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⒑ 草食動物が獣肉や超加工食品を食べる

2025.05.23

日本人は“草食動物”として進化してきた
 ―― 腸の長さと消化能力が語る身体の適性

 

古来日本人は「草食動物」で、欧米人の腸の長さがおよそ2・5メートルなのに対して日本人は約7メートル、3倍も長いということをご存知ですか?

これはもちろん、豊富に摂取された食物繊維を腸内細菌が分解(醗酵)させるのに必要な長さだと考えることができます。

さらに、欧米人と日本人では〝消化酵素のタイプや強度の違い〞もあります。

つまり、〝消化器とその消化能力との間で不適合が生じ、さらに便秘が大きく影響している〞わけです。

草食動物が、これまた日本人には不適切な「植物油」を使って「肉類」を食べ、さらに全人類に不適切ないくつもの化学合成物質が含まれた超加工食品を食べている状況なのです。

獣肉と植物油、そして超加工食品の急増
 ―― 食の欧米化がもたらす消化の不調と疾病リスク

 

昭和35(一九六〇)年度と令和元(二〇一九)年度の1人当たりの消費量を比較すると、肉(牛肉・豚肉・鶏肉)の消費量は約10倍に激増しています。

日本人の肉類の摂取量は、明らかに欧米人よりも少ないのですが、日本人は肉類を消化吸収しづらい体質であることを自覚する必要があります。

見かけは西洋化しても、人体は古来の日本人そのもの、つまり草食動物です。

進化には、途方もない年月が必要なのです。

 

「死因の2割は“食事”だったという衝撃
― 『ランセット』が示す世界的な食の危機

 

これまで述べてきたように、心不全や脳卒中、そしてガンなどの疾患は、動物性タンパク質を腸内細菌が腐敗醗酵させることで生じる酸性腐敗便、そしてさらにその腐敗産物であるタンパク性アミン類やTMAO、その他の有害物質が全身循環することで引き起こされる可能性が高いと考えられるのです。

二〇一九年、権威ある医学雑誌『ランセット(The Lancet)』に〝全世界の死亡者の死因の2割は、単なる不健康な食事である〞という驚くべき研究結果が掲載されました。[1]

実は、喫煙や事故あるいは環境要因によるものよりも、食べ物が原因でより多くの人が亡くなっているのです。

 

世界最多の食品添加物を持つ国、日本
 ―― 超加工食品が主食となった国の実態

 

超加工食品が、マイクロバイオーム(ヒトの体に共生する微生物の総体)に与える影響に関する専門家であるロンドン大学キングス・カレッジ遺伝疫学教授ティム・スペクター(Tim Spector)教授とクリス・ファン・トゥルケン(Chris van Tulleken )博士によると、アメリカでは、現在、人々の摂取カロリーの60%以上が、イギリスでは、ヨーロッパで最も高い57%が、超加工食品です。

認可された食品添加物を英語で「Food additive」と言いますが、フランスでは32種類、イギリスが21種類であるのに対して、日本には1500種以上の食品添加物があります。

日本国内の超加工食品が占める消費カロリーのデータは不明ですが、異常に多い食品添加物の種類やファストフードやコンビニの普及度を考慮すれば日本は、フランスやイギリスよりも遥かに消費している状況だと容易に推測されます。

あらかじめお断りしておきますが、本書は〝食品添加物のすべてが悪い〞というお話しではありません。

豆腐は大豆を搾った豆乳を「にがり(塩化マグネシウム)」で固めてつくります。

この「にがり」は添加物そのものですし、お饅頭のふくらし粉として使われる「重曹(重炭酸ナトリウム)」も添加物で、どちらも健康効果が証明された物質です。

問題視されているのは、何種類もの化学合成物質を添加した不自然な食品なのです。

肥満、Ⅱ型糖尿病、心血管系疾患やガンなどの疾患は、世界中で、そして日本でも驚く速さで増加していますが、工業的に加工された食品こそが、その主な原因であると多くの研究者や食品問題活動家が指摘しています。

食品添加物とは

 

食品添加物は食品の一部として添加されるものであるため、そもそも急性毒性などによって健康被害を引き起こすような危険なものであってはなりません。

しかし、過去には、当時指定添加物であった甘味料ズルチンによる食中毒の事例がありました。

その後、ズルチンは、同じく甘味料の一種であるチクロとともに、発ガン性や催奇形性の疑いからアメリカや日本で使用が禁止されています(チクロについては、現在もEUや中国などで使用されています)。

