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いのちまで人まかせにしないために

代謝 — 断食は最高の薬 Vol.3

2024.08.23

今回は、スタンフォード大学メディカルスクールで超人気講義『HEALTH SPAN』を受けもつモリー・マルーフ(Molly Maloof)博士の、断食の健康効果に関する論考の3回目です。

 

初めてのファスティング中に起こり得ること


長時間のファスティングを初めて行うと、空腹感や軽い腹部不快感、脱力感を感じることがあります。

特に、16時間の断食と8時間の食事時間を設定する16:8のファスティングは、多くの人にとって辛く感じられることがあります。

 

 

立ちくらみやけいれん、脱水症状、睡眠の質の低下も起こり得ますが、これらの症状の多くは電解質の補充によって改善可能です。

ファスティングに慣れるためには、まず脂質適応状態を確立し、ケトジェニックダイエットを実施することが効果的です。

焦らず、段階的にファスティングを進めることで、症状は軽減されるでしょう。

また、軽いストレスを感じながらファスティングを行う場合は、さらに慎重に進めるべきです。

2週間の間欠的ファスティングではコルチゾール値が上昇しないことが確認されていますが、実際のストレスレベルによって影響を受けることもあります。

 

ファスティングを成功させるための秘訣


ファスティングに慣れていないと、長時間の食事制限には練習が必要です。

ファスティングを快適に進めるためには、段階的に進むことが重要です。

以下のポイントを押さえれば、ファスティングの成功がぐっと近づきます。

 

1. 水分補給を欠かさない

 

 

最も大切なのは水分補給です。

水分をしっかり摂らないと、気分が悪くなったり、疲労感や脱力感が強まることがあります。

水以外にも炭酸水やブラックコーヒー、お茶を飲んでも問題ありません。

ただし、加糖飲料は禁物です!カフェイン飲料はファスティング中に脂肪燃焼を助けることがありますが、身体にストレスを与える可能性もあるので、カフェイン飲料を摂る場合は水を2〜3杯追加で飲むことをおすすめします。

 

2. 電解質をしっかり摂取する

水は体内で塩分を引き寄せるため、適切な水分補給には砂糖不使用の電解質サプリメントを摂取するか、水に少量の塩を加えると良いでしょう。

ファスティング中に頭痛がする場合は、マグネシウムが効果的です。

私自身、ファスティングを行う日には大抵サプリメントを控えていますが、頭痛がひどい時にはグリシン酸マグネシウムやトレオン酸マグネシウムを摂取しています。

 

3. ファスティングアプリとスマート体重計を活用する

ファスティングをサポートするアプリや、体重だけでなく体脂肪率や筋肉量も測定できるスマート体重計を活用しましょう。

 

 

これらのツールは、ファスティングの進捗を把握しやすくし、モチベーションの維持にも役立ちます。

 

4. 中断すべきタイミングを見極める

眩暈や身体の不調を感じた場合は、ファスティングを中断することが必要です。

その際は、ケトジェニックダイエットや周期的ケトジェニックダイエットに切り替え、代謝柔軟性を高めることに集中しましょう。

健康を最優先に考え、無理をせずにファスティングを行うことが大切です。

 

ファスティング中に運動すべきか?


ファスティング中に運動を取り入れるべきかについては、意見が分かれます。

運動のタイミングについても食前と食後で意見が対立しています。

 

 

空腹時、特に朝食前の状態で運動を行うと、体が重く感じることがあります。

空腹状態で運動することで気分が爽快になると感じる男性も多いですが、これはその状態に適応している証拠です。

しかし、代謝や体調が整っていない人、特に女性には、空腹時に激しい運動を組み合わせるのは推奨されません。

女性アスリートの場合、運動前に150カロリー程度の軽食を摂取することが推奨されます。

特に朝のトレーニング前には、血糖値を安定させるための軽食が必要です。

ファスティング自体が運動と似た効果をもたらすため、両者を同時に行う必要はありません。

空腹時に有酸素運動やウエイトトレーニングを行うと、コルチゾールの増加により体脂肪が蓄積される可能性があります。

間欠的ファスティング中に軽いヨガやウォーキングを行うのは問題ありませんが、激しい運動はファスティングの時間帯ではなく、食事を摂る日中に行うようにしましょう。

 

ファスティングの豊富なメリット


ファスティングには驚くほどの利点があることをご存知ですか?

