栄養

Nutrition

あなたは、あなたが食べてきたそのものです

3. 胃と十二指腸の健康

2025.08.01

3.1 潰瘍、腸内細菌、現代食の影響

⑴ 消化性潰瘍とピロリ菌の関係

 

胃や十二指腸に発生する潰瘍の最大の原因として知られているのは、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)の感染です。

この細菌は胃酸に強い耐性をもち、胃粘膜に生息して慢性的な炎症や潰瘍を引き起こします。

1980年代にその関連が明確に証明されて以降、ピロリ菌の除菌療法(主に抗生物質とプロトンポンプ阻害薬の併用)が標準治療として定着しています。[1・2]

しかし、潰瘍の発症には栄養や食生活の要因も極めて重要です。

すでに消化管が脆弱な状態にあると、ピロリ菌への感染リスクが高まるとともに、治癒の遅延や再発の要因にもなります。

実際、ピロリ菌発見以前には、潰瘍の管理には食事療法や栄養補給が主な手段でした。[3]

 

⑵ 十二指腸潰瘍と食習慣の関連

 

胃潰瘍と十二指腸潰瘍は病理的には異なる性質を持ちますが、とくに十二指腸潰瘍は不規則な食事や加工食品の多い食生活と強く関連しています。

胃潰瘍もまた、糖質代謝異常症候群(metabolic syndrome)の一環として発症するケースが増えており、とくに胃の幽門部や十二指腸への炎症や損傷が見られます。[4]

歴史的にも、食生活の変化と潰瘍の罹患率には明確な相関が観察されています。

たとえば、ロンドンでは1900年以前は消化性潰瘍の罹患率が0.1〜0.3%であったのに対し、20世紀初頭には1%、1913年以降は2.2〜3.9%と増加しました。

年齢とともに罹患率も高まり、特定の集団では最大20%が症状を呈していたと報告されています。[5]


 

References

  1. Graham DY. Helicobacter pylori and peptic ulcer disease. Gastroenterology. 1994;106(4):1295–1302.
    2. Marshall BJ, Warren JR. Unidentified curved bacilli in the stomach of patients with gastritis and peptic ulceration. Lancet. 1984;323(8390):1311–1315.
    3. Sachs G, Shin JM, Howden CW. The clinical pharmacology of proton pump inhibitors. Aliment Pharmacol Ther. 2006;23(Suppl 2):2–8.
    4. Lanas A, Chan FKL. Peptic ulcer disease. Lancet. 2017;390(10094):613–624.
    5. (出典不明) ※この文献はおそらく歴史疫学に基づく記述ですが、出典が明記されていないため、補足が必要です。20世紀初頭のロンドンにおける消化性潰瘍の罹患率変化についての記録としては、以下の文献が参考になる可能性があります:
      — Sonnenberg A. Time trends of ulcer mortality in Europe. Gastroenterology. 1986;90(3):570–576.
  2. Lanas A, Chan FKL. Peptic ulcer diseaseLancet. 2017;390(10094):613–624.
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