人体

Human body

大自然の叡智の結晶・人体

生命の鍵を握るミトコンドリア

2024.09.06

ミトコンドリアが進化を決めた

 

あなたの身体を構成する40兆の細胞には1000兆を超えるミトコンドリアが存在し、その入り組んだ膜の表面積は合計で約1万4000平方メートル、 サッカー場約4個分の広さになる。

ミトコンドリアの仕事は細胞内のプロトン※を外に汲み出すことであり、毎秒10の21乗個を超えるプロトンを汲み出している。

これは既知の宇宙にある恒星の数にほぼ等しい。

ニック・レーン(Nick Lane)

 

※プロトン:原子番号1番、陽子(H⁺)と電子(e⁻)が対になってできた「水素原子(プロトン)」は、宇宙で最初にできた物質です。産業革命のころ、この物質は「水素」と呼ばれるようになりました。ギリシャ語の Hydro(水)と Genno(つくる)を合わせてHydrogen(水の素)と名付けられた「水素原子(プロトン)」は、あらゆる物質の生みの親であり、あらゆる生命の源である「水」の素でもあります。

 

 

ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の生化学者ニック・レーン(Nick Lane)の著書『ミトコンドリアが進化を決めた』(原題:Power, Sex, Suicide: Mitochondria and the Meaning of Life)は、ミトコンドリアの進化と生命の起源に関する包括的な研究を提供しています。

本書は524ページもある大作ですが、以下はその内容の超要約です。

 

 

1.ミトコンドリアの起源と進化

ミトコンドリアは、かつては独立した自由生活のバクテリアでしたが、約20億年前に他の細胞と共生関係を築き、現生の真核生物の細胞内に取り込まれました。

この共生は、エネルギー効率の大幅な向上をもたらし、複雑な生命の進化を可能にしました。

 

2.エネルギーのパラドックス

ミトコンドリアは細胞のエネルギー産生を司る「パワーハウス(発電所)」として知られていますが、その働きは単なるエネルギー供給に留まらず、細胞の機能全体に影響を及ぼします。

ニック・レーンは、エネルギー効率と進化の関係性について詳細に論じています。

 

3.性と生殖の起源

ミトコンドリアの進化は、性と生殖の進化とも深く関わっています。

二重のゲノム(核ゲノムとミトコンドリアゲノム)の共存は、性の進化を促進し、遺伝的多様性を生み出しました。

これにより、適応と進化の速度が劇的に増加しました。

 

4.自殺プログラム(アポトーシス)

ミトコンドリアはアポトーシス(プログラムされた細胞死)を誘導する能力も持っています。

このプロセスは、発生、免疫反応、および病気の予防において重要な役割を果たします。

 

5.エイジングと病気

レーンは、ミトコンドリアの機能障害が老化と多くの病気(特に神経変性疾患)にどのように関与しているかを説明しています。

ミトコンドリアのDNA損傷や機能低下が、細胞のエネルギー供給を制約し、老化のプロセスを加速させます。

 

6.生命の意味

最後に、レーンはミトコンドリアの存在が生命そのものの意味をどのように再定義するかについて議論します。

ミトコンドリアの進化は、生命の本質とその複雑さを理解するための鍵であり、エネルギー、性、死という生命の基本的な側面に深く関わっています。

 

まとめ

『ミトコンドリアが進化を決めた』は、ミトコンドリアがいかにして現代の複雑な生命の進化に不可欠な役割を果たしたかを解説し、その生物学的および哲学的意義を探求するものです。

この本は、ミトコンドリアがエネルギー産生だけでなく、生命の多くの側面に深く影響を及ぼしていることを示しています。

 

現代病の大部分は、エネルギー供給メカニズムの不良と炎症

 

17 年もの間、英国生態医学会の名誉幹事を務めたサラ・マイヒル(Sarah Myhill)博士は、病気の原因を研究し、食事、ビタミン、ミネラル、有毒なストレスの回避を通じて治療する活動をつづけています。

マイヒル博士は多くの著作も執筆しており、彼女の初めての著作である『慢性疲労症候群の診断と治療 – 心気症ではなくミトコンドリアが原因』(日本語未翻訳)では、慢性疲労症候群 (CFS/ME)とミトコンドリア機能障害の関連性が詳しく論じられています。