この方法は意志力、自制心、忍耐力、柔軟性、レジリエンス、適応力などを高めるだけでなく、肌にツヤを与え、経済的にもお得です。

食事の量が減ることで、自然と節約につながり、食事のたびに作業を中断する必要もありません。

また、食べ物の美味しさが増し、五感が研ぎ澄まされ、特に味蕾の感覚が鋭くなります。[13]

さらに、ファスティングが自分の生きる目的や精神性と深くつながると感じる人もいます。

多くの人が定期的な運動に抵抗を感じる一方で、ファスティングは心理的に取り組みやすい方法です。

アスリートや運動愛好者であれば頻繁に実践する必要はありませんが、あまり活動的でない人や代謝の健康改善を目指す人(特にインスリン抵抗性や前糖尿病、メタボリックシンドローム、過体重、肥満症の方)は、ファスティングを試す価値があります。

ファスティングが全ての人に合うわけではありませんが、あなたのバイオハックの切り札となるかもしれません。

 

 

ケトジェニックダイエットの方法


ケトジェニックダイエット(ケトダイエット)は、さまざまな方法で実践可能です。

多くの著者がこのテーマについて書籍を出版しており、詳細な情報が手に入ります。

誰でもこのダイエットに取り組むことができますが、基本的には主要栄養素の摂取量を管理し、健康的な脂肪を多く摂取し、タンパク質を適量、炭水化物を低く抑える食事が推奨されます。

自身に合った食事法が効果的かどうかを確認するためには、ケトン体検査を受けるのも一つの手です。

以下に代表的なケトジェニックダイエットの方法を紹介しますので、自分に合ったものを選んでみてください。

もし、どの方法が自分に適しているか不安な場合は、事前にリサーチを行うことをお勧めします。

 

 

1. 標準的ケトジェニックダイエット

この方法は、一般的に脂質70%、タンパク質20%、炭水化物10%で構成される食事法です。

基本的なケトダイエットの形式で、長期間続けやすいです。

 

2. 周期的ケトジェニックダイエット

この方法では、標準的ケトジェニックダイエットと高炭水化物の期間を交互に設けます。

例えば、5日間ケトダイエットを実践した後、2日間は炭水化物を普通に摂取します。

ただし、精製された炭水化物は避け、根菜や果物など未加工の食材を選びましょう。

 

3. ターゲット型ケトジェニックダイエット

トレーニングを行う日に、炭水化物を追加で摂取する食事法です。

運動によるエネルギー消費を考慮し、必要なタイミングで炭水化物を補います。

 

4. 高タンパク質ケトジェニックダイエット

この方法は、標準的ケトダイエットに似ていますが、より多くのタンパク質を摂取します。

主要栄養素の比率は脂質60%、タンパク質35%、炭水化物5%となります。

 

ケトジェニックダイエットに必要なサポートアイテム


1. マグネシウムと電解質

ケトジェニックダイエット中は体内の水分量が減少し、脱水症状や筋けいれんのリスクが高まります。

そのため、マグネシウムや電解質※の摂取が重要です。

これらは体内の水分バランスを保ち、筋肉の健康を支える役割を果たします。

電解質とは、水などの溶媒に溶解した際に、陽イオンと陰イオンに電離する物質のことで、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、リン(P)、クロール(Cl)、重炭酸(HCO3–)などがあります。

