栄養

Nutrition

あなたは、あなたが食べてきたそのものです

コレステロールは悪者か?

2023.03.03

医聖といわれる古代ギリシアの医師で、西洋医学の開祖とされるヒポクラテス(Hippocrates)は、次のような箴言を残しています。

 

基本的に二つのことがある。

すなわち「知ること」と、「自分が知っていることを信じること」の二つだ。

知ることは、科学である。

一方、自分が知っていることを信じることは、無知である。

 

常日頃、わたしたちは「自分の知っていること」が真実だ!なんて、潜在意識が判断したりしています。

しかし自分が知っていることを、よくよく考えてみると「どこかの誰かに聞いた話し」だったり、「拙い自分の経験」だったりと、けっこうあやふやな根拠を基にしたりしています。

1999年にコーネル大学の心理学者デイヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーが素晴らしい仮説を立て実験を行っています。

それは、「能力が低い人は、能力が低いために自分の能力の低さに気づかない」というものです。

この研究結果から、「自分の知識を過大評価して自信たっぷりに説明すること」を、科学用語で「ダニング・クルーガー効果」と言います。[1]

かつてチャールズ・ダーウィンもこう言っています。[2]

 

知識より無知のほうが自信を生み出すことが多い 。

 

科学が発展した今日においても、世の中には「俗説」が多く蔓延っています。

 

電気自動車(EV)は、HVやPHVよりも環境に優しい

地下鉄は、高架鉄道よりも地震に弱い(西勝造が科学的に証明し、覆した俗説)

国(政府)には膨大な借金がある

栄養は多ければ多いほど良い

クスリは病気を治す

運動をすれば痩せられる

乳酸菌は体に良い

バナナ状の便が理想だ

便が臭いのはあたりまえだ

細菌は人類の敵だ

などなど…

 

ちょっと考えただけで、いくつも思いつきます。

さらに『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』[3]などの本を読んだりすると、世の中は俗説だらけだ!なんて思ったりします。

 

LDLコレステロールは悪玉だ!

というのもその一つではないでしょうか!?

ということで本稿では、コレステロールの真実について見ていきます。

 

コレステロールは、ワックス状の柔らかい物質で、全ての細胞につくる能力がありますが、おもに肝臓で合成され、全身の細胞に運ばれて使われます。

医学では、コレステロールを二種類に分類しています。

高比重リポタンパク「HDLコレステロール」と、低比重リポタンパク「LDLコレステロール」です。

意外にも、HDLとLDLという2種類のコレステロールは、異なるコレステロールではありません。

これは、コレステロールと結合するリポタンパク質の密度の違いを表すもので、コレステロールを運ぶための2種類の船としてそれぞれ役割を果たしています。

しかしHDLは善玉で、LDLは悪玉コレステロールと広く認識されています。

ですから健康診断の結果を見て、「コレステロールを多く含む食べ物に気をつけているのに、どうして血中コレステロール値が下がらないのだろう?」と気を揉んでいる方は案外と多いのではないでしょうか。

一応おことわりしておきますと、食品中のコレステロールと血中コレステロールはイコールではありません。

しかし、全く別物というわけでもありません。

 

Blood sample tube with abnormal high cholesterol test result

世の中にはさまざまな「俗説」が蔓延っていますが、コレステロールが、体によくないという俗説もその一つで、広く社会に根を下ろしています。

もとをたどれば、今から110年前の1913年、ロシア人病理学者であったニコライ・アニチコフのウサギを使った、粥状動脈硬化症(動脈の内径を細める動脈病変)の実験モデルに行き着きます。

これは全く無意味で、不毛な実験で、間違っていることがわかっています。

コレステロールは、わたしたち人間に不可欠な重要な物質なのです。

コレステロールは食品成分表や栄養学のテキストなどでは、脂質の一部、または、脂肪酸と同列に扱われることが多いのですが、化学構造のうえでは脂質や脂肪酸とは異なり、むしろアルコールに近いものです。

アルコールもコレステロールも、ともに「オール」で終わっていますよね。

ですから、専門的には脂質と見なされないこともありますが、重要な成分です。

 

人間が生きるためには、LDLとHDLのどちらも必要ですが、そのバランスが崩れることがあります。

HDL値が低いと心疾患の発症リスクが増加し、LDL値が高すぎると動脈硬化や血栓のリスクが高まると思っている人が大半ですが、血中コレステロールの量は問題ではありません。

問題が起こるのは、動脈壁にコレステロールが付着して血管を詰まらせ、血流を妨げるときだけです。

ではコレステロールが動脈壁に付着する理由は何なのでしょうか?