これは、病気の原因としての免疫活性化と炎症に関する、新たなアイデアと生物学的に妥当な形で一致しています。

長年の研究で明らかになったことは、現代病の大部分は、「エネルギー供給メカニズムの不良(酸化ストレス)」と「炎症」という2つの要因で説明できるということです。

これら 2 つの病気の原因は、栄養不足、毒性ストレス、感染負荷を特徴とする現代の西洋生活様式の結果です。

そのため、マイヒル博士は学術論文で説明したアイデアを他の多くの現代の病気のプロセスに適用する方法を説明するために、『持続可能な医療—21 世紀の医療行為に関する内部告発』(日本語未翻訳)という本が生まれました。

本書の第 1 章 「症状 – 侵入者や自分自身から私たちを守る早期警告システム」には慧眼と言うべき次のような内容が記されています。

 

症状 – 早期警告システム

 

最良の臨床的手がかりは症状から得られ、診断の 90% は患者の病歴から得られます。

最も一般的な症状は、痛みと疲労です。

症状は望ましく、治療効果があります(症状即療法)。

痛みと疲労という 2 つの症状は、自分自身から身を守るために不可欠です。

私たちはみな、これらの症状を毎日経験しています。

これらの症状は、私たちに何ができるか、何ができないかを教えてくれます。

これらの警告症状がなければ、エネルギー供給が尽きるか (心臓と脳が停止する)、または消耗するか (睡眠と休息中に治癒と修復が起こります) のいずれかで、倒れるまで活動を続けるでしょう。

これらの症状を無視したり抑制したりすると、危険にさらされます。

他の多くの症状は、これら 2 つの最も一般的な問題の下流で発生します。

これは、痛みと疲労が示す早期警告サインを無視したり、それらを妨害したり、抑制しようとしたりするために発生します。

多くの場合、病理は、この「無視、妨害、抑制」タイプの医療を採用した結果として発生します。

このため、症状は常に「なぜ?」という質問をするように促す必要があります。

症状の集合は、原因に関するさらなる手がかりを提供する場合があります。

 

疲労 – エネルギー需要がエネルギー供給を上回ったときに発生する症状

 

年間収入 20 ポンド、年間支出 19 ポンド 19.6 セント、結果幸福。

年収 20 ポンド、年支出 20 ポンド、19.6 セント、悲惨な結果になる。

チャールズ・ディケンズ (1812-1870)

 

疲労は、エネルギー需要がエネルギー供給を上回ったときに生じる症状です。

つまり、疲労の治療には 2 つのアプローチが必要です。

エネルギー供給システムを改善し、エネルギーが浪費されるメカニズムを特定することです。

 

エネルギーバランスの悪さから生じる症状

 

エネルギーバランスの悪さから生じる症状は、「軽度」または「重度」と表現され、次のチェックリストは、一般的な疲労スケールで自分がどこに位置しているかを判断するための目安として使用できます。

 

軽度の症状

 

患者は次のようになります。

• 夜更かしするようになる – 朝起きられなくなり、週末は寝坊する。

• 疲労に対処するために、特にカフェイン、砂糖、精製炭水化物などの依存症を使い始める。

• 意識的に活動のペースを調整し、休憩時間と睡眠を楽しみにしなければならない。

• 仕事をしている場合は、月曜の朝が嫌になる。

• 楽しむ能力がなくなる(または楽しむことが努力になる)。

• 夜のくつろぎの時間を大切にする。

• 通常のスタミナがなくなり、通常の体力を維持できなくなる。

• 筋力の低下を経験する。

• イライラし、軽い不安や気分の落ち込みを経験する

•これらの症状は、私たちがエネルギーを無駄遣いするのを防ぐために脳によって課せられている。楽しむことは、エネルギーを費やすことを意味する。

• 軽いストレスを感じる – このストレスの症状は、脳が、身体的、感情的、精神的な要求に対処するためのエネルギーの蓄えがないことを認識したときに生じる。

• 関節や筋肉が硬くなる – 組織が最小限の摩擦で互いに滑るためには、組織がちょうど良い温度になっている必要がある。エネルギー供給が不十分だと、体が冷えてしまう。

 

