栄養

Nutrition

あなたは、あなたが食べてきたそのものです

ひとを養うもの 9.2 — ビタミンB₃によって回復が見込める症状

2025.05.16

もうすぐ「甘々娘」が美味しい季節がやってきます!

筆者は大好物なのですが、たくさん食べるよ!という人は注意が必要です。

何故なのでしょうか?

ペラグラ(Pellagra

 

ペラグラは、代謝内分泌疾患の一つで、西洋文明における古典的な疾患の一つです。

Pellagraはイタリア語で「皮膚の痛み」を意味します。

この疾患は、皮膚炎、胃腸障害、精神障害を特徴とするナイアシン欠乏症であり、また、年齢に見合わない老化、神経学的症状、感染症に対する免疫力の低下をも引き起こす原因となります。

人々がさまざまなホウルフード(全部丸ごとの食物)を摂取していた時代には、ペラグラは非常に稀な病気でした。

しかし、農家が現金収入を得るために単一作物の栽培を始めたとき、単一栽培穀物による疾患が広まりました。

そして、アメリカ南部や地中海沿岸の国々(スペイン、イタリア)では、農家や貧困層の人々がトウモロコシに依存するようになりました。

ペラグラは、トウモロコシの過食と、さまざまな食品の欠乏が組み合わさることで発症したものです。

これは、トウモロコシにビタミンBが不足していることに加えて、ナイアシンが非常に強固に結合しており、人体にほとんど吸収されないという事実によるものです。

ナイアシンの不足状態は総じて他の栄養(亜鉛、鉄、ビタミンB2、B6)も不足している状態が多く、ペラグラを発症するリスクが高くなります。

興味深いことに、中央アメリカの原住民は、数千年前から、トウモロコシをトルティーヤとして摂取すればペラグラを起こさないことを発見していました。

粗く挽いたトウモロコシをカルシウムを豊富に含んだアルカリで前処理(アルカリ水の使用。具体的には石灰や木灰など)することで、ナイアシンの吸収率が高まることが知られていたのです。

多くの疾患は、実に多様な症状や兆候を呈しますから、これらを研究しようとすれば、ほとんど必然的に、医学そのものの在り方をも考察することになります。

梅毒はそのような疾患の典型例ですが、ペラグラもまた、数多くの身体疾患および精神疾患と類似した病状や兆候を示す病気といえるでしょう。

必須脂肪酸(EFA)の欠乏もペラグラの原因の一つであると考えられています。

これは、ビタミンB₃の重要な機能の一つがEFAをホルモン様プロスタグランジンに変換する補助をすることであるためです。

すなわち、ペラグラはトウモロコシによって引き起こされる一方で、EFAの欠乏によっても発症するのです。(1)

そして、両者ともにプロスタグランジンの欠乏へとつながるのです。

古典的なペラグラの特徴は「4D」であり、皮膚炎(Dermatitis)、下痢(Diarrhea)、認知症(Dementia)、死(Death)を意味します。

結局のところ、ペラグラは死の前触れともいえる疾患なのです。

ペラグラの症状が明らかになってから初めてビタミンB₃欠乏と診断されるようでは、患者の命をかけたロシアンルーレットをしているようなものです。

Pellagra symptoms in human body.3d illustration

皮膚炎は、日光にさらされた体の左右対称な部位が赤茶色(時には黒っぽく)に変色する症状であり、慢性的な日焼けのような外観を呈します。

これはおそらくトリプトファンの欠乏によるものと考えられています。

下痢は便秘と交互に現れることがあり、栄養の吸収が阻害されることで症状が悪化します。

認知症は、混乱、見当識障害、記憶障害を伴う器質性認知症であり、典型的な精神的末期症状です。

もっと初期の段階では、知覚の変化、思考障害、気分障害などがみられ、統合失調症に似た精神病的な行動が頻繁に観察されます。

かつて、アメリカ南部の精神科病院では、春になると入院する患者の25%以上が、精神症状を呈するペラグラ患者であったといわれています。

これらの患者を統合失調症の他の症候群と区別する方法は、ビタミンB₃が臨床で使用されるまでは存在しませんでした。

もし患者がナイアシンにすぐに反応すればペラグラと診断され、反応しなければ統合失調症と診断されたのです。

Schizophrenia – a metaphorical view of exhausting human struggle with schizophrenia. 