近年では、このような急性毒性的な事例が国内で報告されることは、ほとんどなくなりました。

一方で、慢性毒性についても、多くの食品添加物の推定摂取量は、それぞれの許容摂取量を大きく下回っており、データ上は特に問題のない状況と考えられています。

しかしながら、合成着色料の中には、発ガン性や催奇形性の疑いにより使用が禁止されたものも多くあります。

また、世界各国における安全性の評価や規制が異なるなど、未解明な点が多いのも事実です。

タール系の色素の多くは、指定添加物から削除(使用禁止)されています(例:食用赤色1号、赤色4号、赤色5号、紫色1号、黄色1号、緑色1号など)。

しかし国内では、赤色2号(氷菓、清涼飲料水など)、赤色3号(菓子類、清涼飲料水、かまぼこなど)、赤色102号(漬物、たらこなど)、赤色104号、赤色105号(かまぼこ、ソーセージ、でんぶ、菓子など)、赤色106号(ハム、ソーセージ、福神漬け、味噌漬けなど)、緑色1号、青色1号(菓子類、清涼飲料水など)が現在も使用されています。

これらの多くは、発ガン性の疑いにより欧米では使用が禁止されているものです。

また、ハム、ウィンナー、鯨肉、ベーコン、魚肉ソーセージ、イクラ、たらこなどの発色剤として使用されることのある亜硝酸ナトリウムは、胃などの酸性下で第二級アミンと結合し、発ガン物質であるニトロソアミンを生成することがあります。

野菜などに含まれる硝酸塩(市販のミネラルウォーターにも含まれる場合があります)も、消化器官内で亜硝酸塩に変化し、ニトロソアミンを生成する可能性があります。

しかし、野菜の摂取を避けることは望ましくないため、明らかに含有している食品添加物からの摂取は、極力控えるべきと考えられます。

臭素酸カリウムは品質改良剤としてパンや魚肉練り製品に使用されていましたが、発ガン性の疑いから、現在では魚肉練り製品には使用されていません。

ただし、パンについては、食感の改良に不可欠であり、高温で加熱することで検出されなくなることなどを理由に、現在でも使用されています。

 

見えないリスク:ポストハーベスト農薬
 ―― 表示義務の曖昧さと、果肉への浸透

 

一方で、農薬の項でも述べたように、防ばい剤として使用されるポストハーベスト農薬は、日本では〝諸般の事情(政治問題)〞により食品添加物に分類されています。

たとえば、OPP(オルトフェニルフェノール)は輸入されたレモン、グレープフルーツ、オレンジなどの柑橘類に使用されており、TBZ(チアベンダゾール)は同様に輸入された柑橘類やバナナに使用されています。

また、イマザリルは輸入されたバナナ、ライチ、マンゴスチン、レモンなどに使用されています。

TBZはワックスと混合されて使用されるため、皮に残留しやすく、OPPやイマザリルは浸透性があるため、皮だけでなく果肉にも残留する可能性があります(皮をむいて食べても安全とは限りません)。

このようなポストハーベスト農薬が使用された果物には、「イマザリルを使用」などの表示が義務付けられており、食品の安全性については消費者自身の判断に委ねられています(しかし、実際には表示をしていない売り場も多数見受けられます)。

ここで、ポストハーベスト農薬に関する諸問題について詳しく考えてみたいと思います。

日本では、上述のようにポストハーベスト農薬の使用は禁止されています。

というよりも、農作物の収穫後に新たな農薬を使用して品質を維持するのではなく、品質が劣化する前に流通・消費するという考え方が原則となっています(これは鮮魚などの生ものを好む食文化の影響かもしれません)。

