栄養

Nutrition

あなたは、あなたが食べてきたそのものです

2. 糖質代謝症候群の症状

2025.07.25

2.1口腔:虫歯・歯周病と現代食

 

虫歯や歯周病は、精製された糖質の過剰摂取と食物繊維の不足という現代食の特徴と深く関係しています。

これらの口腔疾患と食生活の関連は、歴史的にも民族的にも明確なエビデンス(科学的根拠)が存在します。

たとえば、イギリスにおける新石器時代の遺跡では、虫歯の発生率はわずか4%程度であり、粗い繊維質を含む食事の影響で歯はすり減っていたものの、虫歯はほとんど見られませんでした。

しかし、ローマ帝国の支配下において、小麦粉の精製技術や甘味嗜好が広まると、虫歯の発生率は12%にまで上昇しました。

その後、ローマ帝国が撤退すると虫歯率は再び5%まで低下し、さらに16世紀以降に砂糖が普及することで再び上昇に転じ、現代ではイギリス人の半数が50歳までにすべての歯を失うという状況に至っています。[1・2]

これは、高度に加工された食品を摂らない人々では虫歯や歯周病が非常に少なく、現代型の精製糖質中心の食事を取り入れて数年以内に口腔疾患が急増するという事実を裏づけるものです。

歯周病は虫歯と同様に、糖質代謝異常や栄養不良とも関連しています。

虫歯の発生には、歯垢(プラーク)の形成が第一段階として関与します。

歯垢とは、歯に付着するゼラチン状のバイオフィルムであり、糖を代謝する細菌が密集しています。

これらの細菌が糖を発酵させて酸を生じ、この酸が歯のエナメル質を溶かして虫歯の原因となります。[3]

なかでもスクロース(蔗糖)は最も※齲蝕原性(うしょくげんせい)が高く、白い小麦粉も全粒粉に比べて齲蝕を引き起こしやすいとされています。

一部の全粒穀物には、逆に抗齲蝕作用を持つものもあり、これはフィチン酸などの成分による影響だと考えられています。[4]

※齲蝕原性(うしょくげんせい)とは、虫歯(齲蝕)を引き起こす性質のことです。具体的には、口腔内の細菌が糖分を分解して酸を生成し、歯を溶かす作用を指します。この酸を生成する細菌を「齲蝕原性細菌」と呼び、代表的なものにミュータンス菌があります。

 

2.2 予防と対策:口腔ケアと栄養の視点

 

虫歯や歯周病の予防には、基本的な口腔衛生の徹底が必要です。

具体的には、歯磨き、デンタルフロスや歯間ブラシによる歯垢除去、定期的な歯科受診、糖質の制限、食物繊維や全粒穀物の摂取、さらに免疫力を高める栄養素の補給などが挙げられます。[5]

本稿の立場としては、飲料水へのフッ素添加について慎重な姿勢をとっています。

フッ素添加が虫歯の予防に多少寄与する可能性はあるものの、歯周病の予防には明確な効果がなく、また生活習慣や食事の改善を軽視することにつながりかねないからです。

実際、フッ素添加水で育った人とそうでない人との間での違いは、歯科充塡(詰め物)の本数が生涯で0.5本少ない程度であり、臨床的意義は限定的です。[6]

こうした背景から、欧州諸国ではフッ素添加を中止する国が増えています。

 

2.3 栄養欠乏による口腔症状

 

歯周病のもう一つの重要な要因は、栄養素の欠乏です。

特にビタミンC(アスコルビン酸)とナイアシン(ビタミンB₃)の不足は、歯茎の健康に大きく影響します。

古典的な壊血病では、歯茎の腫脹や出血、脱落などが顕著に見られますが、現在ではより軽度の「潜在性壊血病」が広く存在していると考えられています。[7・8]

ナイアシンについての認知は比較的低いものの、歯周病が口腔衛生だけでは改善しない場合には、ビタミン補充療法の検討が必要です。

また、リボフラビン(ビタミンB₂)やピリドキシン(ビタミンB₆)の欠乏も、口角炎や舌炎などの口腔症状の原因となります。[9・10]


 

References

 

  1. Hillson S. Dental pathology. In: Brothwell DR, Sandison AT (eds). Diseases in Antiquity. Charles C Thomas, 1967.
  2. Moynihan PJ, Kelly SA. Effect on caries of restricting sugars intake: systematic review to inform WHO guidelines. J Dent Res. 2014;93(1):8–18. PMID: 24323509
  3. Marsh PD. Dental plaque as a biofilm and a microbial community – implications for health and disease. BMC Oral Health. 2006;6 Suppl 1:S14. PMID: 16934115
  4. Van Loveren C. Diet and dental caries: risk, resilience and intervention possibilities. BMC Oral Health. 2019;19(1):1–6. PMID: 30876410
  5. Sheiham A. Diet and dental caries: the pivotal role of free sugars reemphasized. J Dent Res. 2011;90(6):861–4. PMID: 21493880
  6. Cheng KK, Chalmers I, Sheldon TA. Adding fluoride to water supplies. BMJ. 2007;335(7622):699–702. PMID: 17932152
  7. Levine M, et al. Vitamin C. In: Ziegler EE, Filer LJ (eds). Present Knowledge in Nutrition. ILSI Press, 1996.
  8. Gokhale N, et al. Ascorbic acid levels in periodontal health and disease: a clinical and biochemical study. Indian J Dent Res. 2013;24(3):304–8. PMID: 24047853
  9. Higdon JV, Drake VJ. An Evidence-Based Approach to Vitamins and Minerals. Thieme Medical Publishers, 2011.
  10. Powers HJ. Riboflavin (vitamin B-2) and health. Am J Clin Nutr. 2003;77(6):1352–60. PMID: 12791609
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