栄養
Nutrition
あなたは、あなたが食べてきたそのものです
Nutrition
あなたは、あなたが食べてきたそのものです
2022.10.28
テレビなどのメディアは、連日さまざまな番組で「グルメ情報」を流しています。
野菜を多く取り入れた健康的な料理を目にすることもありますが、視聴者の食欲をそそるスイーツや肉料理など高糖質・高タンパク質の食べ物が大半を占めています。
なかには、電子レンジを多用する「料理研究家」も多く、栄養学・生理学的には目を疑うような状況です。
ヒポクラテスの「医食同源」の観点からすれば、「食べ物こそが、薬の本質」です。
視聴者にリコメンドする料理家には、それを食べた人に生理学的なメリットをもたらす倫理観を持って取り組んでいただきたいものです。
少なくとも、「食べた人に、デメリットをもたらすことがあってはならない」と思うのですが、あなたはどのようにお考えになりますか?
ということで、本稿は意外に知られていない「タンパク質」についてのお話しです。
体内で役に立っている物質のほとんどはタンパク質です。
タンパク質は身体の成長と修復に欠かせません。
肉や卵、魚、豆類、乳製品などのタンパク質が豊富な食品は、胃でアミノ酸に分解され、小腸で吸収されます。
次に肝臓で身体に必要なアミノ酸が選別され、残りは尿として排出されます。
タンパク質は、体内のあらゆる細胞の構造を支え、皮膚や髪(ケラチン)、関節、骨、爪、筋肉などの構成要素なのです。
また、免疫機能やホルモン分泌の調整、臓器間の情報にも関与しています。
成人でとくに活動的でない人の場合、1日に体重1キログラムにつき0.75グラムのタンパク質の摂取が推奨されています。
平均で見ると、男性は55グラム、女性は45グラムになります。
これは、肉、魚、豆腐、ナッツなどを手のひらで計って、だいたい2杯分の量です。
タンパク質不足は、筋力や筋肉機能の低下、薄毛、吹き出物、体重減少などを招くおそれがあるとされていますが、摂取障害の人を除いてこうした症状が出ることはまれです。
むしろ厄介なのは、タンパク質の過剰摂取の方なのです。
世界には、弊社の書籍でも紹介した沖縄やパプアニューギニア、イタリアのサルディニア島、ギリシャのアトス山のように、遺伝的性質や生活習慣が住民に際立った健康と長寿をもたらす「ブルーゾーン」と呼ばれる地域があります。
米国では、ロサンゼルスの中心地から東に100キロほど離れた町ロマリンダ(スペイン語で「美しい丘」)が、ブルーゾーンとして知られています。
スモッグで覆われたロサンゼルスとは違い、ロマリンダの人口は少なく、2万3000人の住民のうち約9000人がセブンスデー・アドベンチスト教会の信者です。
この教会は、暴飲暴食を避けた健康的な生活を提唱しています。
信者は、米国人の平均よりも約10年も長生きだといいます。
同教会は信者に運動を勧め、タバコやアルコール、麻薬や刺激物など精神に悪影響を及ぼす物質を避けるよう説いているのです。
また、食事は肉食を避け、バランスの取れた菜食を摂ります。
豆類、全粒穀物、ナッツ類、果物、野菜のほか、ビタミンB12を含む卵、ヨーグルト、チーズ、もしくは栄養補助食品などを組み合わせたものです。
つまりロマリンダの人々の食事は、一般的な米国人よりもタンパク質(特に動物性タンパク質)の摂取量がはるかに少ないのです。
著名な科学誌の研究によれば、米国人の大半は人間が必要とするタンパク質摂取量の約2倍を消費しているといいます。
食の欧米化が浸透した日本も、同様の道を辿っています。
原始人の食生活を模倣するパレオ・ダイエットなどでは、主に精製された糖質や砂糖の摂取を制限することで、健康上のメリットが得られるとしています。
しかし、これらの食事法には負の側面もあるのです。
低糖質の食事(パレオ食)は、動物性タンパク質の食べ過ぎにつながる傾向があり、さまざまなデメリットを生じさせるのです。[1]
高タンパク質の食事は、次のような意外な悪影響を起こしかねないことが報告されています。
腎臓へのダメージ
腎臓は、タンパク質を構成するアミノ酸に含まれる過剰な窒素を取り除く役割を担っているため、タンパク質の大量摂取は腎臓に負担をかける。
とくに腎疾患の持病がある人、または腎疾患の影響を受けやすい人にとって重大な問題になる。
体重の増加
