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⒓ 野菜がグルマンディーズの主役です

2025.05.23

だれかを食事に招くということは、その人が自分の家にいる間じゅうその幸福を引き受けているということである

── ジャン・アンテルム・ブリア=サヴァラン

Jean Anthelme Brillat-Savarin

グルマンディーズ(Gourmandise)は、ブリア=サヴァランの美食論の中心となるキーワードで、彼はこのように定義しています。

グルマンディーズ(美食愛)とは、味覚を悦ばせるものを、情熱的に、理知的に、常習的に愛好する行為をいう。

暴飲暴食はグルマンディーズの敵である。

無闇に食べ過ぎたり酒に酔い潰れたりする人たちは、グルマン(美食家、すなわちグルマンディーズを実践する人)の名簿からその名を抹消される。

グルマンディーズには、フリアンディーズ(甘いもの好き)が含まれる。

フリアンディーズとは、同じく美食を愛するが量は少なくてよく、おいしいものを少しだけ食べること、また、ジャムやお菓子など甘いものが大好きなことをいう。

これは女性または女性に似た男性のための、変形版グルマンディーズといえばよいだろうか。

どのような観点から見ても、グルマンディーズは賞賛され、奨励されるにふさわしいものである。

肉体的に言えば、それは消化作用に関わる諸器官が完全に健康な状態であることの証左であり、結果である。

精神的に言えば、それは造物主の命令に絶対に服従することである。

造物主はわたしたちに、生きるために食うことを課し、そのために食欲をもって誘い、美味をもって支え、快楽をもって報いているのだから。

野菜は60兆個の細胞と100兆個のマイクロバイオームの味方

 

あなたが最高のグルマンディーズ(美食愛)をもって、ホストを食事に招いたということは、生物学的には、ホスト1人あたり60兆個の細胞と、100兆個のマイクロバイオーム(腸内細菌)の幸福をも引き受けるという意味です。

 

地球の46億年の歴史のなかで、41億年目まで地球に土はありませんでした。

今から5億年前に植物が上陸したことで、緑と土に覆われた大地が誕生したのです。

そしてそれ以降、生物はみな、元をたどれば栄養分を土から得てきたわけです。

さらに土に育った野菜が、多くの生き物に恩恵を与えているのです。 [1]

西医学研究所の所長を務めた樫尾太郎(医師・医学博士 東京大学医学部卒)は、西医学健康法が推奨する「生野菜食」には、以下の効用があると自著に記し、こう締めくくっています。

生野菜食は、天地を食べることである

⑴ 太陽光線のエネルギーを利用できる

⑵ 大地の栄養分を十分利用できる

⑶ ビタミンを十分に利用できる

⑷ 食塩の含有量が少ない

⑸ アルカリ性食品が摂取できる

⑹ タンパク質の含有量が少ない

⑺ タンパク質の需要量が少なくてすむ

⑻ 水分の供給が少なくてすむ

⑼ 触媒作用の強い酵素が摂取できる

⑽ 生野菜が互いに持っている栄養状の欠陥を補い合うことができる

⑾ 豊満価が高い

⑿ 腸の活動を鼓舞する

⒀ 細胞が一新される

⒁ グローミュー(動静脈吻合管)を賦活し補修し強化する

⒂ 有機蓚酸を供給する

植物は生命の次元を超えた存在 ──「4次元」の独立栄養体

 

海の中で発生した生命体は、植物と動物に大別できますが、植物は「4次元の世界」、動物は「3次元の世界」を生きています。

生命体としての次元は植物の方が断然上で、動物は植物に養ってもらっているのです。

3次元の世界とは、縦・横・高さの3つの次元のいわばキューブの空間です。

わたしたちは眼に見えるものだけが存在していると思っていますが、眼を通して脳が認識できる世界とは本当に限られた世界で、実際には今わたしたちが生きている世界を外側から眼に見えない広大な世界が包んでいるのです。

実はここに生命エネルギーの根元が存在しています。

植物が4次元の世界で生きているというのは、植物は葉緑素を使って太陽光のエネルギーを活用して、炭水化物(糖質)をつくっているということです。

この世界の根源は、H2OC─水素と酸素と炭素ですが、植物は太陽エネルギーを用いて水をHとOに分解します。

分子を2つに割って、その間にCとHを取り込んで炭水化物を作るわけです。

植物はこれができる。

CHOを作ることができる能力を持った生き物が植物で、動物にはそれができません。

動物は、植物がつくった炭水化物を自分の栄養として身体の中に取り込み、細胞中のミトコンドリアで分解し、エネルギーを取り出しているのです。

これを「従属栄養」といいます。

自分で作ることができる植物は「独立栄養」といって、自分だけで生きていけるのです。

また近年の多くの研究においても、その効能が裏づけられています。

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食物繊維は腸内細菌のごちそうである

 

食物繊維は、便秘の改善どころじゃない! 