これらの症状は、老化プロセスの一部とみなされることが多い。

これは、エネルギーを生成する細胞のエンジンであるミトコンドリアが、老化プロセスにも関与しているためである。

ミトコンドリアの数は加齢とともに減少する。

そのため、加齢とともに活動のペースを調整する必要がある。

これは、ミトコンドリアの数が減少するのと並行して、体のエネルギー生成能力が低下するためである。

当然の帰結は、ミトコンドリアを大切にして老化プロセスを遅らせることである。

エネルギー供給は、ミトコンドリア、甲状腺、副腎、肝臓、腸、心臓、肺、そして何よりも重要な食事の総合的な機能にかかっている。

これらが一緒になって、エネルギー分子 ATP(アデノシン三リン酸) を生成する。

ATP は体内のエネルギー通貨であり、ATP 分子は、筋肉の収縮から神経インパルス、ホルモン合成から免疫活動まで、あらゆる仕事に使用できる。

ATP がなければ、そのようなことは不可能である。

 

ミトコンドリアをバイオハックせよ!

 

弊社の活動は、病気治療を重視する従来の医療システムから距離をおき、人々の健康を保ち、病気を防ぎ、健康寿命を延ばすことを目的としています。

『シルコンバレー式 自分を変える最強の食事』の著者デイヴ・アスプリー(Dave Asprey)は、本書のなかで、これを今日の言葉に置き換え「バイオハッキング(biohacking)」と言い、身体の内外の環境を整えて、主体的に健康の最適化を図る手法であるとしています。

健康法としてマイナーな存在であったバイオハックは、いまや主流となり、メリアム・ウエブスター社が「バイオハッキング(biohacking)」を辞書に加えています。

 

そして今日では「バイオハックの父」とも呼ばれるデイヴ・アスプリーが、「推薦」の言葉を寄せたのがモリー・マルーフ博士の著書“ The Spark Factor-The Secret to Supercharging Energy, Becoming Resilient, and Feeling Better Than Ever ”です。

マルーフ博士のバイオハック理論においても、その中心にあるのがミトコンドリアです。

エネルギーが十分満たされていないとき、わたしたちは不調を感じます。

脳が最適に機能せず、身体が効率的に動かず、人生がより困難で負担に感じられ、満足感を得られません。

まだ病気でなくても、エネルギー産生不足がつづけば、そのうち病気になるのはほぼ間違いありません。

エネルギーは、寿命と健康寿命の両方を決定づける主要な基本要素です。

長生きをして、命が尽きるまで人生を楽しみたいなら、エネルギー容量を増やすことに力を注ぐべきなのです。

すなわち、ミトコンドリアが生命の鍵を握っているということです。

博士の論考をまとめてみましたので、みていきましょう。

 

 

私たちは現在、人類全体でエネルギー危機を経験しており、多くの人々が疲労に苦しんでいます。

この疲労(CFS/ME)の背後には、ミトコンドリアの機能不全があります。

ミトコンドリアは細胞の発電所のようなもので、正常に機能しないとエネルギー不足が生じ、さまざまな慢性疾患を引き起こします。

つまり、脳と体のバイオハックは、結局のところミトコンドリアのバイオハックなのです。

私たちはこの小さなエネルギー産生器官と双方向的な関係にあります。

ミトコンドリアは私たちの人生経験すべてに影響を与えると同時に、私たちの行動からも影響を受けます。

幸いなことに、ミトコンドリアは環境への感受性が高く、その機能を改善することは比較的容易です。

それによって、エネルギーの増加や健康の改善を直ちに図ることができます。

 

ミトコンドリアがエネルギーを生み出す仕組み

 

ミトコンドリアは、周辺環境から効率よくエネルギーを取り込むために、進化の過程で宿主細胞に吸収された真正細菌から進化したとされています。

この共生関係により、これらの細菌が宿主生物のために余剰エネルギーを生み出し、より高度で複雑な生物の進化を可能にしました。

ミトコンドリアは独自のDNAを持つ固有の器官であり、人間と相互に依存していますが、別個の存在です。

ミトコンドリアの働きを理解するためには、まずエネルギーの起源を知る必要があります。

エネルギーの源をたどると、最終的には太陽に行き着きます。

 

 