しかし、広大な国土を持つアメリカなどでは、穀類や果実類などを地域間で輸送・保存するために、長時間の輸送や長期保存が必要です。

そのため、その間における品質劣化を防ぐ目的で、殺菌剤や防ばい剤の使用が必要に応じて行われており、ポストハーベスト農薬の使用が認められています。

さらに、輸出となるとより長時間の輸送と保存が必要になるため、自国内とは異なる、輸出専用のポストハーベスト農薬の使用が求められる場合もあります。

本来であれば、健康への悪影響が懸念されるポストハーベスト農薬に頼るのではなく、保存方法や輸送方法の改善により対応すべきです。

実際、日本国内では防ばい剤を使用できないために、リンゴなどについては保存技術の向上により、一年中入手できるようになっています。

収穫前に使用された農薬とは別に、ポストハーベスト農薬については、世界各国でその対象となる農産物、認可された農薬の種類、残留基準が異なります。

そのため、国際的には「コーデックス委員会」で取りまとめられた残留基準が設定されており、これが輸出国間での共通基準となっています。

そして、その基準が日本国内でも暫定基準として適用されることになります。

一般的に、食料自給率の高い欧米諸国では、ポストハーベスト農薬はあまり自国の問題とはなりません。

しかし、カロリーベースで約40%程度という著しく低い食料自給率の日本においては、さまざまな問題を引き起こす可能性があります。

なお、ポストハーベスト農薬の定義については、コーデックス委員会の示すように「生産、輸送、貯蔵の過程で使用される物質」とされるのが、諸外国における一般的な考え方です。

しかし日本では、収穫前に使用される物質は農林水産省の管轄(農薬取締法)、収穫後は食品として厚生労働省の管轄(食品衛生法)となっており、そのような事情から、農薬であっても食品添加物としての認可や残留基準を設けることで、諸外国で使用されるポストハーベスト農薬への対応がなされています。

このようにして、OPP、TBZ、DP、イマザリルなど◯◯種類の農薬が、食品添加物として認可されているのです。

輸入農産物とポストハーベスト農薬の残留基準に関する問題

 

近年まで問題となっていたのは、輸入農産物に使用されるポストハーベスト農薬やその残留基準が、品目ごと・輸出国ごとに異なって定められていたことです。

そのため、年々増加する輸入農産物に対して国内での食品添加物としての残留基準の設定が追いつかず、基準が定められていない農薬については、その残留量にかかわらず問題なく輸入・販売が認められるという、きわめて不合理な状態がつづいていました。

しかしながら、2006年5月29日に施行された「ポジティブリスト制度」によって、こうした見かけ上の基準の抜けは一応解消されることとなりました。

ただし、その基準の設定においては、従来の残留基準に加えて、前述の緩やかなコーデックス基準や輸出国の基準をそのまま採用し、それにも該当しないものについては一律0.01ppmとするなど、安全性の理念に基づいた運用とは言いがたい側面も見られます。

たとえば、有機リン・有機硫黄系殺虫剤であるマラチオンの残留基準は、以下のように品目によって大きく異なっています。

⑴ 米:0.1ppm

⑵ とうもろこし、白菜、キャベツ:2.0ppm

⑶ ブロッコリーなど:5.0ppm

⑷ クレソンなど:6.0ppm

⑸ 小麦、豆類、アボカド、タマネギ、アスパラガスなど:8.0ppm

⑹ スミチオンについても、0.05ppmから10.0ppm(小麦)までと、品目ごとに幅広い範囲で基準が設定されてい。

また、アメリカなどでジャガイモの発芽防止剤として使用されているカーバメート系除草剤「クロルプロファム」については、トマトやナスなどの多くの野菜類では0.05ppm、セロリは0.1ppm、キウイは1.0ppmとされている一方で、なぜかジャガイモには50ppmという非常に高い残留基準が設けられています。

ジャガイモは病害虫の侵入を防ぐため、生での輸入は認められておりませんが、フライドポテト用や冷凍皮付きポテトなどの加工品としては、残留農薬を含んだまま輸入されています。

さらに、有機リン系殺虫剤であるクロルピリホスの残留基準も品目ごとに異なっており、以下のように設定されています(2005年11月29日 厚生労働省通知より抜粋)。

⑴ ほうれん草、タマネギ、そば:0.01ppm

⑵ セロリ:0.05ppm

⑶ 米、とうもろこし:0.1ppm

⑷ ピーマン、トマト、ニンジン、小麦:0.5ppm

⑸ ブロッコリー、ミカン、リンゴ、チェリー:1.0ppm

⑹ キウイ、ダイコン葉:2.0ppm

⑺ バナナ:3.0ppm

⑻ アスパラガス:5.0ppm

⑼ 茶:10.0ppm

このように、農薬ごとに農産物別の残留基準は網羅的に定められるようになりましたが、安全性という観点からの一貫性はなく、貿易上の力関係やその他の事情が反映されたと考えられる基準も多く含まれております。

食料自給率が約40%と著しく低い日本においては、このような理不尽な残留基準もやむを得ない側面があるのかもしれません。

しかし、プレハーベスト農薬(収穫前に使用される農薬)と異なり、ポストハーベスト農薬は紫外線や植物の代謝によって分解されにくく、農作物に残留しやすい性質があります。