というのは、前出のロバート・H・ラスティグ博士です。

⑴ 血糖値を下げ、脂肪を作らない

⑵ 悪玉コレステロールのレベルを下げる

⑶ 早く満腹感を感じさせる

⑷ 食事性脂肪の吸収を遅くする

 

食物繊維は、肥満や生活習慣病の予防・改善には最強の栄養素だということです。

ただし〝生菜食・まるごと食べる〞ことが必須だとも言及しています。

魅惑的な図書館(ロングルーム)で知られる、アイルランドの首都ダブリンにあるトリニティ・カレッジの教授デニス・バーキット博士は、食物繊維研究の権威で、一九九三年にノーベル賞に次ぐ、世界で最も価値のあるバウアー賞を受賞しています。

バーキット博士は、食物繊維は、たとえ消化されなくても、健康上きわめて重要であると断言し次のように述べています。

食物繊維は、腸管内のものを移動させるために、水を体から腸に引き寄せることができる。

また、この消化されない食物繊維は、腸までなんとかたどり着いた発ガン物質かもしれないものを、両面粘着テープのように集めることもしてくれる。

もしわたしたちが食物繊維を十分にとっていなければ、便秘による病気を引き起こしやすくなります。

博士によれば、その病気とは、大腸ガン、憩室症、痔、静脈瘤などです。

食物繊維は、植物性食品の中だけに含まれています。植物の細胞壁に剛性を与えているこの物質は、何千もの異なった化学物質が含まれていますが、ほとんどはきわめて複雑な炭水化物の分子でできています。

レジスタントスターチが導く長寿と疾病予防のヒント

 

健康という意味では、食物繊維を多く摂ることは、直腸ガンや結腸ガンの罹患率が低いことときわめて深く関係しており、血中コレステロール値が低いこととも関係しています。

また、植物性タンパク質の摂取量が多いことと、身長や体重が増えることとは密接に関係していることが明らかにされています。

未熟なトロピカルフルーツである、まだ青いバナナやマンゴー、パパイヤは糖(果糖)をあまり含んでおらず、代わりにレジスタントスターチ(難消化性でん粉)が豊富です。

わたしたちヒトはそれを分解する酵素を持っていませんが、マイクロバイオームが好んで食べます。

アボカドは、糖をまったく含まず、良質な脂肪と可溶性繊維でできており、減量と脂溶性ビタミンや抗酸化物質の吸収に役立ちます。

メキシコ北部に住むタラウマラ族インディアンや、一九九〇年にスウェーデンの研究者スタファン・リンデベリ(Stefan Lindberg)の研究対象となったパプアニューギニアの小島で、小さな農業共同体を作って暮らすキタバ人、「ブルーゾーン」と総称される長寿地域─イタリア・サルディニア島、日本・沖縄、カリフォルニア・ロマリンダ、コスタリカ・ニコヤ半島、ギリシャ・イカリア島など─で暮らす人々が食べている複合炭水化物の大半はレジスタントスターチで、カロリーをほとんどもたらしません。

