⒔ 米国で拡がる、プラントベースの食習慣
2025.05.23
アメリカ国民は事実上、世界で最も食べ過ぎているだけでなく、最も栄養不足であるとよく指摘されます。
日本と比べて感染症の発症率の高いアメリカ人の食習慣 ─― 米国の食事は、気の毒な(SAD)食事と略されます。
Standard American Diet ─―では、当然ながら強靭な免疫系を養うのは困難だと言わざるを得ません。
そんな状況下、ニューヨークを中心とした若者の間では、肉を食べないライフスタイルが広がってきています。
アメリカ人は日本と比べても肉の消費量は2倍以上で、伝統的に肉食で、野菜の消費量は日本をわずかに上回りますが、食生活は偏っています。
その影響でアメリカでは肥満が進行し、7割が太り過ぎで、総人口の4割は心臓疾患(死因の第一位)や糖尿病などの深刻な生活習慣病を併発するという危機的状況です。
また食物アレルギーの問題も大きく、子供の13人に1人が食物アレルギーを抱えています。
患者数は一九九七年から二〇一一年の15年間で1・5倍に増加しているといいます。
こうした肉食による健康問題のほかに、遺伝子組換え飼料、窓のない「ファクトリーファーム」と呼ばれる施設で牛が育てられているという、これまで全く知らなかった事実を白日のもとにした『フード・インク』(二〇〇八年)や『カウスピラシー』(二〇一四年・レオナルド・ディカプリオ(Leonardo Wilhelm DiCaprio)がプロデューサーとして参加)などの畜産ドキュメンタリーは、動物愛護等の影響も大きく作用しているようです。
『ゲームチェンジャー/スポーツ栄養学の真実』(二〇一八年)、クリーブランド・クリニックのエセルスティン博士とT・コリンキャンベル博士の研究をテーマにした映画『フォークス・オーバー・ナイブス』(二〇一一年)などは間違った栄養学から、正しい食事のあり方へ方向転換を促しています。
キャンベル博士が提唱する「プラントベース・ホールフードの食習慣」は、世界一流のアスリートや政治家、医師といった著名人が実践し、目を瞠るような健康改善をしています。
その顕著な例が米国の第42代大統領のビル・クリントン氏です。
クリントン氏は大統領職を2期務めたあと、二〇〇四年と二〇一〇年に心臓発作を起こしています。
1度目の発作のときは、閉塞した心臓の血管の四箇所にバイパス手術を受け、その6年後にはバイパスのうち2本が詰まり、2度目の発作を起こし、ステント治療を受けています。
バイパス手術やステント治療などは対症療法で、一時的な効果しかなく、心臓の血管はいずれ詰まってしまうのです。
クリントン氏は、キャンベル博士の著書を読み、わずか3ヶ月足らずで11キロの減量に成功し、持病の心臓病や健康全般を改善できたと、CNNのインタビュー番組でこの取り組みを披露しています。
こうした意識の変化は「野菜」のイメージを飛躍的にアップさせ、「ホールフーズ・マーケット」といったオーガニック食品スーパーが台頭し、店頭にはオーガニック、ローカル、グルテンフリーといった表示が並び、「ファーム・トゥ・テーブル(農場から食卓へ)」というコンセプトが脚光を浴びています。
どんなスーパーマーケットでも、最もヘルシーな食品売り場とは、丸ごとの果物と野菜を売っているところ、つまり「青果物売り場」です。
サプリメントや健康食品売り場ではありません。
ニューヨークではランチが、「ヘルシーなファストフード」にとって替わっている状況です。さらにはファッションにも影響を与え、ヨーロッパの貴族文化発祥の伝統的価値観によるものから、「SDGs(Sustainable Development Goals・持つづ可能な開発目標)」といった社会倫理的価値観、「心身の美と健康こそクリエイティブ」であるといった、ライフスタイルにおける実質的な価値観などが台頭してきています。
「シーズンド・ヴィーガン」や「スイートグリーン」といったサラダボウルの人気店には、ルルレモンやアンダーアーマーなどアスレジャー、スポーツアパレルに身を包んだジム帰りの健康的でセクシーな男女が立ち寄るのが定着しています。
米国でのこうした動きは、着実に日本国内にも影響を与え、若者のみならず幅広い年代に拡がりをみせています。
美意識のパラダイムシフトともいうべき現象です。
眼に見える美しさは、眼に見えない美しさの表出なのです。

Beautiful girl wipes the sweat after training session.
洗練という意味では、どんなラグジュアリーブランドや理論物理学の数式も、30億年という途方もない時間の中で洗練 ―─ 進化した ―─ された生命のシステムの足元にも及びません。
裸のあなたこそ、洗練の極みなのです。
心身ともに「内側からキレイに健康になる」ことが大切です。
そういえば、筋肉隆々のマッチョなゴリラ。
実は典型的な草食動物です。
たまには昆虫なども食べますが、主食は木の葉です。
しかし驚いたことに、一日に7㎏以上もの脂肪の無い葉を食べながら、消化吸収するカロリーの60〜70%は脂肪由来なのです。
なぜなのでしょうか?
腸内細菌が植物の細胞壁を破壊して発酵させ、燃料として使える形、つまり脂肪主体にして、それを吸収しているからなのです。
ゴリラが食べているのは、結果的に高脂肪食ということになるわけです。
パプアニューギニアの「キタバ人」と同じですね。
馬でさえハンバーガーやステーキを食べて、あの美しい筋肉をつくっているわけではありませんよね。
ほうれん草やケールには、牛ロースよりもカロリーあたり約2倍のタンパク質が含まれていることになるのです。