この実践的な診断法は、しかしながら副作用もありました。

1950年代に二重盲検法による比較対照試験が行われるまで、ビタミンB₃を統合失調症の治療として研究する関心が失われてしまったのです。(2)

ペラグラによる精神症状は統合失調症症候群の一部であると認識し、これらの患者を、ビタミンB₃(低用量または特大用量/メガドウズ)に対する反応速度によって分類する方が、より適切であったといえるでしょう。

ペラグラの中期段階では、精神医学的に非精神病的な状態を示すさまざまな症候群が観察されます。

初期のペラグラ研究者は、神経症を無症候性ペラグラの一種、すなわちこの中間的な状態と考えていました。

多動や学習障害のある子どもたちに見られる症候群も、別の形態のペラグラであるとされています。

重度のペラグラは、より神経学的な形式(器質性精神病あるいは中毒による錯乱状態)をとることがあり、これは高齢者における精神病の主要因となる可能性があります。

ハンチントン病もペラグラの一形態として説明されることがあります。(3)

ペラグラには複数の原因があります。

第一に、トリプトファンの欠乏が挙げられます。

Important amino acid Tryptophan Trp, W and structural chemical formula and line model of molecule. 

通常、このアミノ酸はビタミンB₃の主要な前駆体であり、60mgのトリプトファンから1〜2mgのB₃が合成されます。

トリプトファン欠乏は、ペラグラの典型的な皮膚炎の原因であることを示唆するエビデンス(化学的証拠)もあります。

つまり、トリプトファンを投与されたペラグラ患者は、ビタミンB₃のみを投与された患者よりも、皮膚炎の回復が早かったのです。

第二に、ペラグラはビタミンB₃そのものの欠乏によっても発症します。

これは、トウモロコシ過多の食事や、加工された食品(小麦粉など)あるいはナイアシン含有量のもともと少ない食品に依存する食習慣が原因です。

第三の原因は、ピリドキシン(ビタミンB6)の欠乏です。

トリプトファンがNADへと変換されるには、まずピリドキシンが必要です。

B6の不足した食事は、B₃欠乏と同程度にペラグラを引き起こします。

第四に、ペラグラはビタミンB₃が尿中に過剰に排出されることによっても引き起こされます。

NADは、トリプトファン、ナイアシンアミド、ナイアシンから生成されますが、大量のナイアシンが失われた場合には、NADの生成が不十分となります。

ビタミンB₃の喪失は、アミノ酸であるイソロイシンとロイシンの比率によって調整されています。

イソロイシンはB₃の喪失を抑制し、一方でロイシンはその喪失を促進します。

理想的には、食品にはイソロイシンが多く含まれているべきですが、実際にはロイシンの方がやや多いことが一般的です。

過剰なロイシンはペラグラを引き起こし、イソロイシンは抗ペラグラ因子とされています。

トウモロコシは、トリプトファンが少なく、ビタミンB₃が少なく、イソロイシンよりもロイシンが多いという、ペラグラを引き起こす最悪の食材なのです。

ところで「甘々娘」の旬な時期は、一般的に6月から7月上旬にかけてです。

美味しいですよね!

しかしたくさん食べる方は、是非、アルカリ水で前処理をしてください!

これを「ニシュタマリゼーション」といいます…念のため。

ニシュタマリゼーション(英語: Nixtamalization)とは、トウモロコシをはじめとする穀物を石灰水もしくは灰汁やかん水などのアルカリ水で処理する方法である。メソアメリカの食文化において重要であり、紀元前2000年のオルメカ文明の時代に始まったとされる。この技術によって、トウモロコシはメソアメリカの人間にとって食物の5分の4を供給する主食になった。現在では、トルティーヤやタマルのための生地(マサ)を作る際に用いられている。

Nixtamalという言葉は、ナワトル語のnextamalli「トウモロコシ生地」の方言形または転訛形に由来し、「(石灰水処理した)トウモロコシの挽き生地」を意味する。この語は、さらに「灰」を意味するnextliと、nextliを蒸した料理であるtamalli(タマル)の合成語と解釈できる[2]。「灰」という語が用いられているのは、「石灰」tenextliがナワトル語で「石の灰」te- + nextliを意味するためである。

