⒍ あらゆる食品に入り込んだ糖質
2025.05.23
目次
世界を支配する食品産業の正体
── 加工食品と巨大企業の知られざる影響力
キングス・カレッジ・ロンドン遺伝疫学教授のティム・スペクター(Tim Spector)—— 英国医科アカデミーフェロー、双子研究の世界的権威であり、個別医療や腸内マイクロバイオームの専門家でもある —— は、著書『Spoon Fed – Why Almost Everything We’ve Been Told About Food Is Wrong』(2021)において、現代の食品業界の害悪を次のように論じています。
(前略)ここで、危険なまでに不正確な食品情報を生み出している最大の元凶に思い至る。
それは食品業界だ。
わたしは研究を通じて、食品業界が驚くほど有害な影響をもたらしていることに気づいた。
最近まで、ほんの一握りの企業が巨大で無尽蔵の財力と力をもっており、あらゆる人々に影響を及ぼしていることをわたしは知らなかった。
現状をより多くの人に知ってほしいということも、この本を書いた目的の一つだ。
これらの企業が、増加する人口を支えるだけの食料を供給できることや、腐敗しにくく日持ちし、食欲をそそる安価な食品を次から次へとつくり出せることは、高く評価すべきだ。
しかし、少数の超大手が、あまりにも巨大な力を急速につけてしまった。
ネスレ社、コカ・コーラ社、ペプシコ社、クラフト社、マース社、ユニリーバ社などの収益は、それぞれ単独で世界の半数以上の国の税収を凌駕する。
食品大手トップ10が、世界中の市販食品の80パーセントを握っている。
各社の二〇一七年の売り上げは平均で年間400億ドルを超え[1]、二〇一八年の利益は総計で1000億ドルを上回った。
こうした世界的コングロマリットは、一九七〇年代に急成長した。
スーパーマーケットや、長期保存が可能な加工食品が登場したことに加え、これらの企業が、特にテレビを通じて家庭にメッセージを送り込めたことがその要因だ。
一九八〇年には加工食品にビタミンを強化する傾向がさらに増加し、低脂肪や低糖や減塩を謳った商品が飛ぶように売れた。
食品業界は小躍りしながら、国の栄養専門委員会のアドバイスに従って低脂肪、低コレステロール、低糖、減塩、高タンパク質の超加工食品、言い換えれば食品のジャンクバージョンを生産したが、その委員会に影響を与えていたのは食品業界だった。
これらの加工食品は、本来の自然な食品より安く生産できるので利益率が高く、品質保持期間も長いため、市場が世界に広がった。
おまけに、今やそれらの企業は、カラフルな「低脂肪」や「ビタミン添加」などの文言に加え、さまざまな健康機能表示を添えることによって、どんな超加工ジャンクフードでも認可され、一般食品に代わる健康的な食品として売り込めるようになった。
たとえば、いかに巧妙なマーケティングによって、人工着色された朝食用シリアル —— おもな原材料が砂糖だったり、マシュマロやチョコレートの塊が入っていたりする —— が、お菓子ではなく子ども用の健康的な食品に見えるように信じ込まされたか(そして今も信じ込まされているか)を見てみるといい。
ヨーグルトは、食品のなかでも特に微生物が豊富で健康によいものだ。
ところが、ほとんどの国ではもはや、超加工食品ではないヨーグルトにはなかなかお目にかかれない。
つまり、余分な砂糖、果肉もどき、人工香料が入った合成代替品である低脂肪ヨーグルトばかりなのだ。
しかもどのヨーグルトのラベルにも、何らかの健康機能が表示されている。
20種類以上の原材料が使われているレンジ調理食品には今や、健康によい低脂肪や減塩といった、実際とは違う表示がなされている。
また、糖尿病を引き起こしかねないスムージーやジュースは、「1日に5皿分の果物や野菜を食べよう」という食事ガイドラインを守るのに有用であるかのように装っている。(後略)
異性化糖と甘味中毒の構造
── トウモロコシ由来の“見えない糖”が引き起こす現代病
異性化糖(ハイフルクトース・コーンシロップ、HFCS High-fructose corn syrup)やショ糖(砂糖の主成分)等の糖質が、世界的な肥満増加の原因だということが解っています。
現在、世界の21億人以上が肥満といわれています。
異性化糖は、日本の食品の原材料名でよく「果糖ブドウ糖液糖」と表記されます。
米国の大規模農家では、遺伝子組み換えのトウモロコシが大量に生産されています。
異性化糖は、トウモロコシの加工過程で生まれる廃棄物から生産されるネバネバしたシロップで、極端に甘ったるく驚くほどの低コストで供給できます。