植物は太陽光を取り込み、エネルギーとして蓄えます。

動物は植物を食べ、そのエネルギーを利用してさらにエネルギーを作り出します。

私たちが食べる動物や植物も同様に、体内のミトコンドリアがエネルギーを取り込んで変換します。

エネルギー産生の仕組みは、水力発電ダムの動作に似ています。

ミトコンドリアはアデノシン三リン酸(ATP)という形でエネルギーを産生し、貯蔵します。

ATPは細胞内のエネルギー通貨であり、ミトコンドリアはエネルギーを蓄えるバッテリーと、エネルギーを送り込むコンデンサーの両方の役割を果たします。

フィラデルフィア小児病院ミトコンドリア・エピゲノム医学センター所長のダグラス・ウォレス博士によると、ミトコンドリアは人の細胞エネルギーの90%を産生しており、ミトコンドリア一つ当たり0.2ボルトのエネルギーを保持しています。[1]

私たち一人ひとりの体内には約10の17乗個のミトコンドリアが存在し、稲妻ひとつ分を超える位置エネルギーを蓄えていることになります 。

 

ミトコンドリアは体内の監視役

 

ミトコンドリアの主要な機能はエネルギーの産生ですが、それだけではありません。

ミトコンドリアは体内システム全体の重要な生物学的プロセスの監視にも関わっています。

例えば、細胞の維持管理や有害な細胞の除去、組織の成長や分解などを指揮しています。

 

 

また、ストレスホルモンの産生を増やすことで、非常事態に対応できるよう促します。

ミトコンドリアはエネルギーを保全し、必要不可欠な機能にエネルギーを振り向けるために最善を尽くします。

安心して栄養を十分に摂取しているときは、ミトコンドリアは筋肉づくりや食べ物の消化、生殖などの副次的機能にエネルギーを振り向けます。

しかし、強いストレスを感じているときは、消化・解毒・生殖の各機能や運動能力が低下し、脂肪を溜め込むことがあります。

これは、ミトコンドリアがエネルギーを保全しようとしているためです。

 

慢性疲労とウイルスの関係

 

ミトコンドリアは免疫反応にも重要な役割を果たしていますが、ストレスによってその機能が妨げられることがあります。

慢性ストレスが原因で十分なエネルギーが作られないと、免疫系は効率的に働かなくなります。

免疫系はウイルスや細菌などの病原体を検知し撃退するために大量のエネルギーを必要とするからです。

 

 

慢性疲労症候群(CFS)とウイルス感染の関係を見てみると、ストレスや感染症がミトコンドリアの機能不全を引き起こし、エネルギー不足が生じることが分かります。

2019年の夏、多数の慢性疲労症候群患者を診察したモリー・マルーフ博士は、患者のほぼ全員がストレスの多いライフスタイルを続けており、過去に深刻な感染症に罹患した経験があることを突き止めました。

彼らは、感染症に見舞われたときにすでにエネルギーが枯渇しており、適切に対応できなかったのです。

そのため、ウイルスや細菌が細胞内に侵入して潜伏することができました。

多くのウイルスは細胞機構をハイジャックし、大量のエネルギー消耗や炎症、疲労を引き起こします。

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)などのいくつかのウイルスは、ミトコンドリアタンパク質を乗っ取り、細胞内で自己複製する機会を高めます。[2]

ウイルスが細胞に侵入すると、自己複製して細胞を殺し、免疫系にウイルスを放出します。[3]

その結果、多くの場合、ミトコンドリアのエネルギー産生が不十分になります。

2020年のある研究[4]では、慢性疲労症候群の患者にミトコンドリア異常があることが突き止められました。

それ以前の1991年の研究[5]では、ウイルス感染後に慢性疲労症候群にかかった1歳から17歳までの50人の患者を対象に筋生検を実施し、筋線維に明らかなミトコンドリアの変性があることが発見されました。

ウイルス感染から回復した多くの人は、変性したミトコンドリアによって慢性疲労が長期間続いていたのです。

これらの事象を研究した後、博士はなぜ主流の医療システムが慢性疲労症状とウイルスとの関連性にもっと注目しないのか、不思議に思いました。

実際、2019年8月に博士は友人に「ウイルスについてまだ十分に理解していないため、疫病への対応が大幅に遅れている」と話していたのです。

ウイルス性の疫病が流行したら、慢性疲労症候群の患者が大量発生するだろうと推測していたそうです。

ですから、2020年に新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起きたとき、「コロナ後遺症」の出現に博士はまったく驚かなかったといいます。

 

 

