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ベジタリアンならいいの?――サルディーニャと長寿の真実

2023.06.02

こんにちは。

今日は、私たちが抱きがちな「菜食=健康長寿」というイメージの裏側にある、意外な真実についてお話ししますね。

サルディーニャ島と南イタリア

南イタリア、特に「ブルーゾーン(長寿地域)」に指定されたサルディーニャ島やカラブリア県、そしてチレントと呼ばれる地域。ここは、90歳以上の高齢者が平均よりも圧倒的に多いことで知られています。

私のミラノ在住の友人にサルディーニャ島出身の男性がいますが、「本当に素晴らしい所だから、機会があったら是非おいでよ!」といつも熱っぽく誘ってくれます。

地中海に浮かび、自然が豊かで、おまけに世界屈指の長寿地域だなんて、一度は行ってみたいですよね!

ところで、2015年の調査では、サルディーニャ州オリアストラ県の山間部にある村々(ヴィッラグランデ・ストリザーイリ、アルツアナ、バウネーイ、ウルツレーイ、タラーナ)の百寿者(センテナリアン)の割合は、10万人あたり50人という、きわめて高い値であったことが報告されています。

興味深いことに、この地域には世界で初めて110歳まで生きた男性(スーパーセンテナリアン)も住んでいたんですよ。

通常、百寿者の数は「女性4に対して男性1」の割合で女性が多いのですが、ここではなんと「1対1」。

男性がとにかく元気なんです。

ある研究者が現地で数名の百寿者に直接会ったところ、彼らは高齢にもかかわらず、体型は引き締まって素晴らしく、頭脳も明晰。

そして、こちらがつられて微笑んでしまうような笑顔を浮かべていたそうです。

それは決して容易なものではなく、やりがいのある人生を送ってきた人だけが持つ、深く美しい笑顔でした。

研究者はその姿に衝撃を受け、彼らの生活をこう報告しています。

キーワードは「実直」と「調和」。

• 野菜、全粒穀物、豆類と少量のヤギ乳チーズなどから構成される植物性食品が中心の食事。

• 肉類は、日曜日や特別な機会にときどき食べるのみ。

• 羊の世話で歩いたり畑仕事をしたり、屋外での身体活動量が多い。

• 穏やかで思いやりのある性格で、生命の自然な流れを敏感に感じる。

• 家族の結びつき(曾祖父母から孫まで)が広くて強い。

イタリア南部の村々は、北部(ミラノなど)に比べて決して経済的に豊かではありません。

しかし、伝統的な地中海式食、すなわち「ほぼ植物性食品からなる食事」を何世代も守り続けているのです。

菜食主義こそが、健康長寿の秘密なのか?

「じゃあ、肉を一切やめれば、病気にならずに長生きできるの?」 そんな疑問に対する答えを探るために、世界中のベジタリアンを調査したデータを見てみましょう。

例えば、インドの人々。宗教上の理由で何世代も前からベジタリアンの人が多いですよね。

ヒンドゥー教の教えでは、牛を殺すことは殺人と同じであり、他の動物も「前世の近親者の生まれ変わり」かもしれないと大切にされます。

しかし、インド人の健康データを見てみると、意外な現実が見えてきます。

今、インドでは腹部肥満と2型糖尿病の患者がかつてない規模で増加しているのです [1]

糖尿病は「沈黙の病」と呼ばれ、自覚症状がないまま進行し、心疾患、腎不全、失明、さらにはがんのリスクを劇的に高めます。

インドの糖尿病罹患率は100人あたり約12人で、アメリカの8人よりも高い数値です。

なぜ菜食なのに?

おそらく、精製された炭水化物(白米、ナン、スイーツ、加糖飲料)が豊富なことや、調理に多量の植物油を使用していることが原因だと考えられています。

菜食という考え自体は悪くありませんが、「何を食べているか」「運動をしているか」といった条件で、その効果は全く異なってしまうのです。

ベジタリアン食に関する神話と事実

一口に「ベジタリアン」といっても、いくつかの種類があります。

• ヴィーガン: すべての動物性食品を摂らない。

• ラクト・オボ: 牛乳や卵は食べるが、肉・魚は摂らない。

• ペスコ: 肉は避けるが、魚は食べる。

アメリカ・カナダ栄養士会は「バランスが良ければ、ベジタリアン食も栄養学的に適切で、健康に好ましい」との見解を示しています[2,3]