異性化糖は、トウモロコシでんぷんのコーンスターチを原料にします。
このでんぷん液を酵素でブドウ糖に分解すると、砂糖の7割くらいの甘味になります。
ブドウ糖液を別の酵素で果糖液に変化させ、ブドウ糖と果糖を上手く配合し、砂糖の1・4倍の甘いシロップにします。
焼肉のタレや、ドレッシング、コーラの製造で用いられる手法では、さらに砂糖を加え、甘味を強くするケースもあります。
異性化糖の大量生産技術は一九七〇年代に日本で確立されましたが、現在ではピザ、コールスロー、肉など、考えられるかぎりすべての食品に入り込んでいます。
パンやケーキは焼きたてのようにツヤツヤになり、すべてが甘くなり、賞味期限は数日から数年に延びたのです。
ブドウ糖果糖液糖は、肥満と虫歯の大敵であることは、あなたもよくご存知の通りです。
異性化糖は今日、コンビニやスーパーで売られている様々な超加工食品に使われています。
世界各国でグローバルにビジネスを展開するファストフード各社にとって、賞味期限はコスト上最も重要なファクターです。
異性化糖に加え、魔法の保存料・ソルビン酸カリウムなどの化学添加剤が不可欠です。
そしてまた、「食物繊維を除く」ことも食材を腐らせないための必須事項なのです。
肥満の改善に考え出された「低脂肪(ローファット)」食品には、脂肪の替わりの味覚として異性化糖が使われています。

Hungry woman in pajamas eating sweet cakes at night near refrigerator. Stop diet and gain extra pounds due to high carbs food and unhealthy night eating
食欲ホルモンと糖質依存
── レプチン抵抗性が満腹感を奪う仕組み
一九八〇年代には「低脂肪信仰」が祭り上げられ、売上は世界中で急増していきました。
しかし、低脂肪の流行とともに、欧米ではなだれをうったように肥満が増加していったのです。
果糖は、病原性の腸内細菌のエサになるばかりか、それによって健康な腸内細菌のバランスが崩されます。
そして、インスリンの生成を刺激せずに、ただちに肝臓で処理され、それが、食欲抑制に関係するもうひとつの重要なホルモンであるレプチン─一九九五年、ニューヨークのロックフェラー大学の遺伝学者ジェフリー・フリードマン(Jeffrey M. Friedman)によって発見された食欲を抑制するホルモン ——
Leptinはギリシャ語の「痩せる」に由来する —— の生成を低下させてしまうのです。
これをレプチン抵抗性といいます。
つまり、満腹感を覚えないため、食べつづけてしまうということです。
糖質は非常に甘く、快楽ですが、例外なく脂質に代謝されます。
糖質の悦楽に脳は乗っ取られ、体は食べるのを止められなくなるのです。
果糖がもたらす肝障害と糖尿病リスク
── 「天然由来」でも侮れない果糖の影響
「糖質」と「糖類」 ? ちょっと、よくわかりませんよね。
糖は、果糖やブドウ糖が含まれる「単糖類」、ショ糖や麦芽糖が含まれる「二糖類」、デンプンなどが含まれる「多糖類」に分類されます。
糖類はそのうちの単糖類と二糖類を含んだ名称で、糖質は単糖類、二糖類、多糖類のすべてを含む総称です。
よく「糖質ゼロ」や「糖類ゼロ」などの表示を目にしますが、当然ながら、糖類ゼロよりも糖質ゼロの方が様々な糖の摂取を抑えられるということです。
果糖は、果物の中に自然に存在します。
ですから、大昔からわたしたちの先祖も果物を食べていました。
しかしそれは、果物の採れる一定の時季に限られていました。
ところが現代人はどうでしょうか。
実は、わたしたちが消費する果糖の大部分は加工食品や清涼飲料水から、それも一年中摂取しているのです。
世界で最大のⅡ型糖尿病発生率に見舞われているのが、サウジアラビアとマレーシアであるのもうなずけます。
どちらもイスラム圏の国ですから、お酒は飲まないのですが、その代わりに、清涼飲料水を浴びるように飲んでいます。

Soft drinks and fruit juice mixed with soda high in sugar have a negative effect on physical health
たとえば、よくある350㎖のリンゴジュースは、糖質80㎈で、リンゴの約2倍の糖質です。
果糖のグリセミック指数 (Glycemic Index 食品ごとの血糖値の上昇度合いを間接的に表現する数値でGI値とも表記される) は、天然の糖の中で最も低く、肝臓が果糖の大部分を代謝してしまうため、血糖値やインスリン濃度にすぐには影響しません。