これらは主要ミネラルとしても重要で、身体の機能の維持や調節など、生命活動に必要な役割を果たすために、体内にある一定の範囲内で保持されています。

ところが、さまざまな理由で過不足が生じ、その恒常性が破綻すると、「電解質異常」が起こります。

電解質異常は、臨床のあらゆる場面で遭遇する病態であり、重症例では致死的不整脈など、生命を脅かすことも少なくありません。

解説:内田 俊也 帝京大学医学部内科学講座 教授

2. 消化酵素、塩酸ベタイン、胆汁酸

これらのサプリメントは、余分な脂肪の消化を助けます。

さらに、ショウガ、ターメリック、生黒コショウ、チリパウダーなどのスパイスは、胆汁の分泌を促進し、消化を助ける効果があります。

 

3. グリーンパウダー (野菜粉末)

理想的には食物から野菜を摂取するのが望ましいですが、野菜を大量に食べる習慣がない方にはグリーンパウダーが便利です。

手軽に緑の野菜を摂取できるため、栄養の補完に役立ちます。

 

4. ケトンメーター

ケトンメーターは市販されていますが、尿を使うタイプではなく、血液を使ったものを選ぶとより正確です。

定期的に指先を穿刺して測定しますが、その情報は非常に価値があります。

呼気式のケトンメーターもありますが、その精度には注意が必要です。

血中ケトン体濃度は朝の空腹時に測るのが最適です。

 

ケトン体濃度の目安は以下の通りです:

0.5mmol/L未満:ケトーシス状態ではない。

0.5〜1.5mmol/L:軽度の栄養学的ケトーシスで、体重に良い影響を及ぼす可能性がある。

1.5〜3mmol/L:最適なケトーシス状態で、最大限の減量が期待できる。

この範囲は肥満症の場合、ファスティングとケトジェニックダイエットの組み合わせで達成しやすいです。

3mmol/Lを超える必要はなく、超えても良い結果にはならないことが多いです。

これらの情報を参考に、自分に合ったケトジェニックダイエットを見つけ、健康的な生活をサポートしてください。

 

 

まとめ — 代謝のバイオハック


• 自然のサイクルに合わせ、習慣や食事、運動、食事時間を見直し、代謝の柔軟性を高めることが大切です。

• ファスティングが自分に合うかどうかを判断するためには、ストレスレベルと健康状態をしっかり評価する必要があります。

• ケトジェニックダイエットを取り入れて、ファスティングに向けて準備を始めると良いでしょう。

• ファスティングに向けては、まずは規則正しい食事時間を守り、間食を控え、未加工の食品を中心に食べる習慣を身につけることから始めます。

• 炭水化物の摂取量を減らし、あるいはケトジェニックダイエットを1カ月試してみるのも効果的です。

• 最も多く食べる食事を昼食に変更し、夕食は午後6〜8時までに済ませるようにしましょう。

• 初めてのファスティングは、12〜14時間の夜間ファスティングから始めると良いです。

• 食事を摂らない状態で激しい運動は避けるべきです。

• 興味がある場合は、さらに長時間のファスティングに挑戦してみても構いませんが、3日以上のファスティングは健康に影響を及ぼす可能性があるため、慎重に行う必要があります。

• ケトーシス状態を確認するためには、ケトンメーターを使用することをおすすめします。

• ファスティング中は、電解質とマグネシウムのサプリメントを追加することで、快適に進めることができます。

• ファスティングアプリの活用も考慮すると良いでしょう。

• ファスティング後は、消化の良い少量の食事で徐々に体を慣らすようにしましょう。

 

筆者は長年にわたり、16時間・間欠ファスティングを習慣としています。

ただし、旅行などで自分以外の人と一緒にいる場合は、人に合わせるようにしています。

あまり神経質になる必要はないと思いますよ!

