栄養

Nutrition

あなたは、あなたが食べてきたそのものです

3.5 食事スタイルと胃酸分泌:現代食が消化管に与える影響

2025.08.29

⑴ 胃酸と食事のタイミングの関係

近年、「1日1食」などの極端な食事スタイルを実践する人が増えています。

このような食生活では、胃に長時間食物が入らない状態が続き、胃酸の分泌が空腹時に過剰になることが問題となる場合があります。

ただし、食事がまったく入らなければ、胃酸の刺激も少ないため、これはある意味「軽い断食」のような状態ともいえます。[1]

しかし、問題はその後に摂取する食事の内容にあります。

糖質が多く、繊維やタンパク質が少ない人工的な食事は、胃酸の分泌を刺激しながらも、その酸を中和・緩衝する成分に乏しいため、胃粘膜や十二指腸粘膜への負担が増大してしまいます。

通常、咀嚼が始まると脳からの信号により胃酸の分泌が促され、食物が胃に到達すると酸と混ざり合い、タンパク質などと結合して消化が始まります。

タンパク質は胃酸と化学的に結びつき、酸の作用を「緩和」する役割を果たします。

ところが、清涼飲料水や砂糖・でんぷん類に富んだ加工食品にはこのような中和因子が含まれていません。

さらにソフトドリンクには、炭酸やリン酸などの酸性物質が多く含まれており、これらも体内で中和される必要があるため、胃酸による負荷が二重に高まることになります。[2]

⑵ 精製食品による胃酸とのアンバランス

精製糖質や加工食品が中心の食事では、胃酸の分泌が活性化する一方で、それと結びつくべきタンパク質や食物繊維が不足しているため、胃酸が遊離したまま胃壁を刺激する危険性が高まります。

たとえ1日に1回、しっかりとした食事を摂っていても、それがタンパク質を十分に含んでいなければ、胃酸の「防御的中和作用」は限定的となり、潰瘍や炎症のリスクが残るのです。

このような現代的な食生活は、消化管の生理的なリズムや進化的適応と大きく乖離しており、胃酸分泌の制御や粘膜保護のバランスが崩れやすくなっているといえます。[3]


 

References

 

  1. Longo VD, Panda S. Fasting, Circadian Rhythms, and Time-Restricted Feeding in Healthy LifespanCell Metab.2016 Jun 14;23(6):1048–1059.
    — 断続的な断食(intermittent fasting)や時間制限食の生理学的影響に関する総説。胃酸分泌や代謝、消化器の反応に関する考察が含まれる。
  2. Sherman PW, Billing J. Darwinian gastronomy: why we use spicesBioScience.1999;49(6):453–463.
    — 食品に含まれる香辛料や酸性成分が胃酸とどのように相互作用するかに関する進化的仮説。ソフトドリンクに含まれる酸性物質の胃酸負荷に関する議論にも応用可能。
  3. Sonnenburg JL, Sonnenburg ED. The Good Gut: Taking Control of Your Weight, Your Mood, and Your Long-term Health. Penguin Books, 2015.
    — 精製食品や食物繊維不足が腸管および消化器系に与える影響を、進化的視点と現代の栄養学的知見から解説。胃酸分泌との関係にも触れる。
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