新型コロナウイルスは細胞に侵入して感染し、この感染は重度のミトコンドリア機能不全や炎症、さらには細胞を損傷する酸化ストレスを引き起こし、下流の臓器の機能不全、特に肺機能不全につながります。

炎症は火、酸化ストレスは煙、ミトコンドリア機能不全は電力供給停止のようなものです。

コロナ後遺症による病気や体組織全体に及ぶ消耗性疲労が、世界中で顕在化しているのはそのためです。

ミトコンドリアが最も豊富に存在し、エネルギーを最も必要とする臓器である心臓と脳に、最も顕著な問題が現れるのは当然のことです。

筋細胞にもミトコンドリアが豊富に存在するため、全身疲労と運動疲労が慢性疲労症候群やコロナ後遺症の症状としてよく見られます。

 

ミトコンドリアの機能を向上させる方法

 

コロナ後遺症や慢性疲労症候群を治すにはどうすればよいかとたびたび質問を受けます。

現在この分野の研究が盛んに進められており、研究結果がもっと出揃えば、より多くのことがわかるはずです。

しかし、もしあなたがいまコロナ後遺症の影響に苦しんでいるなら、ウイルス感染後のミトコンドリア機能の向上を促すやり方として、次の方法をお勧めします。

 

・リンパを流す—デトックスで免疫を高める

リンパドレナージは、サウナで汗をかいたり、乾布摩擦やセルフマッサージを行ったり、フォームローラーを使ったり、ウォーキングやヨガをすることによって、自分でリンパの流れをよくすることができます。

 

 

あるいは、リンパドレナージ専門のセラピストによる施術を受けてもよいでしょう。

リンパ液を全身に流すことで、デトックス効果や免疫力向上効果が得られます。

 

・呼吸訓練—1日10回咳をする

呼吸訓練は、呼吸器感染症の罹患後に肺を治し正常な肺活量を取り戻すために重要な役割を果たします。

呼吸筋のトレーニングには、インセンティブスパイロメーター(強制呼気を行うためのコンパクトな呼吸抵抗装置で、医師から入手できます)を使用します。

咳嗽(がいそう)訓練では、1日10回自発的に咳をします。

さまざまな呼吸法も、感染からの回復期のストレス緩和に役立ちます。

 

・抗炎症食—野菜やナッツ類を食べる

新型コロナウイルス感染症は身体に深刻な炎症性の損傷を引き起こすため、抗炎症作用のある食事をすることが重要です。

 

 

色とりどりの豊富な野菜を果物や豆類、脂肪性の魚、牧草飼育(グラスフェッド)牛やジビエ肉の脂肪分の少ない動物性タンパク質、スパイス、ナッツ類や種子類と一緒に食べるようにし、精製穀物や加工食品をほとんどあるいは一切食べないようにします。

食物過敏症を引き起こすとわかっている食品を避けることも特に重要です。

 

・有害物質の回避—アルコールや殺虫剤を避ける

ミトコンドリア機能を最適化するためにできる最も重要なことのひとつは、ミトコンドリアを直接損傷する物質を回避することです。

例えば、家の中のカビ、アルコール、特定の薬剤(抗生物質、アセトアミノフェン、コカイン、アンフェタミン、非ステロイド性抗炎症薬、スタチンなど)、水銀などの重金属、殺虫剤、残留性有機汚染物質(ろ過していない水道水に含まれる)、電磁界への過度な曝露、フタル酸エステル、パラベン(化粧品に含まれる)は避けるべきです。

 

・オゾン療法

低濃度オゾンは抗酸化系を活性化し、しつこい感染症の治癒を助けます。

オゾン療法は自力では行えないため、オゾン療法を通常の診療に取り入れている信頼できる機能性医学専門医を探しましょう。

 

・高気圧酸素療法(HBOT)

HBOTは高気圧酸素療法(Hyperbaric oxygen therapy)の略で、高気圧酸素装置内の大気圧より高い気圧環境下で過ごすことによって治癒を促し、ミトコンドリア機能を高め、感染症を治します。

この治療を受けるには医師の予約が必要です。

 

ミトコンドリアのためのサプリメント

 

さまざまなサプリメントを感染後の症状の緩和に役立てることができます。

自分に最適な処方を組み立てるために、機能性医学専門医に相談することをお勧めします。

 

 

ここでは、マルーフ博士が推奨するサプリメントを紹介します。

 