短期的には体重が減ることが多いが、結局、過剰なタンパク質は脂肪として身体に蓄えられ、余分なアミノ酸は尿として排出される。
心臓病の発症リスクの増大
高タンパク質の食事には、心血管疾患の発症リスクを高める飽和脂肪酸とコレステロールが多い。
また2018年の研究では、赤身肉を長期間摂取し続けていると、心臓病の発症に関係しているトリメチルアミンN—オキシド(TMAO)が腸内で増えることが示されている。[2]
癌発症リスクの増大
高タンパク・ダイエットの多くは、赤身肉の摂取を推奨している。
赤身肉や加工肉の摂取が多いと、がん(特に乳がん、前立腺がん、大腸がん)の発症リスクが高まることが、多くの研究によって報告されている。
2014年には、中年期における動物性タンパク質を多く含む食事は、低タンパク質の食事に比べて、ガンで死亡する確率を4倍高めると発表されている。
これは喫煙に匹敵する死亡リスク因子です。[3]
その原因は、タンパク食の摂取によって成長ホルモンIGF-1が増えることにあります。
中年期に高タンパク食を摂っていた人たちは、IGF-1が10ナノグラム/ミリリットル増えるごとに、ガンで死ぬ確率が低タンパク食の人に比べて9パーセント上昇する。
同研究では、50歳から65歳までのタンパク質摂取の割合が高い人(毎日のカロリーの20パーセント以上をタンパク質から摂取している)は、全死亡率(死因別ではなく全体の死亡率)が75パーセント高く、糖尿病による死亡リスクは実に73倍にも跳ね上がった。
タンパク質摂取の割合が中程度の人(毎日カロリーの10~20パーセントをタンパク質から摂取)は、タンパク質摂取の割合が低い人(毎日のカロリーの10パーセント以下をタンパク質から摂取)と比べて、糖尿病による死亡リスクが約23倍高く、ガンによる死亡リスクが3倍高かった。
このことから、代謝に関して次のことが言えます。
代謝障害の発症リスクの増加
糖質の摂り過ぎは、耐糖能異常やインスリン抵抗性を引き起こし、Ⅱ型糖尿病の発症リスクが高まるという事実はよく知られていますが、タンパク質の過剰摂取については、あまり知られていません。
研究の結果、タンパク質の過剰摂取によっても、これらの疾患リスクが劇的に高まることがわかっています。
2017年に米国医師会雑誌に掲載された、心臓病、脳卒中、Ⅱ型糖尿病で2012年に死亡した70万人超の分析研究[4]では、調査対象者の約5割の死亡原因が食生活と関連していることが明らかにされています。
もともと糖尿病を患っている人が、加工肉を多く摂取すると死亡リスクが高まったのです。
ハーバード大学公衆衛生大学院の研究による、医療従事者の男女を14~28年間追跡調査した縦断研究のデータ分析によれば、トランプ一組ほどの大きさの赤身肉を毎日食べると、糖尿病になるリスクが19パーセント増加することが判明しています。[5]
もっとも悪い影響をもたらしているのは、ソーセージやベーコンなどの加工された赤身肉で、加工肉1食分の半分を毎日食べることで糖尿病の発症リスクが51パーセントも上昇したと報告されている。
2017年のフィンランドで行われた、42歳から60歳の2300人以上の中年男性の食事を分析した研究[6]でも次のような結果が報告されている。
19年間の追跡調査の結果、調査開始時点では0人だったⅡ型糖尿病患者が432人に増え、動物性タンパク質の摂取量が多く、植物性タンパク質の摂取量が少ない人は、糖尿病になるリスクが35パーセント高いことが明らかになった。
この動物性タンパク質には、加工・非加工の赤身肉、白身肉のほか、鍛冶レバーなどの内臓肉も含まれている。
糖質だけがインスリンの分泌を促す食べ物として注目されがちですが、タンパク質は、糖質と同じくらいインスリン分泌を促進するのです。
インスリンには、分解されたタンパク質から得たアミノ酸を筋肉などの組織に運搬する役割があります。
しかし、タンパク質を摂っても、糖質を摂取したときのように迅速にグルコースが細胞に運ばれません。
もし、この状態が放置されたとすると、高タンパク質の食事の摂取によってインスリンが分泌されることで血糖値が過剰に引き下げられるため、低血糖症になってしまいます。
そこで、身体は血糖値を高めるグルカゴンを放出してインスリンとのバランスを取ろうとします。