確かに欧米型の食事をしている雑食の人に比べれば、リスクが低いという研究もあります [4]

しかし、データを注意深く見ると別の側面が見えてきます。

実は、心疾患の予防効果がはっきり認められたのは、特定のグループ(セブンスデー・アドベンティスト派)においてのみだったという報告があります [5]

イギリスやドイツの調査では、ベジタリアンによる影響はほんのわずかでした [6,7]

つまり、喫煙、運動量、肥満、飲酒といった生活習慣のほうが、食事の種類よりも死亡率に関係していたのです。

ただ、バランスの良い菜食をしている人は、体重が軽く、血中コレステロール値や血圧も低いのが一般的です [8,9]

ただし、善玉(HDL)コレステロールも平均で4 mg/dLほど低くなってしまうという側面もあります [10]

最新知見:IGF-1とがんのリスク

がんに関しては、ベジタリアンの発症率は低いようですが、これには喫煙率の低さなども関わっています。

興味深いのは、結腸がんのリスクです。

ある研究では、ヴィーガンよりも、魚を食べる「ペスコ・ベジタリアン」の方がリスクが33%も低いという結果が出ています[11]

乳がんや前立腺がんに関しては、乳製品や牛乳の摂取が関係しているようです。

成長因子の1つである「IGF-1(インスリン様成長因子1)」は、これらのがんの危険因子と考えられていますが、乳製品はこのIGF-1の血中濃度を上昇させることが知られています [14]

※IGF-1について詳しく知りたい方はこちら:オートファジー:古来伝わる聖なる儀式「断食」の科学的論考 Vol.2

セブンスデー・アドベンティスト派の菜食主義者

アドベンティスト派の信者は、カリフォルニア州ロマリンダの住民などで知られ、他の住民より男性で7.3歳、女性で4.4歳も長寿です。

彼らの特徴は、自分の身体を「礼拝堂」のように扱い、聖書の教え(創世記1.29)に基づいて植物を食べることにあります。

彼ら73,000人を対象とした大規模研究では、雑食の人に比べて死亡率が低かったことが明らかになっています [16]

しかし重要なのは、彼らの多くが定期的な運動を行い、飲酒・喫煙をする人が誰一人としていない、という点です。

また、家族やコミュニティに対する強い愛着も持っています。

一方、最新の調査では、彼らの中でもヴィーガンのBMIは24.1、ベジタリアンは「過体重」とされる26に達していました [18]

これは、たとえ菜食であっても、健康維持に適切な量よりも多くのエネルギーを摂取している可能性を示唆しています。

沖縄の百寿者の若かりし頃のBMIが「21」ほどであったことを考えると、エネルギー過剰は老化を促進する大きな要因といえます。

狩猟採集の生活様式こそが答えなのか?

「パレオダイエット(旧石器時代の食事)」を支持する人たちは、農耕以前の肉、魚、野菜を中心とした食生活こそがヒト本来の姿だといいます。

しかし、この仮説には疑問が残ります。

歴史上、スー族やブラックフット族のような狩猟民族が、野生動物から得た健康的な肉を食べて多量の運動をしていたにもかかわらず、90歳まで生きたという記録はほとんどありません。

一方、沖縄やサルディーニャの住人は、近代医療がない時代でも健康的な90〜100歳が現れていました。

ここで注目すべきは、動物性たんぱく質(特にメチオニン、ロイシンなどの必須アミノ酸)の過剰摂取が、長寿を制御する「mTOR」というスイッチを押し続け、老化を早める可能性があるという近年の知見です [19]

どうやら、ただプラントベース(植物性)の食事にするだけでは、センテナリアンにはなれそうもありませんね。

そして、本稿に挙げられていない「百寿者の要件」がもう一つあります。

そう、その通りです。

「便秘症かどうか」ですよね!

最近の研究では、腸内細菌が生み出す「短鎖脂肪酸」などが長寿に深く関わっていることがわかってきています [20]

機能性医学のリーダーであるアメリカ・クリーブランド・クリニック機能性医学センターのマーク・ハイマン(Mark Hyman)は、腸内の衛生状態が老化の鍵を握ると名言しています。

食事法に加えて、この「お腹のスッキリ感」をミックスして調査したら、どんな面白い結果が出るでしょうね。

あなたも、明日から「何を食べるか」だけでなく、「どう出すか」「どう笑うか」をセットで意識してみませんか?