関節炎

 

ウィリアム・カウフマン(William Kaufman)医学博は、1949年に出版された著書『The Common Form of Joint Dysfunction(一般的な関節機能不全)』の中で、ナイアシンアミドを用いた関節炎治療の詳細を公表しました。

この治療では、ビタミンC、チアミン、リボフラビンも大量に使用していますが、彼は患者の詳細な記録を保管し、大量ビタミン療法の安全性と有効性を繰り返し検証しました。

Dr. William Kaufman

 

カウフマン医学博士が、骨関節炎を一日2〜4g(2000mg〜4000mg)のナイアシンアミドで治療し始めたのは、ちょうど1929年に始る世界大恐慌の時期でした。

あれから70年近く経った今、オーソモレキュラー医学における彼の先駆的な取り組みが、改めて注目を集めています。

1950年までにカウフマン医師は2冊の著書を出版し、その中で関節炎に対するビタミンB₃の効果を紹介しています。

彼は、数百人の患者について骨関節炎やリウマチ性関節炎の両方に適用できるナイアシンアミドの用量や詳細な症例記録を示しました。

また、ビタミンB₃の抗うつ・抗精神病作用についても先見の明を持った観察を行っていました。

保守的な立場で知られるカウフマン医師でしたが、関節の可動域を改善するために、一日5000mgものナイアシンアミドを複数回に分けて処方した初めての人物でした。

彼は未発表の次のような言葉を遺しています。

ナイアシンアミドは全身的な治療薬であり、関節の動きや筋力を改善し、疲労感を軽減し、筋肉の最大作業能力を高め、関節痛を和らげる。

関節炎の治療では、投与回数が多いナイアシンアミド250mgの方が、回数の少ない500mgよりも40〜50%有効性が高い。

ナイアシンアミド(単独でも他のビタミンと併用でも)は、1000人・年あたりで副作用を全く引き起こしていない。

一方で、より慎重な見方もしており、次のようにも言及しています。

関節炎が進行している場合、どんなに大量のナイアシンアミド療法を行っても、関節の可動域に改善が見られないこともある。ただし、改善がないと判断するには、少なくとも3カ月間は継続投与する必要がある。関節の中には治癒に時間がかかるものもあるからだ。(4)

著書『一般的な関節機能不全』の中で、カウフマン医師はこう述べています。

現在の基準から見て、栄養状態が良好な人でさえ、加齢とともに関節の可動域がかなり低下することがある。

そういった人が、食事に加えてナイアシンアミドを十分に摂ることで、年齢にかかわらず可動域がかなり改善されるという事実が示されている。

重症か軽症かを問わず、関節機能不全からの回復度合いは、十分なナイアシンアミド療法を続けるかどうかにかかっている。(5)

カウフマン医師の患者の一人は関節炎が非常に重く、肘を曲げて血圧を測ることすらできない状態でした。

カウフマン医師は彼にナイアシンアミドを複数回に分けて一週間投与しました。

すると、腕を曲げられるようになりました。

その後、ビタミンB₃の投与をやめて、見た目は同じプラセボを一週間投与したところ、再び状態が悪化しました。

関節が再び固くなってしまったのです。

様々な程度の関節炎患者の反応を観察する中で、わたしはビタミンB₃の大量投与スケジュールを確立した。

関節炎に対しては、一度に大量を投与するだけでは効果が出ない。ナイアシンアミドの血中濃度を一日中おおむね一定に保つために、頻回投与が必要だ。(6)

とカウフマン医師は述べています。

彼の発見は簡潔で分かりやすく、「関節のこわばりが強いほど、投与は頻繁に」という原則に要約されます。

重度の関節障害を持つ患者には、一日最大4000mgを10回に分けて投与しました。

1〜3カ月のうちに、患者は椅子やベッドから起き上がれるようになり、継続すれば髪をとかしたり階段を上ったりできるようになりました。

自宅に閉じこもる必要もなくなります。

治療開始から3年ほどで、十分に歩けるようになる人もいます。

これは高齢者にも当てはまりました。(7)

