人体
Human body
大自然の叡智の結晶・人体
Human body
大自然の叡智の結晶・人体
2023.06.23
今回の投稿は「微生物」に関するお話しですが、本題に入る前に「植物の免疫力」についてのお話しです。
クルミや松の木の下には、雑草などほかの植物はよく育ちません。
クルミや松の葉が地面に落ちると、葉の成分が土壌に溶け込み、発芽が抑えられるからです。
銀杏や楠木などもその働きが強く、ヒマワリやオオムギも根から雑草の生育をはばむ物質を出して生長します。
そればかりでなく、葉を枯らしたり、幹を痛める樹病菌までも殺す力を持つものもあります。
このような働きを持つ物質を〝フィトンチッド(Phytoncide)〞と呼びます。
Boris Petrovich Tokin (Токин, Борис Петрович; 21 July 1900, in Krychaw – 16 September 1984, in Leningrad) was a Russian biologist known for coining the term phytoncides, and promoting and systematizing their use. He also as chair of the Society of Materialist Biologists wrote articles integrating the works of Charles Darwin with Marx and Engels.
フィトンチッドを発見したのはロシア(旧ソビエト)のB.P. トーキン(Boris Petrovich Tokin)博士で、その命名はフィトン(植物が)チッド(殺す)という意味です。
動くことのできない植物が外敵から身を守る「免疫力」、つまり「自己防衛・生体防御機能」ですが、フィトンチッドには、殺菌効果や防腐効果があり、食品の鮮度を保つなど多くの恵みを与えてくれる「森林の精気」でもあるのです。
余談ですが、筆者が知るかぎり、フィトンチッドの働きが最も強いのが、シベリアの永久凍土に根をおろすモミの木(Abies Sibirica)です。
おそらく一年を通して極寒の環境では木の成長が遅く、年輪はビッシリ詰まり、フィトンチッドの濃度も濃くなるのではないかと…。
筆者の手元にこのモミの木から抽出したエッセンシャルオイルがありますが、アロマディフューザーで焚くと森林の中にいるような錯覚を覚えます。
まさに森林浴ですね。
ところで、森の中には動物や昆虫の死骸や排泄物など様々な堆積物があります。
本来なら、これらが腐敗する際に発する臭気が気になるはずですが、全く気になりませんよね。
むしろ清々しい空気が漂っています。
これもフィトンチッドの働きによるものですが、それ以前にもっと重要な働きがなければ森の清浄な空気は保てません。
それは何なんでしょうか?
それは動物や昆虫の死骸を分解し土(地球)に戻す、細菌など微生物(マイクロバイオータ)の働きです。
生命力を失い枯れてしまった植物でさえ、分解して土に戻していますよね。
動物が死に、落ち葉が細かくなり「腐食」となって微生物に分解され、砂や粘土と混ざり合い、やがて、こげ茶色の腐食が赤色や黄色の粘土とくっついて茶色い大地をつくりだします。
Human(人間)の由来は、Humus(腐食)で、語源はラテン語の「大地」なのです。
わたしたちの身体に必要な成分の中で、水と空気以外、例えばリンや窒素、カルシウム、マグネシウムなどの栄養分(ミネラル)は、土から供給されます。
土は地球固有の特産物で、微生物に養われた土の存在が動物や植物を養ってきたのです。
マイクロバイオーム(Microbiome)について
全生物をまとめた概念である生物相は、動物相と植物相に二分されていた。
細菌は植物相に含まれるという分類概念に基づき、細菌には「叢=Flora」が用いられてきた。
しかし現在では、細菌を含む微生物集団は微生物相(マイクロバイオータ)として分類されており、細菌に「叢=Flora」が用いられることはなくなった。
したがって現在は、「腸内フローラ」という呼び方はしない。
一方、マイクロバイオームはヒト体内の常在細菌とそれが発現する遺伝子群、および常在細菌とヒトの相互作用を含む広い概念のことである。[1]
今からおよそ138億年前に宇宙が誕生し、さらに時を経て46億年前に地球が誕生しました。
地球にはじめて生命が誕生したのが、今から38億年前だと考えられています。
そして、生命は微生物から始まったのです。