・抗炎症作用—ビタミンDやオメガ3脂肪酸

ビタミンD(5000IU〔IUは国際単位〕をビタミンK1・ビタミンK2と一緒に摂取)、メラトニン(夜1ミリグラムから摂取)、クルクミン(500〜1000ミリグラム)といったサプリメントにはすべて抗炎症作用があります。

モリー・マルーフ博士は、炎症収束性脂質メディエーター〔炎症を収束させる生物活性を持つ脂質〕が含まれる医薬品グレードの魚油を1日に4グラム摂取しているそうです。

炎症収束性脂質メディエーターは他の追随を許さないほど効き目がある抗炎症剤ですが、もしあなたが高用量オメガ3脂肪酸の処方対象かどうかは医師に確認してください。

 

・疲労対策—マグネシウムやコエンザイムQ10など

疲労対策として、ミトコンドリア機能を高めるサプリメントには、マグネシウム(1日400ミリグラム)、アセチル—L—カルニチン(1日2グラム)、ピロロキノリンキノン(1日20ミリグラム)、ビタミンB群、クレアチニン(1日3〜5グラム)、コエンザイムQ10(1日100ミリグラム)があります。

 

・電解質—水にヒマラヤ岩塩を加える

起立性低血圧症(急に立ち上がると血圧が下がって、立ちくらみや時には失神を引き起こす)には、電解質を十分に摂ることが重要です。

 

 

水を飲むときにピンクヒマラヤシーソルトをひとつまみ加えてみましょう。

 

・肺機能向上—ビタミンCなど

N—アセチルシステイン(1日500〜1000ミリグラム)は、体内のグルタチオンの蓄えを回復させるのに役立ちます。

グルタチオンは体内でつくられる主要な抗酸化物質であり、肺の中に最も豊富に含まれます。

肺機能向上を促すには、ビタミンC(1日1グラム)もお勧めです。

 

・血栓予防—ナットウキナーゼなど

ナットウキナーゼ(1日4000FU〔FUはナットウキナーゼの活性を示す単位〕)やセラチオペプチダーゼ(セラペプターゼ)(1日4万SPU〔SPUはセラチオペプチダーゼの活性を示す単位〕)といった酵素をお勧めします。

オメガ3脂肪酸も血液をサラサラにする効果があります。

 

・脳の健康—ライオンのたてがみ

神経可塑性を高める効果があるサプリメント「ライオンのたてがみ〔ヤマブシダケ〕」(1日3グラムが脳機能の最適化に最適な用量とみられます)を試してみましょう。

 

・デトックス—ブロッコリースプラウトや水のろ過など

リポソームグルタチオン(1日500〜1000ミリグラム)と、活性炭やベントナイトクレイ、モディファイドシトラスペクチン、クロレラを配合したサプリメントを試してみましょう。

自家製ブロッコリースプラウトもスルフォラファンを含むため、デトックス効果が高いです。

また、家の中の空気と水をろ過することも忘れないようにしましょう。

 

サプリメントを安心して活用する方法

 

マルーフ博士は、本書全体を通して、サプリメントの活用を勧めています。

最初は、博士や他の情報源が提示する多数のサプリメントリストに圧倒されるかもしれません。

そのリストを絞り込み、最も重要なものを判断するには、無計画にあれもこれも取り入れるのではなく、一定のサプリメント戦略が必要です。

マルーフ博士の診療では、2通りの用途でサプリメントを使用しているそうです。

1つ目は、最も一般的な不足栄養素を補うために処方する基本サプリメントのセットです。

医薬品グレードのオメガ3脂肪酸、ビタミンD、マグネシウム、ビタミンB群、ミネラル群がそれに含まれます。

ミトコンドリアと代謝機能を正常に働かせるためには十分な栄養素が必要であり、これらの基本栄養素は日々の全般的な健康維持を支えるものです。

臨床検査でも必ずと言っていいほど補う必要があると判断される栄養素です。

博士は尿中有機酸検査、血液検査、毛髪ミネラル検査の結果に基づき、患者一人ひとりのサプリメント処方計画を立てています。

 

 