反対に、グラニュー糖や異性化糖は、グルコース(ブドウ糖)が体内を循環し、血糖値をあげてしまうのです。
そして果糖は、肝臓にとって巨大な負荷となり、摂取し過ぎると肝機能障害の原因となり、肝脂肪につながることもあります。
缶コーヒーやスポーツドリンクは、「砂糖のかたまり」です。
スポーツドリンク1本に含まれる糖質の量は約25g。
スティックシュガー(3g)に換算すると、なんと約8本分も含まれ、缶コーヒーでは4〜5本分も含まれているのです。
常飲すれば、糖尿病一直線ですね。
脳と心をむしばむ糖の影響
── 神経伝達物質とメンタルヘルスの関係
わたしたちヒトの脳内では、ホルモンなどのさまざまな神経伝達物質が分泌されています。
中でもドーパミンは「脳内報酬系」、β–エンドルフィンは「脳内麻薬」とよばれ、欲求が満たされたときに分泌され、ヒトに快感を覚えさせます。
糖質は、ドーパミンとβ–エンドルフィンを増強し、その影響が大きければ依存症や中毒症になる可能性が高いといわれています。
つまり「快楽」、これがわたしたちを太らせるメカニズムなのです。
肝臓の周りでは糖質が固まって脂肪となり、Ⅱ型糖尿病を引き起こします。
糖質は衣のように精子を囲い込むため、肥満男性の生殖機能は衰えてしまうのです。

Ein deutscher Nobelpreisträger für Medizin !
Prof. Otto H. Warburg, der Direktor des Kaiser-Wilhelm-Instituts für Zell-Physiologie wurde der Nobelpreis für Medizin von der Nobelstiftung in Stockholm zuerkannt.
Prof. Otto H. Warburg, der deutsche Nobelpreisträger für Medizin, in seinem Laboratorium im Kaiser-Wilhelm Institut in Berlin.
ノーベル生理学・医学賞を受賞したオットー・ワールブルク(Otto Heinrich Warburg)は、一九三〇年代に「ガン細胞の代謝のアキレス腱」を発見しました。
正常細胞と違い、ガン細胞のミトコンドリアはケトンからATP(アデノシン三リン酸)を作ることができません。
またやはり正常細胞と違い、糖を酸化させてATPを作ることもできません。
代わりにガン細胞は、酵母やバクテリアと同じように、糖を発酵させるという非常に非効率な方法に頼っているのです。
そのため、ガン細胞は細胞分裂するためにも、正常細胞に比べて18倍もの糖を必要とします。
それだけではなく、ガン細胞はグルコース(ブドウ糖)よりもフルクトース(果糖)を発酵させることを好むのです。
ガン患者の方は、果糖摂取には十分な注意が必要です。
余談ですが、ワールブルクはユダヤ人でしたが、ナチスの政権下でも研究をつづけることができました。
ヒトラーが喉頭ガンを恐れていたからです。
声が掠れては演説に支障をきたし、ヒトラーの政治生命は危機に陥るであろうことを自覚していたわけです。
ワークブルクは、ガンの研究者だったため、特別扱いだったのです。
人工甘味料が腸を壊す
── 善玉菌の死滅と逆効果のダイエット食品
炭水化物には2種類あります。
精製された「単純炭水化物」と未精製の「複合炭水化物」です。
単純炭水化物は、植物のビタミン、ミネラル、タンパク質、そして食物繊維のほとんどが含まれている外層を取り除くことで得られるデンプン質や糖類のことです。
このタイプの食べ物 —— 砂糖や白米、白い小麦粉など —— には、ごくわずかの栄養素価値しか残されていません。
さらに腸壁にベッタリと付着し、水分を抜き取られ石膏のように固まります。
したがって、精製された白米、白い小麦粉でつくられたパスタなどの麺類や白いパン、砂糖をまぶしたシリアル、キャンディー、そして砂糖を加えた精製飲料などは、できる限り避けるべきなのです。
砂糖はもっとも精製された炭水化物で、砂糖には56もの名前があります。
近年まで日本には、砂糖などの甘味料を使う習慣はなく、カボチャやサツマイモから甘みを得ていました。
憶えておいていただきたい肝心な点は、炭水化物が消化されると、もっとたくさんの糖になるということです。
つまり、茶碗1杯の白米150g、あるいは小さなボウル1杯のコーンフレークが、ティースプーン9杯分の砂糖と同じ効果を与えるのです。
糖と病の終着点:がん・うつ・認知症
── 糖が引き金になる慢性疾患の深層