 

 

考えることができ、待つことができ、 断食することができれば、誰もが驚くべき力を発揮し、目標を達成できる。

ヘルマン・カール・ヘッセ(Hermann Karl Hesse)

ドイツ生まれのスイスの作家。主に詩と小説によって知られる20世紀前半のドイツ文学を代表する文学者である。南ドイツの風物のなかで、穏やかな人間の生き方を描いた作品が多い。また、ヘッセは風景や蝶々などの水彩画もよくしたため、自身の絵を添えた詩文集も刊行している。1946年に『ガラス玉演戯』などの作品が評価され、ノーベル文学賞を受賞した。

 

 


 

Notes

Resource: The Spark Factor, The Secrets to Supercharging Energy, Becoming Resilient, and Feeling Better Than Ever.

1. Ashima K. Kant. “Eating Patterns of U.S. Adults: Meals, Snacks, and Time of Eating,” Physiology & Behavior 193, part B (2018), https://doi.Org/10.1016/j.physbeh.2018.03.022.
2. Mark P. Mattson, Keelin Moehl, Nathaniel Ghena, et al., “Intermittent Metabolic Switching, Neuroplasticity and Brain Health,” Nature Reviews Neuroscience 19 (2018), https://doi.org/10.1038/ nrn.2017.156.
3. Deborah M. Muoio, “Metabolic Inflexibility: When Mitochondrial Indecision Leads to Metabolic Gridlock,” Cell 159, no. 6 (2014), https://dx.doi.org/10.10169b2Fj.cell.2014.ll.034.
4. Jason Fung, “Women and Fasting—Part 10,” The Fasting Method, https://blog.thefastingmethod. com/women-and-fasting-patt-10.
5. Stephen D. Anton, Keelin Moehl, William T. Donahoo, et al., “Flipping the Metabolic Switch: Understanding and Applying the Health Benefits of Fasting,” Obesity 26, no. 2 (2018), https://dx.doi. org/10,1002%2Foby,22065.
6. Carlos L6pez-0tin, Lorenzo Galluzzi, Jose M. P. Freije, et al., “Metabolic Control of Longevity,” Cell 166, no. 4 (2016), https://doi.Org/10.1016/j.cell.2016.07.031.
7. Anton et al., “Flipping the Metabolic Switch.”
8. Jennifer Abbasi, “Interest in the Ketogenic Diet Grows for Weight Loss and Type 2 Diabetes,” JAMA 319, no. 3 (2018), https://doi.org/10.1001/jama.2017.20639.
9. Abbasi, “Interest in the Ketogenic Diet Grows.”
10. Shubhroz Gill and Satchidananda Panda, “A Smartphone App Reveals Erratic Diurnal Eating Patterns in Humans That Can Be Modulated for Health Benefits,” Cell Metabolism 22, no. 5 (2015), https://dx.doi.org/10.1016%2Fj.cmet.2015.09.005.
11. Yuan, Xiaojie, Jiping Wang, Shuo Yang, Mei Gao, Lingxia Cao, Xumei Li, Dongxu Hong, Suyan Tian, and Chenglin Sun. “Effect of Intermittent Fasting Diet on Glucose and Lipid Metabolism and Insulin Resistance in Patients with Impaired Glucose and Lipid Metabolism: A Systematic Review and Meta-Analysis.” International Journal of Endocrinology 2022 (March 24, 2022): 6999907. https://doi.org/10.1155/2022/6999907.
12. Przemyslaw Domaszewski, Mariusz Konieczny, Pawel Pakosz, et al., “Effect of a Six-Week Intermittent Fasting Intervention Program on the Composition of the Human Body in Women over 60 Years of Age.” International Journal of Environmental Research and Public Health 17, no. 11, January 2020: 4138. https://doi.org/10.3390/ijerphl7114138.
13. Yuriy P. Zverev, “Effects of Caloric Deprivation and Satiety on Sensitivity of the Gustator System,” BMC Neuroscience 5 (2004), https://dx.doi.org/10.1186%2F1471-2202-5-5.
“The Spark Factor-The Secret to Supercharging Energy, Becoming Resilient, and Feeling Better Than Ever” by Molly Maloof

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