脂肪として貯蔵されることもありません。

ですから、これらの地域に暮らす人で、心臓病やガンに罹る人はほとんどいないと言われています。

ギリシャのイカリア島は、90代の割合が世界一高い地域として知られています。

そしてなんと、島に暮らす人の3人に1人は、心身ともに元気に100歳を迎えるそうです。

ガンの発症率も世界平均より20%低く、心臓病は平均値の半数、認知症に至っては、ほぼゼロを誇っています。

レジスタントスターチはでん粉(スターチ)の一種で、胃腸管ではトウモロコシ、米、小麦その他の典型的なでん粉や糖とは異なる振る舞いをします。

つまり、あっという間にグルコース(血糖)に変換されてエネルギーとして燃焼されるのです。

沖縄人のダイジョ(ヤムイモの一種)、キタバ人のタロイモやプランテインバナナ(食用バナナ)、その他のレジスタントスターチは、小腸を素通りするのです。

ですから糖分として吸収されて、インスリン値を急上昇させることがありません。

マイクロバイオームはレジスタントスターチをむさぼり食べて繁殖し、一方でそれを酢酸塩、プロピオン塩酸エステル、酪酸塩エステルなどの短鎖脂肪酸に変換します。

短鎖脂肪酸は大腸の粘膜細胞のエネルギー源であり、大腸の粘膜にあるセンサーを刺激して腸管の蠕動運動を促進します。

また、小腸や大腸の腸管上皮細胞の増殖を促すことも報告されています。

動物性脂肪の摂り過ぎは、腸と脳の間の反応を鈍らせ、満腹に対する感覚が失われることが解っています。

高タンパク・高脂肪・高炭水化物食の人々を苦しめる「強い食欲」は、魚介類をタンパク源にしていたり、野菜やサツマイモ、キクイモなどの塊根からレジスタントスターチを摂っている人には起こりません。

 

大豆製品と植物エストロゲンのパワーを見直す

 

乳製品を自身の食習慣から排除して、乳ガンを寛解させたジェイン・プラント博士は、乳製品から「大豆製品」へ切り替えるのが有効だと著書に記しています。

大豆は、この世に存在する食品のなかでも、もっとも栄養価の高いもののひとつです。

穀物と豆類を主要な食物 ─― 玄米+納豆+味噌汁は最高の組み合わせ ─― にすれば、ヒトが必要とする20種類のアミノ酸(タンパク質)をすべて摂ることができます。

豆乳や豆腐、納豆、味噌などの大豆製品は、女性を乳ガンから守る「イソフラボン(植物性エストロゲン)」を含んでいます。

植物性エストロゲンのひとつである「ゲニステイン」は、抗血管新生作用 ―─ 血管新生を抑えることによって、ガンの成長を抑制する ―─ などの面で乳ガンを予防します。[2]

ゲニステインには、フリーラジカルを除去する抗酸化酵素の働きを活性化させ、強力な抗ガン作用を発揮するなど、大豆あるいは大豆製品にはガンの成長を抑える多くの作用があることも示されています。

さらに大豆には、エストロゲンとプロゲステロン様の作用を示す植物ホルモンが含まれていて、更年期障害を抑制する力があることも覚えておいてください。

エストロゲンの減少は、肌の健康(コラーゲン)に影響することはすでに取り上げましたが、通常これが不足すると、腸内細菌が大豆イソフラボンから「エクオール」という物質を産生し、エストロゲンの代わりの機能を果たします。

ところが残念なことに、日本人の約43%は、「エクオール産生菌」を十分に持っていないのです。

高齢になっても肌がキレイな人は、この菌を保有している2人に1人のラッキーな人なのかもしれませんね。

しかしこのエクオールという物質は、1〜2日で体外に排出されて、蓄積することができません。

お肌が気になる方は、こまめに大豆製品を摂ることをお勧めします。

なかには〝大豆の植物エストロゲンを摂ると、男性が女性化するのではないか?〞という人がいます。

これに関しては、膨大な研究が行われ、そのようなエビデンス(科学的証拠)はまったくないことが解っています。[3]

ただし、輸入大豆の大半は、遺伝子組み換え(GMO)が行われています。

ラベルをよく見て、国産の有機栽培大豆からつくられた製品だけを購入することをお勧めします。

デトックスの鍵を握るコリアンダーとファイトケミカル

 

コリアンダーは、苦手だという人も多い野菜ですが、様々な健康メリットがあります。

コリアンダーの葉は、有害な重金属(ヒ素、カドミウム、鉛、水銀など)を結びつけて体外に排出させるのに役立つことが研究によって裏付けられています。

有害重金属は、アルツハイマー病のリスクと密接に関与していると言われています。

また、コリアンダーの葉には、強力な抗炎症、防腐、抗真菌などの作用がある他、ケルセチンというファイトケミカルが豊富で抜群の抗酸化作用を発揮して、血管系を守り、心臓病や脳梗塞、さらに関節炎などのリスクを抑えてくれます。