そのため、ポストハーベスト農薬を使用している輸入農産物については、調理前に農薬を洗い落とす処理を行ったり、摂取をできるだけ控えたりする必要があります。

農薬の人体への影響について

 

もともと、クロルピリホスなどの有機リン系化学物質は、第二次世界大戦中に神経ガス(サリンやVXガス)として研究されていた物質です。

これらは体内で酸化されることにより、クロルピリホスオクソンという、元の3,000倍もの神経毒性を持つ物質に変化します。

有機リン系化合物は、神経伝達物質であるアセチルコリンを分解する酵素「アセチルコリンエステラーゼ」の働きを阻害します。

その結果、体内にアセチルコリンが蓄積し、筋肉のけいれんや、重症の場合は死に至る可能性もあります。

また、アセチルコリンエステラーゼ以外の酵素の働きも阻害され、とくに脳内酵素の阻害により、学習障害、記憶障害、うつ症状、視力障害、低体温、筋肉の硬直などが引き起こされます。

有機リン慢性中毒の症状には、自律神経障害や中枢神経・末梢神経の異常、さらには精神障害などが含まれます。

しかしながら、多くの場合、低用量の曝露や摂取では自覚症状が乏しく、有機リン系農薬との関連が見落とされ、自律神経失調症やメニエール症候群、更年期障害、うつ病、パニック障害、不安神経症などと診断されることがあるといわれています。

体内に取り込まれた有機リン系農薬は、「パラオキソナーゼ」という解毒酵素によって分解されますが、この酵素の活性には個人差があり、100人中3〜4人の割合で活性の極めて低い方が存在するとされています。

人種による違いもあり、白人が最も活性が高く、次に黒人、東洋人ではエスキモーが最も低いとされております。

特に、年齢の低い子どもではさらに活性が低いことが指摘されています。

ポストハーベスト農薬の残留によって急性あるいは亜急性の毒性が直ちに発現することは少ないと考えられますが、最大の問題は、慢性的な毒性、低用量による中枢・末梢神経障害やアレルギー疾患、化学物質過敏症などの症状が、従来の毒性評価では見逃されがちであるという点です。

有機リン系農薬「トリクロルホン」を用いたモルモットの実験では、0.03μg/体重kgという極めて微量の投与でアレルギー性結膜炎(スギ花粉症)の症状の悪化が確認され、3μg/体重kgで最大の悪化が見られ、それ以上の投与では症状が軽減する結果となりました。

これは、農薬の用量が増すことで、細胞や組織そのものが損傷し、ヒスタミンなどのアレルギー原因物質の放出が抑制されるためと考えられています。

子どもに忍び寄る農薬とアレルギーの関係
 ―― 微量でも反応する、化学物質過敏症の実態

 

たとえば、体重25kgの子どもが食パン1枚(小麦25g相当)を食べ、小麦に0.1ppmのトリクロルホンが含まれていた場合、その摂取量は0.1μg/kgとなり、アレルギー症状を悪化させる量に相当します。

輸入小麦からは、スミチオン、レルダン、マラソンなどの有機リン系ポストハーベスト農薬が検出されることがあり、それらの総量でリスク評価を行う必要があります。

小麦および玄米に含まれる有機リン系農薬の残留基準には不条理さを感じざるを得ません。

実際、小麦や大豆に対してアレルギーを持つ幼児や子どもたちの中には、ポストハーベスト農薬などの有害化学物質によって症状が悪化しているケースがあるのかもしれません。

また、化学物質過敏症では、さらに少量で症状が現れることもあります。

これらポストハーベスト農薬の諸問題は、その最たるものが「政治問題」です。

自動車などの高い関税措置を逃れるため、その代償に日本国民の健康や生命を売り渡しているということです。

政治家や役人は、アメリカなどの諸外国や製薬業界、食品業界などからの圧力に屈せず、健康や生命に関わる本質的な問題を解決する勇気や胆力と行動力が必要です。

もしそうでないのなら、その存在意義を失うことになるでしょう。


 

References

 

1. GBD 2017 Diet Collaborators, “Health Effects of Dietary Risks in 195 Countries, 1990-2017: A Systematic Analysis for the Global Burden of Disease Study 2017,”The Lancet 393, no.10184 (April 3, 2019): 1958-72.

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