有機酸と毛髪中ミネラル濃度は、ビタミンやミネラル、ファイトニュートリエント(植物栄養素)の状態を見極めるのに特に役立ちます。

ストレスが多い状態では、疲労時にビタミンB6、ナトリウム、カリウムの欠乏が起こることがめずらしくありません。

わたしたちの細胞は、ミネラル濃度勾配に応じて働くバッテリーであり、ストレスが多いと身体はミネラルを大量に消費します。

博士は男女問わず必ずフェリチン値(血液1ミリリットル中のフェリチン量)を測定しています。

フェリチン値は体内貯蔵鉄のマーカーとなります。

鉄は細胞呼吸のためにミトコンドリアが必要とする酸素を赤血球が運べるようにするミネラルです。

フェリチン値が低い場合は(75ng/㎖未満)、鉄分のサプリメントを処方します。

フェリチン値が高い場合は(150ng/㎖以上)、酸化ストレスを引き起こすおそれがあることから、鉄濃度を下げるために献血を勧めます。

私はサプリメントを利用する前に検査を受けることを勧めますが、もしあなたがこうした検査を受けたくない、あるいは受けられない場合、これらの基本的なサプリメントであれば、たとえ検査を受けなくても安心して摂取できるでしょう。

女性の中には、妊婦用ビタミン剤で基本栄養素の大半を補っている人もいます。

サプリメントの2つ目の用途は、さまざまな体内システムを最適化することであり、これは患者一人ひとりに合わせたより個別的なものとなります。

博士は必ず腸の健康から着手するといいます。

 

 

腸の機能不全があると栄養素を吸収できず、ホルモン異常が生じる場合が多いからです。

腸の働きが弱ると、過剰なホルモンを排便によって完全に排出できません。

腸機能不全は免疫力の低下にもつながるため、この問題を抱えた人には食物不耐性や食物アレルギーがよく見られます。

腸の治療には時間がかかり、成果が見え始めるまでに通常3カ月かかります。

次に、ストレスからの回復の最適化と、睡眠障害を抱えている場合は睡眠と概日リズムの最適化に目を向けます。

ホルモンにまだ問題があれば、サプリメントやバイオアイデンティカルホルモン(ナチュラルホルモン)補充療法で対処する必要があるでしょう。

重金属やカビ毒にさらされている場合はデトックスが必要かもしれません。

また、ミトコンドリアの健康とアンチエイジングのために用いるサプリメントもあります。

ここで重要なポイントは、すべてのサプリメントを一度に使用しないことです。

まず3〜6カ月間、特定の改善すべき部分に集中してから、次の最適化に取りかかるようにしましょう。

多量のサプリメントを摂取すると、あらゆるものが相互に作用し、サプリメントが効いて身体に魔法をかけるまでにかえって時間がかかることがあります。

 

習慣がミトコンドリアに与える影響

 

ミトコンドリアは、あなたの習慣に敏感に反応する健康のパートナーです。

 

 

トコンドリアは環境に応じて成長したり、増殖したり、死に絶えたりします。

ミトコンドリア機能を最も劇的に低下させる主な行動パターンは次の3つです。

 

・運動不足—座りっぱなしはNG

運動不足や座りっぱなしの身体は「これ以上エネルギーは必要ない」という信号をミトコンドリアに送り続けるため、ミトコンドリアはエネルギーの産生を特に筋肉や心臓で減らしてしまいます。

もっと身体を動かし運動することによって、より多くのエネルギーを必要とする生活を送れば、ミトコンドリアはその要求を満たそうとしてエネルギーの産生を増やします。

 

・食べすぎ—肥満が炎症を引き起こす

食べすぎ、特に糖分の多い食品を食べすぎると、細胞がミトコンドリアと血管の内膜を損傷させる排ガスの一種(活性酸素種)を放出します。

身体が使い切れなかった燃料は脂肪細胞に蓄えられて肥満を引き起こし、肥満は炎症などミトコンドリアを損傷させる状況をさらに増やします。

 

・回復なき慢性ストレス—飲酒や食べすぎの連鎖

ストレスはミトコンドリアのアロスタティック負荷(細胞内の累積的なストレス負荷)を増大させます。

アロスタティック負荷は、ミトコンドリア機能不全の原因となる飲酒や喫煙、食べすぎといった不適応行動を引き起こす場合が多いです。

ストレスから回復しなければ、ミトコンドリアは修復と充電の機会を得られません。

ミトコンドリアを損傷させるライフスタイルの深刻な影響を理解している人は少ないです。

ミトコンドリア研究者のダグラス・ウォレス博士によると、利用可能エネルギー不足の基準値である50%を超えてエネルギー容量が低下すると、病変(疾患)が現れます。

しかし、50%を上回るエネルギー容量を保つために、あなたにもできることがあります。

これから紹介する寿命を延ばす5つの健康習慣は、心血管疾患による死亡確率を82%、がんによる死亡確率を65%低下させ、50歳時点での余命を女性で14年、男性で12.2年延ばすことができます。