「Last Universal Common Ancestor」(最終普遍共通祖先)、略して「LUCA」は、その起源を約38億年前にまでさかのぼることのできる単細胞生物です。
LUCAは、その名の通り「あらゆる生物の共通の祖先」と言われています。
この生命は100℃以上の熱いところでも生きることができます。また原始地球の中から出てくる水素や硫化水素を使って、生育していた微生物だと考えられています。
約30ミリリットル(1オンス)ほどの一見きれいな飲み水の中には、100万個以上の細菌がいます。[2]
地球上にはおよそ14億立方キロメートルの水があると考えられています。[3]
だとすれば、地球上の水中の細菌の数は40の27乗(40000000000000000000000000000 4027)ということになります。
これら膨大な微生物が1日に1回分裂するだけでも、1年間の分裂回数は14×10の30乗です。
そして地球の土中の1㏄の中には、10の8乗から9乗の微生物が棲んでいて、地球上に生息する微生物の総重量は、現在地球上に暮らすヒトの総重量の約1000倍に等しいといわれています。
微生物は地球上のどこでも、海底火山でも海の中でも微生物だらけです。
この惑星のほとんどが、実は目に見えない微生物の世界なのです。
微生物は、驚くほど単純な生物である一方、様々な面で非常に複雑で、洗練された生物の集まりでもあります。
海底火山の摂氏3000度の高温でも生きられる種類もいれば、氷点下で活発に活動するものもいます。
そして地球の再生を担う彼らは、栄養素はもちろんのこと、日光や硫黄まで餌にします。
ヒロシマ、長崎に落ちた原爆。
当時、この放射性物質、放射能は消えずに、同地は100年も草木が生えない不毛の地になるだろう、と考えられていました。
しかし現実は、翌年から草木が生えてきたのです。
世界中の科学者が調べた結果、「耐放射性細菌」が存在し、そこで放射能が消えていくことが報告されています。
金属を溶かすほど濃い硫酸の中で生きる種もいれば、人間が耐えられる濃度の数千倍の放射能をものともしない種、原子炉の廃棄物タンクの中で、プルトニウムやその他の物質をなんでも貪り食べる種もいます。
2021年には、プラスティックを分解する能力のある細菌も発見されています。
生命環境の極限の場に、微生物はごまんといるのです。
さて、今日では微生物について様々なことが分かってきたわけですが、人類で初めて目に見えない微生物を発見したのが、オランダのデルフトに住むリンネル商人で科学者のアントーニ・ファン・レーエンフックです。
Antonie van Leeuwenhoek, Microbiologist, NLD
彼は自宅から1ブロック半ほどのところにある市場で黒胡椒を買い、これを料理に使うのではなく、水を満たしたティーカップに10グラムほどの黒い粒を投入したのです。
胡椒をしばらく水につけたままにしておいた後、彼はある種の顕微鏡を通して水を観察しました。
あれこれと工夫が必要だったようですが、ついに1676年4月24日、対象をはっきりと捉えることに成功しました。
彼が目にしたものは実に独特で、「さまざまな種類の非常に微小な動物が信じられないほど多くいる」と記しています。
そして、彼はこの極微生物を「アニマルキュール(小さな動物の意)」と名付けます。
これが微生物学の始まりです。
ところで、このレーエンフックの発見から340数年が経った今日、平均的な子どもは、生活時間の93パーセントを屋内または車内で過ごしている[4]と言いますが、家の中にはどれくらいの細菌が棲んでいるのかご存知でしょうか?
ノースカロライナ州立大学の応用生態学教授で、コペンハーゲン大学自然史博物館教授も兼任するロブ・ダン(Rob Dunn)は、「家の生態学」というおよそ人が研究対象としないような研究を本気で行い、『家は生態系』白楊社(原題:Never Home Alone)を上梓しています。
権威ある総合科学学術雑誌『Nature』は、本書を以下のように評しています。
ロブ・ダンたちは群衆生態学の考え方や手法を使って、ほとんどの科学者が見落としていた「家」という生態系を調べ上げた。
その成果からは、生態系のはたらきについて新発見がもたらされたが、何よりすばらしいのは、そこから、私たちの健康や暮らしに影響を及ぼす屋内生物と人との関係について驚くべき洞察が得られることだ。
彼はこの自著において、
〝 私たちの分析手法によると、20万種を超える生物が発見されたのである。
その多くは顕微鏡でなければ見えないほど微小な生物だったが、肉眼で見えるにもかかわらず見過ごされてきた生物も少なくなかった。〞
と述べています。
20万種以上もの微生物??