過剰な糖分摂取は〝子どものキレやすさや、情緒不安定〞の原因となることは、岩手大学の大沢博名誉教授をはじめ、福山平成大学の鈴木雅子客員教授など多くの専門家が警鐘を鳴らしています。
血糖が上昇すると、神経伝達物質セロトニン、エピネフリン、ノルエピネフリン、GABA─ガンマ・アミノ酪酸は、腸内細菌が生成する重要な化学物質で、中枢神経系で神経伝達物質として用いられるアミノ酸であり、神経活動を弱めるため、不安感を抑制し、胃腸障害の発症を防ぐ─ドーパミンがただちに減少します。
ビタミンB複合体など、これらの神経伝達物質を作るのに必要な材料もすぐに枯渇してしまいます。
さらに、細胞内マグネシウムの濃度も下げ、神経系と肝臓の機能も弱めてしまうのです。
高血糖はアルツハイマー病と同様に、うつ病の危険因子(リスクファクター)のひとつです。
かつてはこの2つの疾患は別ものだと考えられていましたが、この考え方は変わってきています。
二〇一〇年に『アーカイブス オブ インターナル メディシン』で、糖尿病の女性がうつ病を発症する確率は、糖尿病でない場合と比べておよそ30%高かったと発表されています。
近年問題視されているのが、脂質と糖質の合成物・リポ多糖(LPS)で、アルツハイマー病やうつ病の「発火装置」として機能しているのではないかと考えられています。
果糖(フルクトース)は、LPSを40%も増加させることが分かっていますが、現在、異性化糖は甘味料全体の40%を占めており、これがうつ病や認知症などの罹患率を大幅に上昇させている要因かもしれないと言われています。
そもそも人間の体は、人工甘味料を消化できません。
人工甘味料にカロリーが無いというのがその理由です。
ですから、長いあいだ、人工甘味料は、体の生理機能への影響という点からは、不活発な成分だと考えられてきました。
ところが、米国デューク大学の研究では、スプレンダ(スクラロース)をわずか一包飲んだだけで通常の小腸内細菌叢の半数が死滅してしまったと報告されています。
スクラロース、サッカリン、アスパルテームその他の非栄養(ノンカロリー)人工甘味料は、腸内の善玉菌を殺す一方で悪玉菌を過剰繁殖させるのです。
悪玉菌が増えると、防衛機構が兵糧を溜め込もうとするので脂肪が蓄積するのです。
皮肉なことに、体重を減らすための商品が、まさにその真逆の働きをするのです。
WHOも重い腰を上げ、二〇二三年にアスパルテームを「発ガンの可能性がある」—— Group2Bに分類しました。
非栄養甘味料は体重を減らしたり維持したりするどころか、むしろ体重増の元凶とする研究結果は相次いでいます。
二〇一三年にフランスの科学者らによる6万6000人を超える女性を対象とした調査では、人工甘味料入りの飲料を摂取した人の方が、糖尿病発症率が2倍を超えて高いことが報告されています。
また、砂糖の200倍の甘さのアスパルテーム(L–フェニルアラニン化合物)には、発ガン、視力低下、内臓異常、うつ症状、てんかん発作、ストレス増加、精子減少、体重漸増、パーキンソン症などの有害性に関する論文も多数あります。
糖分は腸と脳との間に切っても切れない結びつきをつくり上げ、食事を悪習に変えてしまいました。
今日の食べ物には、タバコやアルコールなみの中毒性があります。
しかも誘惑は街中から家庭までそこかしこにあり、規制はなく、とどまることはありません。
自動販売機、カフェ、ファストフード店、スーパーマーケット、コンビニ、映画館、ジム、図書館、プール、遊園地、駅、いたるところに誘惑があります。
糖分は快楽だ
前出のデイヴィッド・ケスラー博士は言います。
食べることは究極の喜びだからね。
一瞬の快楽を与えてくれる。
その快楽に脳が乗っ取られるんだ。[2~4]
References
⒈ Kate Taylor, ‘These three companies control everything you buy’, Business Insider (4 April 2017)
⒉ The Chemical Feast: The Ralph Nader Study Group Report on Food Protection and the Food and Drug Administration, by James S. Turner
⒊ A Chemical Feast, by Harding Le Riche
⒋ Sowing the Wind: Pesticides, meat and the public interest: Preliminary draft, by Harrison Wellford