これらを習慣化できるか否かで、ミトコンドリア機能が(必然的に)向上するか低下するかが決まるのです。

 

ミトコンドリアの健康を維持するために

 

・禁煙する

喫煙はミトコンドリアの質と機能を直接損ないます。

高濃度汚染物質を吸い込み直接血流に取り込むことで、極度の炎症反応と酸化ストレスを引き起こすからです。

 

・健康な食生活を心がける—老廃物を排出する

栄養豊富で多様性に富んだ食事は、体内のミトコンドリアにビタミンやミネラル、エネルギー産生に必要な補因子を提供します。

ファイトニュートリエントが豊富な食事をとれば、体内に長く留まってミトコンドリアを損傷させるおそれがある老廃物をより適切に処理して排出できる身体に変えられます。

 

・運動する—ミトコンドリアの数を増やす

定期的に運動すると、エネルギー需要の増加に応えるためにもっとミトコンドリアをつくるよう筋肉に信号を送ることになります。

特に運動内容を頻繁に変えて筋肉(心筋を含む)と脳に負荷をかけると、いっそう効果があります。

 

・健康的な体重を維持する—肥満がミトコンドリアを損傷させる

肥満は、ミトコンドリアに燃料(脂肪とグルコース)を与えすぎることで過度な負担をかけ、ミトコンドリアの機能不全を引き起こし、これがさらにミトコンドリアを損傷させる炎症と酸化ストレスにつながります。

 

・アルコール摂取量を最小限に抑える—肝臓を弱らせない

過度な飲酒は、ミトコンドリアが豊富に存在する臓器のひとつである肝臓にダメージを与えます。

肝臓は血糖のホメオスタシス(恒常性)と細胞の解毒を担っています。

肝臓が弱ると、これらのプロセスが正常に機能しなくなります。

これらの方法を日常生活に取り入れることで、ミトコンドリアの健康を維持し、エネルギーレベルと全体的な健康状態を向上させることができます。

 

まとめ

 

私たちは現在、人類全体でエネルギー危機を経験しており、多くの人々が慢性疲労(CFS /ME)に苦しんでいます。

この疲労の背後には、ミトコンドリアの機能不全があります。

ミトコンドリアは細胞の発電所のようなもので、正常に機能しないとエネルギー不足が生じ、さまざまな慢性疾患を引き起こします。

私たちの行動や生活習慣が、ミトコンドリアの機能に大きな影響を与えます。

適切な排泄、栄養、運動、ストレス管理、そして健康的な生活習慣を維持することが、ミトコンドリアの健康を保ち、全体的な健康を向上させる鍵となるのです。

 

 


 

Notes

1.Rene Morad, “Defeating Diseases with Energy, Scientific American Custom Media. January 9, 2018, https://www.scientificamerican.com/custom-media/jnj-champions-of-science/defeating- diseases-with-energy/.

2.Sanjeev K. Anand and Suresh K. Tikoo, “Viruses as Modulators of Mitochondrial Functions. Advances in Virology 2013 (2013),

https://www.hindawi.com/journals/av/2013/ 38 94/.

3.Nature Education, “Virus,” Scitable: A Collaborative Learning Space for Science, 2014, https:// www.naturc.com/scitable/definition/virus-308/.

4.Sean Holden, Rebeckah Maksoud, Natalie Eaton-Fitch, et al., “A Systematic Review of Mitochondrial Abnormalities in Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome-Systemic Exertion Intolerance Disease,” Journal of Translational Medicine 18, no. 290 (2020), https://dx.doi.or g/10.1186%2Fsl 2967-020-02452-3.

5.W. M. H. Behan, I. A. K. More, and P. O. Behan, “Mitochondrial Abnormalities in the Post Viral Fatigue Syndrome,” Acta Neuropathologica 83 (1991), https://doi.org/10.1007/bf00294431.

unshakeable lifeトップへ戻る