 

神は言われた。

“ 見よ、

全地に生える、

種をもつ草と種をもつ実をつける木を、

すべてあなたたちに与えよう。

それがあなたたちの食べ物となる。”

創世記(1.29);


 

References

  1. Anjana, R. M., et al. (2017). Prevalence of diabetes and prediabetes in 15 states of India: results from the ICMR-INDIAB population-based cross-sectional study. The Lancet Diabetes & Endocrinology, 5(8), 585-596.
  2. Craig, W. J., & Mangels, A. R. (2009). Position of the American Dietetic Association: vegetarian diets. Journal of the American Dietetic Association, 109(7), 1266-1282.
  3. American Dietetic Association. (2003). Position of the American Dietetic Association and Dietitians of Canada: vegetarian diets. Journal of the American Dietetic Association, 103(6), 748-765.
  4. Key, T. J., et al. (1999). Mortality in vegetarians and nonvegetarians: detailed findings from a collaborative analysis of 5 prospective studies. The American Journal of Clinical Nutrition, 70(3), 516S-524S.
  5. Kwok, C. S., et al. (2014). Vegetarian diet, Seventh Day Adventists and risk of cardiovascular mortality: a systematic review and meta-analysis. International Journal of Cardiology, 176(3), 680-686.
  6. Key, T. J., et al. (2009). Mortality in British vegetarians: results from the European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition (EPIC-Oxford). The American Journal of Clinical Nutrition, 89(5), 1613S-1619S.
  7. Appleby, P. N., et al. (2016). Mortality in vegetarians and comparable nonvegetarians in the United Kingdom. The American Journal of Clinical Nutrition, 103(1), 218-230.
  8. Key, T. J., & Davey, G. K. (1996). Prevalence of obesity is low in people who do not eat meat. BMJ, 313(7061), 816-817.
  9. Appel, L. J., et al. (2006). Dietary approaches to prevent and treat hypertension: a scientific statement from the American Heart Association. Hypertension, 47(2), 296-308.
  10. Wang, F., et al. (2015). Effects of vegetarian diets on blood lipids: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Journal of the American Heart Association, 4(10), e002408.
  11. Key, T. J., et al. (2014). Cancer in British vegetarians: updated analyses of 4998 incident cancers in a cohort of 32,491 meat eaters, 8612 fish eaters, 18,298 vegetarians, and 2246 vegans. The American Journal of Clinical Nutrition, 100(suppl_1), 378S-385S.
  12. Penniecook-Sawyers, J. A., et al. (2016). Vegetarian dietary patterns and the risk of breast cancer in a low-risk population. The British Journal of Nutrition, 115(10), 1790-1797.
  13. Tantamango-Bartley, Y., et al. (2016). Are strict vegetarians protected against prostate cancer? The American Journal of Clinical Nutrition, 103(1), 153-160.
  14. Heaney, R. P., et al. (1999). Dietary changes favorably affect bone remodeling in older adults. Journal of the American Dietetic Association, 99(10), 1228-1233.
  15. Orlich, M. J., et al. (2013). Vegetarian dietary patterns and mortality in Adventist Health Study 2. JAMA Internal Medicine, 173(13), 1230-1238.
  16. Orlich, M. J., et al. (2015). Vegetarian dietary patterns and the risk of colorectal cancers. JAMA Internal Medicine, 175(5), 767-776.
  17. Orlich, M. J., & Fraser, G. E. (2014). Vegetarian diets in the Adventist Health Study 2: a review of initial published findings. The American Journal of Clinical Nutrition, 100(suppl_1), 353S-358S.
  18. Longo, V. D., & Anderson, R. M. (2022). Nutrition, longevity and disease: From molecular mechanisms to clinical practice. Cell, 185(9), 1455-1470. (最新知見:タンパク質摂取制限と寿命)
  19. Satija, A., & Hu, F. B. (2018). Plant-based diets and cardiovascular health. Trends in Cardiovascular Medicine, 28(7), 437-441. (最新知見:植物性食品の質の影響)
  20. Ghosh, T. S., et al. (2020). Mediterranean diet intervention alters the gut microbiome in older people reducing frailty and improving health status: the NU-AGE 1-year dietary intervention across five European countries. Gut, 69(7), 1218-1228. (最新知見:腸内細菌と長寿)
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