ちょっと待って、早く家に帰って大掃除しなきゃ!
子どもが大変だ!…と思った方がほとんどではないでしょうか⁉︎
しかしロブ・ダンは、こうも言っています。
同僚たちと私が家の中の生物について調査したところ、生き物がわんさかいて多様性に富んでいる家屋に生息している生物種の多くは、人間の役にたっており、場合によっては人間に不可欠な存在であることがわかったのだ。
ちょっと安心しましたか?
わたしたちは「ヒトと微生物から成る複合生物」、つまり「スーパー・オーガニズム」だということをご存知でしょうか?
ある種の微生物が、わたしたちの体に棲み、共に助け合って「わたしという個人」をかたちづくっているのです。
微生物にとっていちばん暮らしやすい場所は、皮膚の上や消化管の中です。
食物を得やすく、どちらも体の内側ではなく表面ですから免疫システムの働きが鈍いからです。
消化管は、口から肛門までトンネル状の構造がつづきますから、消化管の表面は事実上、体の「外側」なのです。
医師は、細菌が炎症の原因となると殺菌します。
そのため、細菌バランスが崩れ、病気が悪化します。
なぜなら、マイクロバイオームは、消化管の口から肛門までの内側から外側のすべての身体にバリアを張り、病原菌から防ぎ、腸内ではガンに対抗する免疫活性物質を産生し、腸内細菌がビタミンやアミノ酸をつくっているのです。
それを殺菌してしまったら…。
このことを、ほとんどの医師は知りませんから、腸内細菌が原因で引き起こされる病気は治せないのです。
近年の新型コロナウイルスの影響などで憂慮されるのが、「細菌は人類の敵で、あらゆる場所を殺菌しなければならない」と、間違った認識を持った人が増えていることです。
これまでに数万種の細菌が同定されていますが、それ以外に数百万種(ひょっとしたら数兆種)が存在すると考えられています。
しかし、世界中に生息する全細菌種のうちで、きまって病気を引き起こすものは50種にも満たないことが分かっています。
たった50種です。
それ以外はすべて、人間にとって無害または有益な細菌であって、細菌のみならず、ほとんどすべての原生生物や、ウイルスでさえそうなのです。
1970年には、屋内環境に関する研究はほとんど、病原体や害虫とその制圧方法に焦点を当てたものだけになっています。
屋内環境を扱う微生物学者たちは、いかにして病原体を殺すかを研究するようになりました。
この傾向は、昆虫学者もしかり、植物学者はいかにして花粉を排除するかを研究するようになったのです。
わたしたちの身近な生物は人間を苦しめるだけでなく、味方にもなってくれる存在であることを認識する心の余裕を失ってしまったのでしょうか⁈
これは大きな誤りで、腸内腐敗(腸内異常醗酵)が見過ごされ大きな医療の盲点・死角となっているのと同様に、病人が減らない根本原因の一つだと筆者は考えています。
ウイルスもまたデルフトで発見されています。
1898年にオランダの植物学者マルティヌス・ベイエリンクが、初めてタバコモザイクウイルス(Tobacco mosaic virus)を発見したとされています。
余談ですが、17世紀後半、オランダの都市デルフトはこれまでになく重要な場所になっていました(そのときが最初で最後)。
そこではデルフトウェアと呼ばれる中国製磁器の模造品が製造され、新たな貿易で大きな利益を上げていました。
しかしこの地を説明するとき、画家のヨハネス・フェルメールの生地と言った方が通りがいいかもしれませんね。
フェルメールが創造した鮮烈な作品は、彼の死後の数世紀を経て、現存するもっとも貴重な絵画となっています。
『真珠の耳飾りの少女』(Het meisje met de parel, Girl with a Pearl Earring)by Johannes Vermeer