それは動脈壁の傷です。

動脈壁が傷つくと、そこにLDLコレステロールが付着するのです。

 

 

逆に傷さえなければ、どんなに高い値のコレステロールも動脈の中をすいすい通っていきます。

つまり、LDLが悪玉コレステロールと言われるのは「結果」であって「原因」ではないということです。

レオナルド・ダヴィンチは「自然界に原因のない結果はない」と言っています。

それでは、動脈壁に傷がつく原因はなんなのでしょうか?

主な原因は以下の3つがあげられています。

 

⑴塩素の入った水、つまり水道水[4]

 

⑵トランス脂肪酸(硬化油)つまりマーガリンやショートニング[5]

米国では2021年に使用が禁止されていますが、日本では規制すらなく野放しで、ハンバーガーなど多くのジャンクフード、加工食品に使われています。

⑶ホモジナイズ乳製品(生乳中にある乳脂肪球を破壊して、その大きさを細かい粒子にしたもの)[6]

Milk mixing in the stainless tank during the fermentation process at the cheese manufacturing

この小さくなった分子が、動脈壁を傷つけ、LDLコレステロールが付着して血栓をつくり、動脈硬化の大きな原因となります。

さらには、消化システムを詰まらせ、消化を困難にします。

 

コレステロールは他の飽和脂肪酸とともに細胞膜を形成するだけでなく、細胞膜を保護したり、細胞膜の透過性を監視したりする門番としての役割も担っています。

わたしたちは、コレステロール値が低いことのメリットをよく耳にしますが、この値が低すぎると、脂質を消化する能力だけでなく、コレステロールが部分的に管理をしている身体の電解質(ミネラル)バランスも損なわれてしまう可能性があるのです。

実のところ、体内のコレステロールの大半は、食物に由来せず自分の体が生成したものなのです。

したがって、食物から摂るコレステロールの量と血中コレステロールの量は必ずしも比例しません。

わたしたちが食物でコレステロールを多く摂れば、体はその生産量を減らすのです。

ちなみに米国医学会は、「コレステロール悪者説」を撤回し、2015年に改訂された『健康的な食事ガイドライン』には、「コレステロールを制限しない」という文言が書き加えられています。

これまでのように、食事でコレステロールを制限しなくていいということになったのです。

つまり「食品中のコレステロール」に問題があるわけではないということです。

 

それでもLDLコレステロールが気になるという方は、「食物繊維」を多く摂る、「体重」を減らす、「運動」する、「禁煙」する、そして「にんにく」を食べることです。

 

High Fiber Foods. Healthy balanced dieting concept.

これらのアドバイスは、LDLだけでなく高血圧にも効果があり、また信頼できる裏づけがあると、コペンハーゲン大学分子生物学のニクラス・ブレンボーは言っています。[7]

食物繊維を多く摂るとLDL値が下がることが、ランダム比較試験で立証されています。

食事で摂る食物繊維を増やすとLDLコレステロール量は確実に減少します。

人間は食物繊維を消化できませんから、食物繊維は消化器官を素通りします。

その際、食物繊維は胆汁酸を吸着します。

胆汁酸は肝臓でつくられる有機化合物で、体が脂質を消化吸収するのを助けています。

人間の体は胆汁酸をリサイクルして使っていますが、食物繊維が吸着して体外に排出してしまうと、肝臓は新たに胆汁酸をつくらなければならなくなります。

その出発物質になるのが血液から取り込んだコレステロールなのです。

高繊維質の食事を食べながら進化してきたわたしたちの体は、今日よりもかなり多くの胆汁酸を失うことを想定しており、コレステロールが足りなくなったら血中LDLコレステロールでいつでも補充できるようになっています。

その繊維質が消えるとLDL値は一気に高くなってしまうのです。

また、心臓病ケアにおける世界有数の医療機関である米国・クリーブランド・クリニックの著名な外科医エセルスティン博士の研究では、血中コレステロール値は、150㎎/dl以下、LDLコレステロール値が、80㎎/dl以下に保てていれば、脂肪やコレステロールを冠動脈の中に堆積させることはできない、と報告されています。

 

Atherosclerotic plaque development. High detail image of unstable atherosclerotic plaque condition. Path is included if you want to separate vein from the background.