 

統合失調症

 

ハンフリー・オズモンド(Humphry Fortescue Osmond)医師は「サイケデリック」という言葉の考案者であり、サイケデリックドラッグの興味深く有用な応用に関する研究で知られています。

また彼は、社会環境の心理学的側面、特に精神病院における社会環境が福祉や回復にどのような影響を与えるかについても研究しました。

1952年、ハンフリー・オズモンド医師とエイブラム・ホッファー(Abram Hoffer)博士は、ナイアシン、ナイアシンアミド、プラセボを使って30人の急性統合失調症患者に対する二重盲検試験を行いました。

Dr. Humphry Fortescue Osmond

それぞれの群で最も症状が重い患者(うつ状態もしくは暴力的)には、電気ショック療法も併用されました。

プラセボ群(偽薬を投与して薬剤との効果を比較する基準群)では、3人が回復しました。

なお、自然寛解率は一般的に約35%とされています。

他のナイアシン群およびナイアシンアミド群では、それぞれ約75%の患者が回復を示しました。

これは1年あたりの自然寛解率の2倍に相当します。

さらに追加で3件の二重盲検試験が行われましたが、いずれもこの結果を裏付けるものでした。

この研究以降、ビタミンB₃の使用はオーソモレキュラー医学における統合失調症治療の標準の一つとなりました。

ただし、統合失調症の治療においてビタミンB₃が単独で使用されることは少なく、通常は他のビタミンやミネラルを含む栄養療法と併用されます。

また、必要に応じて一時的に抗精神病薬を用いる場合もあります。

この包括的な治療プログラムは、北米で10万人以上の統合失調症患者に対して行われ、非常に良好な成果を上げています。

たとえ抗精神病薬が併用されていたとしても、必要量は大幅に削減され、最終的には薬なしでの生活が可能になる例も報告されています。(8)


 

References

 

(1) Rudin. D.O. The Major Psychoses and Neuroses as Omega-3 Essential Fatty Acid Deficiency Syndrome: Substrate Pellagra.” Biol Psych 16 (1981): 837-850.

(2) Hoffer, A.. H. Osmond, MJ. Callbeck, et al. “Treatment of Schizophrenia with Nicotinic Acid and Nicotinamide ” J Clin Exp Psychopathol 18 (1957): 131-158.

(3) Still, C.N. Nutritional Therapy in Huntington’s Chorea Concepts Based on the Model of Pellagra. Psych Forum 9 (1979): 74-78. Still, C. N. “Sex Differences Affecting Nutritional Therapy in Huntington’s Disease—An Inherited Essential Fatty Acid Metabolic Disorder?” Psych Forum 9 (1981): 47-51.

(4) Kaufman, William. Ph. D., M.D. Unpublished notes, January 13. 1998.Courtesy of Mrs. Charlotte Kaufman.

(5) Kaufman, William, Ph.D., M.D. The Common Form of Joint Dysfunction: Its Incidence and Treatment. Brattleboro. VT: E.L. Hildreth. 1949, p. 24. The text of this book is available online at: www.doctoryourself.com/kaufman6.html.

(6) Kaufman, William, Ph.D., M.D., in a 1978 radio interview with Carlton Fredericks.

(7) Kaufman, William, Ph.D., M.D., “Niacinamide Therapy for Joint Mobility.” Conn State Med f 17 (1953): 584-589.Also:”Niacinamide.A Most Neglected Vitamin. 1978 Tom Spies Memorial Lecture.” J Inti Acad Prev Med 8 (1983): 5-25. See also: “Niacinamide Improves Mobility in Degenerative Joint Disease. “Abstract published in Program of the American Association for the Advancement of Science for its meeting in Philadelphia, Pennsylvania, May 24-30. 1986. A complete bibliography of Dr. Kaufman’s writings is available online at: www.doctoryourself.com/biblio_kaufman.html.

(8) Hoffer. A., and H. Osmond. “In Reply to the American Psychiatric Association Task Force Report on Megavitamins and Orthomolecular Therapy in Psychiatry.” Regina, Saskatchewan. Canada: Canadian Schizophrenia Foundation, 1976.

unshakeable lifeトップへ戻る