesity.” Nature, 444(7122), 1022–1023.
  3. Cani, P. D., et al. (2007). “Changes in gut microbiota control metabolic endotoxemia-induced inflammation in high-fat diet-induced obesity and diabetes in mice.” Diabetes, 57(6), 1470–1481.
  4. Tschöp, M., et al. (2000). “Post-prandial decrease of circulating human ghrelin levels.” J Endocrinol Invest, 23(8), 382–388.
  5. Neary, N. M., et al. (2004). “Peptide YY and glucagon-like peptide-1 in the regulation of appetite and food intake.” Proc Nutr Soc, 63(3), 541–546.
  6. Canfora, E. E., et al. (2015). “Gut microbial metabolites in obesity, NAFLD and T2DM.” Nature Reviews Endocrinology, 11(8), 577–591.
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