さて、わたしたちヒトの内部と表面には、マイクロバイオーム(常在菌)と呼ばれるおよそ4万種の細菌がいて、その遺伝子は2000万個といわれています。
ヒトの遺伝子が約2万個だとすると、わたしたちヒト自身の遺伝子は、ほんの1%程度に過ぎません。
わたしたちは、ヒトだけではなく、様々な微生物と共に生きているのです。
このようにマイクロバイオームの実態が分かってきたのは、ヒューマンマイクロバイオーム・プロジェクト(Human Microbiome Project: HMP)によって新しく開発されたコンピュータ・アルゴリズムによるものです。
アメリカ国立衛生研究所(NIH)は、約170億円もの研究費をこのHMPに拠出しています。
またヨーロッパのプロジェクトMetaHITをはじめ、他にもさまざまな国際的な取り組みがデータ解析を推進しています。
前述の通り、わたしたちは、およそ4万種のマイクロバイオームの棲家です。
これまでに見つかっている細菌は、鼻孔で900種、両頬の内側で800種超、口内の歯肉で1300種、消化管で3万6000種にもなります。
そしてその数字は、次々に更新されていくでしょう。
皮膚には、1平方センチ当たり約10万個の微生物がいます。
そして彼らは、かなりしぶとい。
あなたが入浴したりシャワーを浴びたりして念入りに体を清潔にしようと努めても、完璧に拭い去るのはかなり難しいのです。
息を吸うと、空気中の窒素は肺に入りますが、そのまままっすぐ外へ出ていってしまいます。
窒素をヒトに役立つようにするには、アンモニアなどに変換する必要がありますが、実はこの仕事をこなしてくれているのもマイクロバイオーム(細菌)なのです。
彼らの助けがなければ、わたしたちは死んでしまいます。
それどころか、人類が今日まで辿って来た「驚異の一本道」は途切れ、ホモ・サピエンスが存在することさえなかったでしょう。
さらに「内なる外」といわれるわたしたちの腸には、夥しい数のマイクロバイオームが棲んでいます。
この腸内に棲むマイクロバイオームの数は100兆個といわれ、そのほとんどが大腸を棲み家にしています。
60兆個(10兆個、37兆個という説もある)といわれるヒトの細胞よりも多く、重さにすると60キロの体重の人で1〜1.4キロにもなり、わたしたちの脳とほぼ同じウエイトです。
腸には1億個の神経細胞があって、これは脳以外に存在する神経細胞の半分にあたり、マイクロバイオーム(微生物群集)は神経細胞と活発に情報交換し、臓器のように働き、わたしたちの体のほとんどすべてに影響を及ぼすといいます。
わたしたちヒトの腸に棲む微生物(細菌)は、免疫系機能、解毒、炎症、栄養の吸収、炭水化物や脂肪の利用方法など、さまざまな生理行動に作用しています。
大腸に棲みついている微生物の中には、役に立つものもいれば、何ら影響しないもの、さらにはいない方がいいものもいます。
有益な微生物には、重要な生物学的機能を果たしている細菌が含まれ、消化を助ける腸内細菌はその好例です。
オートファジーを促す化合物「スペルミジン」をつくる細菌も、有益な微生物の一つです。
ある腸内細菌は乳酸を分解して、その蓄積を防ぎ、ランナーの持久力を向上させます。
有益な腸内細菌は、ホルモン・ビタミン・酵素の産生やタンパク質の合成、血圧や血糖の調節、コレステロールの代謝のほか、腸とのやりとりを通して免疫機能に大きく関わるなど、さまざまな生命維持のための重要な役割を担っています。
そしてこの夥しい数の微生物は、複合的に会話をしてエネルギー活動をしています。
近年の研究では、マイクロバイオームの影響力が脳にまで及び、気分や性欲、代謝、免疫、さらには認知力や意識の明瞭さにまで影響することが明らかになっています。