しかし、肉や乳製品に多く含まれるロイシンやイソロイシンなどのアミノ酸は、他のアミノ酸とは異なり、インスリンの分泌を強く促すだけでなく、グルカゴンの分泌も抑制してしまうのです。
アミノ酸の一つであるトリプトファンも、他のアミノ酸よりもインスリン分泌を促します。
肉や乳製品を多く摂取すると、肥満やインスリン抵抗性が増えるのは、これらのアミノ酸に主な原因があると考えられています。
また動物性タンパク質の摂り過ぎは、「腸内異常醗酵(腸内腐敗)」も引き起こします。
お肉大好きという人は多くいますが、毎日の「大腸のお掃除」とセットにして、食べた物が腐敗しないよう気をつけてください。
腸内異常醗酵 ➡︎ 有害物質の発生 ➡︎ 有害物質の全身循環 ➡︎ 自家中毒 ➡︎ 何らかの病気、という負のスパイラルに陥らないよう、十分な注意が必要です。
ガンや糖尿病はもとより、痩身や体重減という意味でのダイエットに取り組む人も、これらの研究結果を頭に入れておく必要があります。
健康体型を維持するためには、「糖質」と「動物性タンパク質」の両方を制限する必要があるのです。
References
1 Ioannis Delimaris, “Adeverse Effects Assiciated with Protein Intake Above the Recommended Dietary Allowance for Adults,” ISRN Nutrition (July 2013), article ID 126929.
2 Zeneng Wang, Nathalie Bergeron, Bruce S. Levison, et al., “Impact of Chronic Dietary Red Meat, White Meat, or Nomeat Protein on Trimethylamine N-Oxide Mtabolism and Renal Excretion in Healthy Men and Women,” European Heart Journal 40, no.7 (February 14, 2019): 583-94.
3 Morgan E. Levine, Jorge A. Suarez, Sebastian Brandhorst, et al., “Low Protein Intake Is Associated with a Major Reduction in IGF-1, Cancer, and Overall Mortality in the 65 and Younger but Not Older Population,” Cell Metabolism a9, no.3 (March 4,2014): 407-17.
4 Renata Micha, Jose E. Penalvo, Frederick Cudhea, ei al., “Association Between Dietary Factors and Mortality from Heart Disease, Stroke, and Type 2 Diabetes in the United States,” The Journal of the American Medical Assosiation 317, no.9 (March7, 2017): 912-24.
5 Yan Zheng, Yanping Li, Ambika Satija, et al., “Association of Changes in Red Meat Consumption with Total and Cause Specific Mortality Among US Women and Men: Two Prospective Cohort Studies,” The British Medical Journal 365 (June 12, 2019), 12110.
An Pan, Qi Sun, Adam M. Bernstein, et al., “Red Meat Consumption and Mortality: Results from 2 Prospective Cohort Studies,” Archives of Internal Medicine 172, no.7 (April 9, 2012): 555-63.