 

さて、コレステロールは脳の機能と発達も支えています。

脳の重さは体重の2パーセントほど(約1.5キログラム)ですが、体内の総コレステロールの25パーセントを占めています。

ということは、脳の重量の4分の1がコレステロールなのです。

脳にこれほどコレステロールが多いのは、脳内でコレステロールをいかに利用できるかで、新しいシナプスを成長させられるかが、決まるからではないかと考えられています。

 

magnetic resonance image (MRI) of the brain

 

脳内のコレステロールは、強力な抗酸化物質としても働き、脳をフリーラジカルによる損傷から保護してもいるのです。

体内にコレステロールがなければ、エストロゲンやアンドロゲンなどのステロイドホルモンや、非常に重要な脂溶性抗酸化物質であるビタミンDを生成することもできません。

コレステロールは、これらのホルモンの材料(前駆体分子)になるのです。

コレステロールが人体にとって、いかに重要な物質かご理解いただけたでしょうか!?

 

知るとは測ることであるということがわかった瞬間から、経験論の論理が全部崩れ去る。

レオン・ブランシュヴィック(Léon Brunschvicg)[8]

 


References & Footnote

1.J. Kruger and D. Dunning(1999). “Unskilled and unaware of it: How difficulties in recognizing one’s own incompetence lead to inflated self-assessments.” J. pers. Soc.Psych. 77(6): 1121-34.

2. Charles Darwin, Descent of Man (John Murray & Sons. 1871), 3. チャールズ・ダーウィン『人間の由来(上・下)』長谷川眞理子訳 講談社学術文庫 2016年

3. ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド 著『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣 』上杉周作、関美和 翻訳 日経BP

4. Fluoride: The Aging Factor, by John Yiamouyiannis, Ph.D.

Your Body’s Many Cries For Water, by F. Batmanghelidj, M.D.

Don’t Drink The Water: The Essential Guide to Our Contaminated Drinking Water and What You Can Do About It, by Leno Kafuna Kapua Ho’ala

Water: The Foundation of Youth, Health, and Beauty, by William D. Holloway, Jr. and Herb Joiner-Bey, N.D.

The Water We Drink: Water Quakity and Its Effect on Health, by Joshua L. Barzilay, M.D.; Winkler G. Weinberg, M.D.; and J. William Eley, M.D.

The Drinking Water Book: A Complete Guide to Safe Drinking Water, by Colin Ingram

Water: for Health, for Healing, for Life, by F. Batmangheliidj, M.D.

Water Wasteland: Raiph Nader’s study group report on water pollution, by David Zwick

5. Trans Fats: The Hidden Killer In Our Food, by Judith Shaw

6. Homogenized Milk Mat Cancer Your Heart Attack: The XO Factor, by Kurt A. Oster, M.D.

フランク・オスキー『牛乳には危険がいっぱい?』(弓場隆 翻訳 東洋経済新報社) Don’t Drink Your Milk!: New Frightening Medical Facts about the World’s Most Overrated Nutrient, by Frank A. Oski, M.D.

Milk A-Z, by Robert Cohen

7. ニクラス・ブレンボー(Brendborg,Nicklas)『寿命ハック―死なない細胞、老いない身体』野中香方子 翻訳 新潮社

8. レオン・ブランシュヴィック(Léon Brunschvicg)
フランスの理想主義者の哲学者。彼は1893年にグザヴィエ・レオンとエリー・アレヴィと共にレヴュー・ド・メタフィジーク・エ・ド・モラルを共同設立した。
1895年から1900年までルーアンのリセ ピエール コルネイユで教鞭をとる。
1897年、彼はLa Modalité du jugement ( The Modalities of Judgment )というタイトルで論文を完成。
1909年にソルボンヌ大学で哲学の教授となる。
セシル・カーンと結婚、フランスの女性参政権運動の主要な活動家であり、4人の子供をもうけた。
ソルボンヌ大学在学中、ブランシュヴィックはシモーヌ・ド・ボーヴォワールの修士論文(ライプニッツの思想に関するもの)の監督者である。
ナチスによってソルボンヌ大学での地位を離れることを余儀なくされたブランシュヴィッチは、フランス南部に逃亡し、そこで74歳で死去。
隠れている間、彼はスイスで印刷されたモンテーニュ、デカルト、パスカルの研究を書きました。
彼は10代の孫娘に捧げる哲学書「Héritage de Mots, Heritage d’Idées (言葉の遺産、思想の遺産)」を作成し、フランスの解放後、死後に出版された。彼のデカルトの再解釈は、新しい理想主義の基礎となっている。

unshakeable lifeトップへ戻る