わたしたちの世界観や行動まで変えるというのです。
炎症性腸疾患(IBD)は、消化管の炎症が診られる症状全般に対して下される診断ですが、このIBDの中で厄介なのが潰瘍性大腸炎とクローン病です。
この2つの病気に共通するのは、腸内細菌と免疫系との関係が狂ってしまうことです。
免疫系が自分を苦しめている病原菌のみを標的にしたつもりが、腸の中にいる生き物すべてと戦争を始めることになってしまい、その副作用として激しい痛みや出血、何度も便意を催すといった症状が現れます。
生命力(自然治癒力・免疫力)を維持すること、わたしたちはキレイな大腸を維持し、そこに棲む大切なパートナー、「マイクロバイオームを愛し育むこと」で、心と身体の美と健康を生涯保つことができます。
腸内の腐敗を予防し改善することは、マイクロバイオームにとっても大切な生活習慣なのです。
•彼らは、食物の消化を助け、必要なビタミン類を生成してくれる腸内細菌です。
•彼らは、全身の皮膚表面にいて、病原菌を寄せ付けないように守ってくれている皮膚常在菌です。
•彼らは、病原菌が皮膚に付着したときに、身体がそれを撃退するのを助けてくれる腋窩(えきか)細菌なのです。
マイクロバイオームは人それぞれに異なっていて、誰一人として同じではありません。
つまり、マイクロバイオームは、わたしたち人の「第一の偉大さである人格」さえも決める要因になっているかもしれないということです。
もしかしたら、わたしたちの脳を支配しているのは、腸内細菌かもしれないのです。
いずれにしても、世界中で進行している様々な研究は、微生物がヒトの病気や健康、老化や肥満、そして幸福に直接的、間接的に想像を超えた影響力をもつということを示しています。
わたしたちヒトはスーパー・オーガニズム(複合生物)で、彼ら無しでは生きていけないのです。
信じられないかもしれませんが、南国の島の川の中では「コレラ菌」が川の浄化をしています。
忘れてはいけないのは、細菌などの微生物は、何十億年ものあいだヒト(宿主)なしで生きてきたという事実です。
しかし、わたしたちといえば、彼らなしでは1日たりとも生きられません。
地球は生命の起源である彼らの惑星であり、彼らが許してくれるからこそ、わたしたちヒトはここに居させてもらっているのです。
このように一部の微生物が自分を助けてくれていると考えると、幸福な気分になるかもしれません。
しかし残念ながら、わたしたちの体内にいる微生物は自分の利益にしか興味がないのです。
もちろん彼らの利益になることもありますが、状況が変われば、微生物は自分のためにわたしたちを犠牲にしますし、進んでそうするでしょう。
そして肝心な点は、細菌やウイルスなどの微生物は、バランスが保たれているかぎり「生命力のあるもの」には何もしないという事実です。
Pierre Jacques Antoine Béchamp, Doctor, Biochemist, Pharmacologist FRA
ロベルト・コッホと共に細菌学を確立したとされるルイ・パスツールの師にあたるアントワーヌ・べシャン博士は、
〝 病気を引き起こすのは微生物ではない。
微生物の感染後に病気になるかどうかは、わたしたちヒトの体の状態である。〞
と主張しました。
当初はべシャンのこの説に対立する立場をとっていたパスツールですが、彼が死の床にあった1859年、彼の死に立ち会った人々に有名な言葉を遺しています。
べシャンは正しかった。
微生物は何もしない。
宿主(ヒト)の健康状態が全てだ。
Béchamp avait raison,
le microbe n’est rien.
Le terrain est tout.