さらに、ビタミンB群の宝庫で、ビタミンC、ビタミンK、そしてカリウム、鉄、マグネシウム、マンガン、リン、セレン(セレニウム)、亜鉛などのミネラルも豊富で、免疫力や精力アップ、呼吸器系、消化器系、骨格系、内分泌系など、体内のあらゆる機能を正常に保ち、生理痛の軽減やアルツハイマー病の予防にも効果的だといいます。

ちなみに、セレンは、とくにビタミンE ─― アスパラガスやセロリ、ケール、キウイなどに多く含まれる ─― と一緒に摂ると効果が大きく、抗体産生を30倍にも高め、免疫系を活性化させると報告されています。[4]

がん細胞に対抗する“緑の化学兵器”サルベストロール

 

植物のみに含まれる「サルベストロール」という物質は、抗酸化、抗カビ抗細菌のはたらきから、近年ひそかに注目されています。

根菜など地中に育つ野菜にはあまり見られず、地上の野菜と果物に多く含まれることが分かっています。

特にストロベリー、ラズベリー、ブルーベリーといったベリー系とリンゴや梨などは多量にサルベストロールを含有しています。

しかし、無農薬有機栽培の作物にしかみられないということです。

一九九七年に英国人科学者のゲリー・ポッター(Gerry Potter)教授とダン・バーク(Dan Burke)教授の研究では以下のように報告されています。

ガン細胞は普通の細胞にはない独自の「CYP1B1」という酵素を持っているが、この酵素はサルベストロールの化学構造を変化させ、ガン細胞を殺す物質へと変身させる。

つまり、サルベストロールは、ガンが持つ酵素と反応して、正常細胞にはまったく無害なまま、強力な抗ガン物質に変化するということです。

この研究はその後、ハーバード大学においても確認されています。

マイクロバイオータのための「真の食物繊維」とは?

 

米国スタンフォード大学スクール・オブ・メディスン微生物学・免疫学准教授のジャスティン・ソネンバーグ(Justin Sonnenberg)博士とエリカ夫妻は、著書『腸科学・健康な人生を支える細菌の育て方』(二〇一六年 早川書房)の中で、現状の食習慣に皮肉を込めて次のように記しています。

…食物繊維という不正確な用語より、マイクロバイオータが食べる炭水化物を意味する「Microbiota Accessible Carbonhydrates(MAC)」を使う方が好ましい。

食物繊維にふくまれるこの炭水化物なら腸内の細菌の食べ物になる。

マックをたくさん食べれば、マイクロバイオータに栄養を届け、腸内細菌の生存を助け、この細菌集団の多様性を改善できる。

そのためには、工業化された現代社会の食物繊維に乏しい食事習慣から大きく転換しなければならない。

わが家では、冗談で〝ビッグマック・ダイエット〞と呼ぶ食事を実践している。

この食事は、果物、野菜、豆類、未精製の全粒穀物の複合炭水化物が豊富で、腸内マイクロバイオータを多様化し、その状態を維持するようにデザインされている。

なかなかウィットが効いていますね!

ヴィリディタス── 生命力あふれる野菜を主役に

 

ダイエットを含め、医食同源の観点からすれば、野菜が、食事の主役なのです。

まさに、ヴィリディタス(Viriditas緑したたる活力)。

しかし、暴飲暴食などが原因で腸壁を傷めている人には、食物繊維が害となることがあります。

このような人には「青汁」がおすすめです。

 

チャンスは、備えあるところに訪れる 

── ルイ・パスツール(Louis Pasteur)

 フランスの生化学者・細菌学者。「科学には国境はないが、科学者には祖国がある」という言葉で知られる。王立協会外国人会員。ロベルト・コッホと共に「近代細菌学の開祖」とされる。


 

References

 

1. The Methuselah Formula: The Key to Eternal Youth, by Johannes Von Buttlar

2. Greenwald P. Chemoprevention of cancer. Scientific American, Special issue. What you need to know about cancer, September 1996; 275, 3, 96-99.

3. Kurzer MS, Xu X. Dietary phytoestrogens. Annu Rev Nutr 1999; 17:353-381.

4. Spallholz JE, Stewart JR. Advances in the role of minerals in immunobiology. Biol Trace Elem Res 1989; 19;129-151.

 

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