Louis Pasteur
Biochemist, Bacteriologist, FRA
つまり、「わたしの病原体仮説は間違っていた。細菌を取り巻く環境が病気を左右するのだ」とべシャンの功績をリアルサイエンスとして認めたのです。
べシャンやパスツール、ロブ・ダンらの研究の通り、ほとんど全ての細菌は、生命力溢れる動物や昆虫、植物には何もしません。
しかし生命力、つまり自然治癒力が失われたり(死んだ)、衰えた生物を分解して、地球(土)に戻そうとするのです。
生命が失われた物質を地球に戻す、これが古来、彼らの地球再生の役割であり自然の摂理です。
動物や植物が生きられる環境を創れるものは微生物以外にありません。
この微生物の働きこそが、究極の“SGDs”なのです。
常時、ヒトの体内には、たくさんの微生物やウイルスがいます。
また、コロナウイルスなどの外来種が外部から侵入して、感染症を発症する人もいれば、全くへっちゃらな人もいます。
細菌の目線からすると、感染症が発症しやすい人とは、言い換えれば生命力が弱っている(自然治癒力が衰えている)生物だと察知しているとも言えるわけです。
新型コロナウイルスが第5類に移行した現在においても、感染者が増加する傾向にありますが、それは結果であって、原因は多くの人の自然治癒力(免疫力)が衰えていることが大きく影響しているのです。
消毒殺菌というのは、対症療法的な手段であって、根本的なソリューション(解決策)ではありません。
細菌と共に生き、細菌と共に天寿を全うするのが慈悲深い人間の使命です。
細菌をやっつけようとすると、人間も一緒にやられるのです。
屋内環境を過度に殺菌消毒すると、そこに住む人間の生命力(自然治癒力・免疫力)も衰えます。
抗生物質で腸内の細菌を殺すと、腸内でビタミンB2を製造してくれる有用な細菌も死んで、口内炎を起こすようになります。
悪い細菌が繁殖できないような身体にすればよいのです。
ゴミをためるからウジがわくのです。
腸に便をためぬように、血液もきれいにするように心がければよいのです。
わたくしは細菌と雖(いえど)もそれとの闘争を好まず、共存共栄を念願するものである。
生物繁栄の道は闘争ではなく、共存共栄の王道につながっていることを知らねばならぬ。
西 勝造
『病気よ、さようなら|Bid farewell to diseases』(西会本部)より
わたしたちヒトは、独りで生きているわけではありません。
ヒトマイクロバイオームは〝外部にあるもう一つの臓器、第二のゲノム〞といわれる運命共同体です。
太陽が爆発して地球が消滅するその時まで、彼らが地球上から消えることはありません。
38億年もの太古から、地球という「生命の惑星」を創ってきたのは、彼ら微生物たちなのです。
偉大な生物学者スティーヴン・ジェイ・グールドは、次のように述べています。[5]
私たちは細菌の時代に生きている。
始まりのときから、今も、そして世界が終末を迎えるまで。
Stephen Jay Gould
Paleontologist, Evolutionary biologist, Historian of science, Earth scientist, USA
References
1. マーティン・J・ブレイザー『失われてゆく、我々の内なる細菌』2015年 山本太郎訳(長崎大学熱帯医学研究所・国際保険学分野主任教授)みすず書房。訳者あとがきより
2. K. Lührig et al. (2015). “Bacterial community analysis of drinking water biofilms in southern Sweden.” Microbes Environ. 30(1):99-107.
3. “How Much Water Is There on Earth?” USGS, https://water.usgs.gov/edu/earthhowmuch.html
4. N. E. Klepeis, W. C. Nelson, w. R. Ott, J. P Robinson, A. M. Tsang, P. Switzer, J. V. Behar, S. C. Hern, and w. H. Engelmann, “The National Human Activity Patter-n Survey (NHAPS): A Resource for Assessing Exposure to Environmental Pollutants,” Journal of Exposure Science and Environmental Epidemiology 11, no.3 (2001): 231
J. Matz, D.M Stieb, K. Davis, M. Egyed, A Rose, B. Chou, and O. Brion, “Effects of Age, Season. Gender and Urban-Rural Status on Time-Activity: Canadian Human Activity Pattern Survey 2 (CHAPS 2),” International Journal of Environmental Research and Public Health 11, no. 2 (2014): 2108-2124.
5. S.J. Gould, “Prophet for the Earth: Review of E. O. Wilson’s The Diversity of life,” Nature 361 [1993]:311-12.
6. NEVER HOME ALONE From Microbes to Millipedes, Camel Crickets, and Honeybees, the Natural History of Where We Live by Rob Dan